中国の公式統計が覆い隠す物価高騰、社会不安や政治リスク招く恐れ

上海市でマーケティング担当マネ ジャーを務めるリディア・ワンさん(28)は、いつも購入する靴や衣 料品が2009年よりも少なくとも50%値上がりしたと不満を漏らす。 淅江省の寧波在住の退職者ウー・センギュンさん(54)によると、フ ルーツや魚の価格はこの1年で20%以上値上がりした。

江西省で衣料品工場を経営するウィリー・リンさんは、肉や野菜 の値上がりを受けて、社員食堂で無料提供していた骨付き鶏肉の量を 減らした。リンさんは「労働者は苦しんでいるし、誰もが泣いている」 と話す。

公式統計では、中国の消費者物価指数(CPI)は7月に前年同 月比で3.3%の上昇を示し、過去1年9カ月で最も高い伸びとなった。 当局は最近の洪水による作物被害がもたらした一時的要因によるもの と説明し、自動車や携帯電話料金、衣料品といったほかの価格は下落 しており、景気減速に伴って物価への圧力は緩和されるだろうとの見 通しを示した。国家統計局経済監視分析センターの潘建成副主任は今 月12日の会見で、こう言明した。「インフレの脅威が大げさに騒ぎ立 てられている」。

不思議な国

中国政府のこうした見解に対し、ブルームバーグ・ビジネスウィ ーク誌(8月30日号)がインタビューした消費者や投資家、アナリス ト、学識者の意見は異なる。中国人民銀行(中央銀行)の元貨幣政策 委員で現在は中国社会科学院のエコノミストを務める余永定氏は、「統 計には反映されていない物価の高騰が見られた」と指摘する。

北京大学のマイケル・ペティス教授(金融)は、4-6月(第2 四半期)に10.3%の経済成長を遂げ、賃上げ圧力に直面している国で、 どうして物価上昇率が数ポイントにとどまっているのか不思議だと言 う。人事コンサルタント会社ヒューイット・アソシエーツによると、 中国に進出する多国籍企業は今年、平均で8.4%賃上げする見通しだ。

一般の中国人の住居や教育、医療などのコスト上昇が公式統計に 反映されてくるのはこれからだと、アナリストらは指摘する。北京大 のペティス教授は「大半の中国国民の実感では、今のインフレ率は6% だろう」とみる。

公式統計に疑問を呈する人々の意見が正しいとすれば、中国政府 がインフレの測定方法を見いだせていないのか、あるいはあえて実態 を無視しているのかという問題が出てくる。小売売上高や失業などの 主要統計も不明瞭だが、インフレの場合、見誤れば物価抑制で今必要 とされる迅速な行動が妨げられ、政府は後になって利上げや人民元の 切り上げといった一層厳しい措置の実施を余儀なくされる恐れがある。 また、中国では一般労働者が生活費の上昇についていけなくなると社 会不安が発生してきた経緯があるだけに、政治的なリスクもある。

奇異な状況

中国は大方の国とは異なり、インフレ率の計算で適用する費目ご とのウエートの詳細について公表を控えている。こうした状況は「奇 異」だと世界銀行のシニアエコノミスト、ルイス・クイス氏は呼んで いる。統計局当局者によると、05年以降、CPIを構成するバスケッ トに大きな変化はなかったが、来年は住居費を高めて食料費を低める ようなウエート調整の計画があるという。

アナリストの間には、中国当局が物価の測定でまずまずの仕事を しているという声も聞かれる。経済コンサルティング会社のドラゴノ ミクスのマネジングディレクター、アーサー・クローバー氏(北京在 勤)の試算では、実際のインフレ率は公式統計を1ポイント程度上回 るにすぎないという。一方で、物価上昇に伴う政治リスクを中国の指 導部が歴史的に避けてきたことが、公式なインフレ率を低く抑える圧 力を生み出しているのではないかと疑問視する向きも多い。

--Dexter Roberts. With assistance from Miao Han, Li Yanping, Penny Peng, Vincent Ni and Helen Sun. Editors: Stephanie Phang, Christine Spolar

参考画面: 翻訳記事に関する翻訳者への問い合わせ先: 東京 守護 清恵 Kiyoe Shugo  +81-3-3201-7499

kshugo@bloomberg.net Editor: 記事に関する記者への問い合わせ先: Dexter Roberts at +86-10-6649-7559 or droberts34@bloomberg.net 記事に関するエディターへの問い合わせ先: Chris Anstey at +81-3-3201-7553 or canstey@bloomberg.net

    最新の情報は、ブルームバーグ端末にて提供中
    LEARN MORE