被爆者のDNA、がん放射線治療のリスク解明の鍵となるか

65年前に広島と長崎に投下された 原爆の被爆者のDNAに、放射線治療のリスクを見極めるヒントが隠 されている可能性があるとして、研究が進められている。がん患者へ の放射線治療がDNAに遺伝的欠陥を引き起こし、それが患者の子供 にも遺伝するかどうかを判断するのに役立つと期待されている。

財団法人・放射線影響研究所の広島研究所の研究員らは、原爆に よる健康への悪影響が、がんを患った被爆者の後の世代にも続くかど うか、調査を行っている。エバン・デュプル主席研究員によれば、白 血病や心臓疾患などに関連した遺伝的変異が起きるかどうか、またそ うした変異が遺伝し得るかどうかについて調べている。

同氏は調査の結果次第では、がん患者に安全に照射できる放射線 のレベルに対する医者の理解を深められる可能性があると説明した。 原爆投下後に生まれた被爆者の子供たちは、悪性腫瘍(しゅよう)の 発症率が高まる年齢に近づいている。

デュプル氏は、「彼らはがんが発症しやすい年齢に差し掛かって おり、今後20年間が非常に重要となる」と述べ、「がんの発症メカニ ズムの解明につながり得る機会を逃したくない」と語った。

後成的遺伝学

がんの遺伝的根拠は100年前から認識されている。広島の研究員 らは、環境が遺伝子の働きを変えるかどうかというエピジェネティッ クス(後成的遺伝学)上の問題を被爆者の子孫で検証しようとしてい る。

後成的遺伝学という学問分野は、「生まれか育ちか」、すなわち 「遺伝子と環境のいずれが重要か」という問題の解決を目指し1940年 代から発展してきた。後成的遺伝学上のプロセスは、DNA配列を変 えることなく遺伝子の働きを変えることができる。例えば、腫瘍の発 生を抑制するような「良い」遺伝子の働きを止め、腫瘍の発生を 促進するような「悪い」遺伝子の働きを作動させるのだ。

全米科学アカデミー(NAS)で10年余り経験を積んだ放射線生 物学者のデュプル氏は、被爆者がこうした後成的遺伝学上の悪影響を 受けたとの証拠はないと語った。

しかし、ヒト細胞とマウスの実験は悪影響が生じ得ることを示し ており、放射線被ばく後の発病に後成的遺伝学上の影響が関与してい るかどうかを判断する上で、被爆者の子孫はほかに例を見ない機会を 提供してくれる可能性がある。

広島の爆心地から1.2キロメートルの地点で被爆した岩佐幹三氏 (81)は、「やっぱり一番心配したのは子供が生まれた時ですね。医 者に五体満足かと聞きました」と語る。夫人も被爆したという岩佐氏 は、「何が起こるか分からないという不安というか恐怖を持ちながら 生きているわけです」と心境を明らかにした。

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