【コラム】中銀理事にあるまじき「ユダヤ人の遺伝子」発言-M・リン

ユダヤ人には「特定の遺伝子」があ り、国の知力が移民によって低下する-。ドイツの国力低下をテーマ とする自著のプロモーションでこうした発言をしたドイツ連邦銀行 (中央銀行)のザラツィン理事は、いったい何を考えていたのだろう か。

一種の愛国者、あるいは国と国民の擁護者を気取った理事の態度 はどうでも良いこととしよう。一つ確かなのは、こうした内容の本を 書くことを選び、辞任要求に抗して理事職にとどまることで、ザラツ ィン氏は誇り高きドイツ連銀の信用をおとしめているということだ。

知性とモラルの両面でこれ以上恥をかかないためには、直ちに辞 職して独連銀とウェーバー総裁にかけた迷惑を陳謝するしかない。さ もなければ、自己顕示欲の強い変人と見なされるだろう。

ザラツィン氏は、題名に「ドイツが消える」という意味を冠した 著書を執筆している段階で、その内容が一部の人を激高させると分か っていたに違いない。同氏は、イスラム系は他の移民に比べて欧州社 会に溶け込む上でより多くの問題を抱えていると述べたほか、トルコ やモロッコなどからの移民はドイツの「知力を低下」させているなど と主張した。

これに加え、同氏は独紙ウェルト日曜版のインタビューで、ユダ ヤ人には「特定の遺伝子」があると語った。

計算ずくの発言

当然のことながら、ザラツィン氏には注目が集まった。自著がど のような反響を呼ぶかは想像できただろうから、計算ずくだったのだ ろう。メルケル独首相は同氏の発言を「全く受け入れ難い」と述べ、 連銀に対応を求めた。

辞職の圧力にもかかわらず、ザラツィン理事は居座り続けている。 独連銀の規則を使っての解任は難しいが、ウェーバー総裁も恐らく辞 任を望んでいるだろう。いずれにせよ、ザラツィン氏は連銀の評判を 大きく汚した。

同氏はこれを言論の自由の問題にすり替えようとしているが、全 くの詭弁(きべん)だ。これは尊重と責任の問題であり、この両面で 中銀理事の資格はないと言える。

ユダヤ人の「特定の遺伝子」に関しては、ドイツの政治家や中銀 当局者が論ずべき問題ではない。生物学者や遺伝学者に任せるのが賢 明だ。

ドイツの歴史を振り返れば、同国のいかなる有力者もこの問題に ついてコメントするのは正当化できない。ザラツィン氏がこれに触れ た唯一の動機は世間の注目を集めることだった。

オープンな移民論議を

ある国がどの程度の移民を受け入れる必要があるかという問題や 移民の条件をどうするかを議論すること自体は重要だ。出生率が低い ドイツなどでは、今後さらに多くの移民が必要となる。そして移民が 既存の社会に溶け込めるかという問題が付いてくる。この議論は誠実 かつオープンに進めば進むほど、良いだろう。

移民に関する問題提起自体には何ら問題がない。イスラムの社会 を欧州の従来の社会といかに融合させるかを議論することに異存はな い。

しかし、ザラツィン氏の移民に関する発言はどれも目新しいもの ではない。同様の意見は多くの書物やウェブサイトで見つけられる。

真の愛国者とは

同氏は昨年10月にも、トルコ系やアラブ系の移民の多くは「イ スラム教徒のスカーフを着用する少女をますます増やし続けている」 と発言し、独連銀で一部の責務を解かれる処分を受けていた。同氏は その後、この件で謝罪している。

今回は、その程度では済まないだろう。連銀の責務とは無関係の 扇動的な内容の著書を売り込むために、地位を利用したのだ。辞職す れば、ドイツ社会における中銀の立場を尊重する気持ちを多少なりと も表せるだろう。それこそが真の愛国者がなすべきことだ。(マシュ ー・リン)

(リン氏は、ブルームバーグ・ニュースのコラムニストです。こ のコラムの内容は同氏自身の見解です)