円相場:史上最高値更新は不可避か、年末までに75円も

菅直人首相は対ドルで史上最高値 に接近する円高に対し、「必要なときには断固たる措置を取る」と言明 した。トレーダーらは、円は対ドルですでに年初来8.6%上昇してい るものの、最高値更新は不可避と予想している。

インフレ率を考慮したウエストパック銀行実効為替相場貿易加重 指数によると、円が1990年代半ばの円高水準並みになるには、47%上 昇する必要がある。日本のインフレ率は1998年以来ほぼマイナスだっ た。ドイツ銀行も同様の実効為替相場に基づくと、1995年4月に付け た史上最高値79円75銭に等しくなるためには、円は先週付けた1ド ル=85円22銭から同55円まで上昇する必要があるとしている。

青山学院大学教授の榊原英資元財務官は「実質ベースで、80円を 突破した1995年と比較して円はそれほど強くない」と述べた。さらに 「1995年には日本は危機下にあった。それに比べれば、米景気が失速 しつつあり、国内経済が比較的良好であるという点を考慮すれば、現 状は危機的状況とは呼べないと思う」と指摘した。

15年前と違い、日本は貿易で米国にそれほど大きく依存していな い。財務省によると、日本の輸出に占めるアジア向けの割合が昨年初 めて50%を突破したのに対し、米国向け輸出は16%と、10年前の約 半分の水準となっている。

成長率予想は欧米上回る

日本の経済成長は減速しているものの、米国やユーロ圏の成長率 を上回ると予想されている。ブルームバーグが調査したエコノミスト の予想中央値によると、日本の今年の成長率は3.4%の見通しだが、 米国は3%、ユーロ圏は1.4%となっている。失業率も日本は5.2%と、 主要7カ国で最低にとどまっている。

日本の経常黒字もトレーダーらにとっては好材料だ。貿易赤字の ファイナンスのために外国資本に依存する必要がなく、危機の際の資 本の避難先となっている。日本の7月の貿易黒字額は8042億円と、ブ ルームバーグのエコノミスト24人の予想中央値4463億円を上回った。 ブルームバーグのデータによると、日本の外貨準備高は1兆100億ド ルと、中国の2兆4500億ドルに次いで世界第2位となっている。

伊藤忠商事の中島精也チーフエコノミストは、「日本は引き続き安 定的に経常黒字を稼ぎ出し、金融システムは相対的に痛みが小さい」 と指摘。さらに巨額の対外債権も維持していることから、円は世界景 気の下振れリスクに対するヘッジ目的で選好されやすいと予想する。 同氏は為替介入がなければ円は対ドルで80円を割り込み、史上最高値 を付けても不思議ではない、との見方を示した。

円高に悲鳴

大和総研の牧野潤一シニアエコノミストは、円高で日本の製造業 は投資を控えるため、雇用や家計にも打撃を与える、との見方を示し た。

スズキの鈴木修会長兼社長は26日、円高について「極めて深刻に 受け止めている」と述べ、現政権に対して「日本が沈没しない対策を 立ててから争ってほしい」と強調した。

日本は2004年3月16日を最後に為替介入を実施していない。そ の当時の円相場は109円前後だった。日銀は03年に過去最高となる 20兆4000億円相当の円売り介入を実施した。04年第1四半期の介入 規模は14兆8000億円。04年末時点の円相場は102円63銭。

世界最大の通貨ヘッジファンドであるFXコンセプツ(ニューヨ ーク)で約90億ドルを運用するスコット・エインズベリー氏は、「日 本当局は世界の景気見通しを注視しており、円安を望んでいても実際 は多分そうならないということがわかっている」と述べた。同社は年 末までのドル円相場の見通しについて、1ドル=75-78円と予想して いる。

ドイツ銀の予想

ドイツ銀行のマネジングディレクター兼通貨戦略責任者ビラル・ハ フィーズ氏(ロンドン在勤)は25日のリポートで、円は年末までに対 ドルで1ドル=80円に上昇すると予想し、75円に達する可能性さえあ るとの見方を示した。

1995年以来、日本の消費者物価は月平均で前年比0.1%下落。こ れに対し、米国は2.5%上昇している。

同氏は「日本のデフレと米国のインフレを受け、円の購買力は徐々 に低下している」と指摘。「ドル・円相場に対するわれわれの弱気な見 方に対して違和感はない」と述べた。

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