【コラム】円高で何が買えるか、日本政府は戦略を購入せよ-ペセック

円相場の上昇と歩調を合わせる かのように、パニックが高まっていくのが感じられる。

日本銀行は介入で円を押し下げてくれるのだろうか。菅直人首相 は議員らと何かを画策しているだろうか。ドルが値下がりして日本を 混乱に陥れて、この先の景気はどうなるのだろう。

円相場が1ドル=125円のときも、84円の今と同じくらい景気 は弱かったのに、誰もそんなことはお構いなしだ。日本の危機という ドラマのテンションは高まるばかり。もうおしまいだ、デフレは加速 している、ありとあらゆる悪いことが起こる――。

白状しよう。私の場合は大方の人とは異なり、買い物について悩 んでいるのだ。円高でこんなにお金があるのに、買う物が何もない。

日本株でも買ってみようか。いやいや、民間経済が政府に救済し てもらう、あるいはもう一度救済してもらうのを待っているような状 態ではお断りだ。失業率は上昇、所得は減少しつつあり、消費者不在 の「景気回復」では願い下げしたい。

もちろん、トヨタ自動車の株に手を出すことはあり得るかもしれ ないが、将来のリコール(無料の回収・修理)の可能性が気にかかる。 世界最大の自動車市場である中国が、いつまで日本車を買い続けるの かも分からない。

100キロ渋滞

中国の首都北京に向かう幹線道路では8月14日以来、100キロ 近い渋滞が続いているという。ニューヨーク郊外の高速道路の渋滞に ついて不満を言いたくなったら、中国のことを思い浮かべよう。中国 の国民は確かに車を買いたがっている。その車が走るための十分な道 路がないことが問題なのだ。

前から行きたいと思っていたフィリピン旅行に行くのもいい。し かし待てよ。今週マニラで起きた外国人旅行客人質事件への治安当局 の対応を考えると、やめておいた方がよさそうだ。香港からの旅行者 8人を死なせてしまったフィリピン当局の稚拙な救出作戦を見れば、 外国人はフィリピンに行きたいとはあまり思わなくなるだろう。

日本の不動産を買うのはどうだろう。一応考えてはみるが、正気 に戻るのに時間はかからない。1980年代の不動産ブームとバブル破 裂が残したのは、いつまでたっても回復の兆しを見せない不動産市場 だ。

分かりにくい時代になった。通常なら、為替相場はファンダメン タルズ(経済の基礎的諸条件)を反映する。景気がよければ、通貨は 強くなる。ゼロ金利と過剰債務なら、弱くなる。ところが日本では事 態が悪くなればなるほど、円が高くなる。

円売り介入しないのは

日本の当局が今年、外為市場に介入しなかったのは、介入しても 効果がないからだ。米経済は徐々に悪化し、ドルもそれに追随してい る。しかし円は、お約束のように逆の方向に向かう。世界金融システ ムがゆがんでしまったことの副産物だ。

円売り介入が奏功する唯一の道は米連邦準備制度理事会(FRB) と欧州中央銀行(ECB)が日銀と協調して介入することだ。そのよ うなことがあり得ないというわけではないが、介入が失敗したときの ダメージは大きい。

現物相場が示唆するほどに、円は過大評価されているのかという もっともな疑問もある。円の「実効相場」はそれほど高くないかもし れない。さらに、日本は経常黒字国だ。本当に円安を望むならば、貿 易収支を反転させる必要がある。これらの要素があるから、日銀がF RBとECBの同情を買うとは考えにくい。

ミスター・ドル

また、いまは自助努力の時代だ。日本では、かつて円相場を誘導 する手腕から「ミスター・円」と呼ばれた財務官がいたが、野田佳彦 財務相は「ミスター・ドル」と呼ばれるほうがふさわしいかもしれな い。同相が口を開くたびに、円相場は日本が望まない方向に動く。

円で買える物の話に戻ると、もちろん日本国債もショッピングの 対象だ。しかし、10年物国債の利回りがたったの0.89%の今とな っては、買い時は逃したのかもしれない。

あちこちで増えている「100円ショップ」に投資してはどうか。 格安衣料のユニクロと高齢者向けサービス事業を除いて、日本には今 のところ、これといった純然たる成長産業が見当たらない。もっとも、 100円で物を売ったときの利ざやは投資家の胸をときめかせる数字 ではない。

もちろん、1980年代に時計の針を戻して、大型買収の面影を尋 ねてみるのも名案だ。カリフォルニアのペブルビーチのゴルフ場は今、 幾らくらいになっているのだろう。ロックフェラー・センターも魅力 的だ。

資源は中国の手に

日本のエネルギー需要を考えれば、15年ぶりの円高はまさに天 の恵みだ。原油と鉄、リチウム、インジウムなどをたっぷり買い込め ばいい。ああ、そうだった。日本が変革を遠ざけていた過去10年の 間に、中国が地球のあちこちで契約を結び、資源の大半を吸い上げて しまったのだった。

日本は21世紀の最初の10年を、規制緩和と税制改革、生産性 向上と起業家支援に使うこともできた。より多くの移民を受け入れ、 教育システムを刷新し、アジアからの旅行客呼び込みでシェア拡大を 目指すこともできた。

しかし日本はそうせず、為替相場にばかり気を取られていた。い くら気にしていても、円は結局この間に27%も上昇した。7人もの 首相が目まぐるしく入れ替わり、この負け戦をたたかった。いま、円 で買うべきものは新しい戦略だ。(ウィリアム・ペセック)

(ウィリアム・ペセック氏は、ブルームバーグ・ニュースのコラ ムニストです。このコラムの内容は同氏自身の見解です)

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