ブガッティは究極の投資先-ビンテージカー市場を走る富豪の「妄執」

これが史上最高の車だよ。時速100 マイル(約160キロ)で走っても、エンジンが動いているかどうかさ え分からないくらいだ-。

フランスのクラシックカーに魅せられ、この分野の個人収集家と して世界最大級のコレクションを保有するピーター・マリン氏が指さ すのは、1935年型「イスパノ スイザJ12カブリオレ」だ。マリン氏 自身の名を冠する博物館には、このほか60台ほどのコレクションが陳 列されている。

カリフォルニア州南部オックスナードにあるマリン自動車博物館 は、30年代のアールデコ調のパリのオートサロンを想起させる設計だ。 赤と黒の38年型「ブガッティ タイプ57Cアタランテ・クーペ」は 仏自動車メーカー、ブガッティの創業者の息子、ジャン・ブガッティ が設計した名車だが、マリン氏はそのフェンダー部分をなでながら、 「フランスのすべての乗用車を愛しているが、ブガッティはその中で も最も気に入っている。設計、デザイン、性能いずれも究極といえる 出来だ」と話す。ブルームバーグ・マーケッツ誌10月号が報じている。

この博物館の最高の展示品は、4300平方メートルの広さを誇る建 物の中央に位置する台座に載せられて回転している。36年型「ブガッ ティ タイプ57SCアトランティック」がそれだ。シルバーブルーの このクーペは今年5月、匿名の買い手が3000万ドル(約25億5000 万円)余りで手に入れた。自動車の購入価格としては、これまでの最 高額を約200万ドル上回り、史上最高値を更新した。マリン氏は、彼 こそがその買い手だとする報道についてコメントを控えている。

金に糸目はつけない

ジュネーブを拠点とするビンテージカーのアドバイザー兼ブロー カーのサイモン・キッドストン氏によれば、マリン氏は最高価格帯の クラシックカーを収集する世界の資産家約100人の1人だ。「ポルシェ」 の収集家である米コメディアンのジェリー・サインフェルド氏や、「フ ェラーリ」ファンの米投資家ジム・グリッケンハウス氏など、収集家 の顔触れは多彩だ。英テレビおよびラジオの司会者として活躍するク リス・エバンス氏は、61年型「フェラーリ250GT SWBカリフォル ニア・スパイダー」を1090万ドルで取得した。これは米国の俳優ジェ ームズ・コバーン氏がかつて所有していた車だ。

米オレゴン州に本社を置くMファイナンシャル・グループの会長 を務めるマリン氏(69)は、81年にビンテージカーの収集を始めた。 現在の保有台数は140台。「最初は興味から始まったが、やがて情熱に 変わり、妄執に転じた」と振り返る。

収集家がビンテージカーに投じる資金はかつてない水準に膨れ上 がり、ブガッティやフェラーリ、メルセデス・ベンツ、ロールスロイ スの最も有名なモデルの価格を押し上げている。

最も価値ある車

「スポーツカー・マーケット」誌の発行人、キース・マーティン 氏は「現在、評価の高い車には途方もない値段が付く」と説明。株式 市場が低迷する中で、実物資産を求める投資家は大抵100万ドル以上 はするビンテージカーに目を向けつつあると指摘する。

オークション価格に基づけば、ブガッティはフェラーリやメルセ デス・ベンツと並び、コレクション対象の中でも最も人気のあるブラ ンドの一つだ。イタリア人技術者エットーレ・ブガッティが100年以 上前にフランスのモルスハイムに会社を設立。軽量のマグネシウムと 航空力学を用いて手作りの自動車の改良を重ねた。現在はドイツの自 動車メーカー、フォルクスワーゲン(VW)傘下にある。

マリン自動車博物館にあるブガッティの「57SCアトランティッ ク」は今のところ、世界で最も貴重な車だ。わずか3台しか製造され ず、しかも完全な状態を保っているのは2台だけだ。もう1台はファ ッションデザイナーのラルフ・ローレン氏が所有している。同氏は所 有するブガッティやジャガー、ポルシェの一部を2005年にボストン美 術館に展示したこともある。

万人にできない投資の旨み

だが、ビンテージカーが単に好きだからというだけでなく、転売 目的で収集している人は、利益を上げる上で多くのリスクに直面する。 ニューヨークに本社のある投資会社グリッケンハウス・アンド・カン パニーのゼネラルパートナーを務める収集家のグリッケンハウス氏は、 透明性や流動性が低いビンテージカー市場では、適正価格の決定や買 い手探しに苦労すると話す。

スポーツカー・マーケット誌のマーティン氏によれば、例えば「フ ェラーリ250GTE」(4人乗り)の価格は90年に最大25万ドルと、 3年前の3万-4万ドルから急上昇した。その後一時5万ドルまで下 落したが、ここ数年は10万ドルまで回復しているという。

グリッケンハウス氏は「クラシックカーの売買は大きなビジネス を伴う。一般の人にとって良い投資先ではない」との見方を示す。

米バージニア州に拠点を置き、自動車の鑑定を手掛けるデービッ ド・キニーが算出するハガティーズ・カーズ・ザット・マター・ブル ーチップ指数によれば、収集対象となるビンテージカーのパフォーマ ンスは少なくとも過去4年間、株式を上回っている。

コレクションの対象として最も人気のある25車種の評価額に基 づくこの指数は、集計が開始された06年9月から今年7月末までの間 に61%余り上昇した。S&P500種株価指数はこの間、16%下落して いる。1958年型「フェラーリ250GT LWBカリフォルニア・スパイ ダー」の131%の値上がりが際立っており、評価額は330万ドルに達 している。

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