【経済コラム】ようこそ、中国が導く「ニューノーマル」へ-ペセック

米パシフィック・インベストメン ト・マネジメント(PIMCO)のビル・グロース氏の最新リポート を読むと、大手の債券ファンド運用担当者の言葉に実際に影響力があ った日々が懐かしく思える。

われわれメディアはグロース氏をPIMCOで世界最大の債券フ ァンドの運用を担当しているとして好んで取り上げてきた。中国が外 貨準備という2兆5000億ドル(約210兆円)規模のポートフォリオを つくり上げるまではだ。中国国家外為管理局(SAFE)の資産が増 えるにつれ、PIMCOが運用する2390億ドル規模の「トータル・リ ターン・ファンド」ですら取るに足らないものに見えてくる。

そう、われわれが生きているのはまさにSAFEの世界だ。1980 年代と90年代にはフェッドウォッチャー、つまり米連邦準備制度理事 会(FRB)の動向を注視し、その政策を予測した民間エコノミスト やジャーナリストが幅を利かせた。だが今はこう言おう。SAFEウ ォッチャーの世界にようこそ。

今や世界最大の債券ポートフォリオとなったSAFE内部の考え 方を解読するのは容易なことではない。中国が巨額の貯蓄をいつ、ど こに、どのようにして投資するのかは、公表されることのない国家機 密だ。そして債券発行体はグロース氏のような投資家を素通りし、中 国に真っすぐ目を向ける。世界の市場はこれまでと全く異なるものに なるだろう。

中国のサポート

アジアなど各国の政府がいかに中国のサポートを求めていくかが 流行のようだ。例えば日本は得意気に中国の日本国債買い入れ急増を 発表する。ソウルのトレーダーの間では、中国が今年、韓国国債の保 有を倍以上に増やしたというニュースに沸いた。マレーシア・リンギ ットは先週、人民元と直接取引される数少ない通貨の仲間入りをした。 漸進的なやり方だが、中国が持つ外貨準備の投資対象多様化を加速す る可能性がある。

中国を責めることはできない。中国は6月時点で8440億ドルのド ル建て資産を保有。FRBが米経済に投入する流動性を拡大せざるを 得ない苦境にあるこの時だというのに。

中国がその富のシフトを進める中、世界の市場は不安定となって いる。これまでの数10年にわたり最大級の厚みを持つ債券市場をつく り上げてきた国々にとっては有利だ。世界経済がおかしくなったとき に抜け出すことのできない市場に閉じ込められた資金を抱えることこ そ、中国が最も回避したいことだからだ。

「国境を越えた国有化」

だが一体全体、こうした動きは本当に良いことなのだろうか。政 府系ファンド(SWF)が主導する国家資本主義の台頭が見込まれ、 研究されている。もしわたしが北京の大学を最近卒業したのであれば、 急いで投資家向けの情報提供ビジネスを始めるだろう。インドネシア やベトナムの発行体がニューヨークやロンドン、東京を敬遠し、真に 豊富な資金がある北京に直接出向くという未来を思い描くのはそう難 しくない。

中国は巨額のポートフォリオを運営することで、ある種の「国境 を越えた国有化」の中心にいる。自由放任の資本主義の熱心な支持者 にとって、ここ数年戸惑いの日々が続いているのは認めざるを得ない。 政府の関与をずっと嫌っていたウォール街の大手金融機関が、救済を 受けるため順番待ちするのを目にするのは全く奇妙だ。

中国が歩む軌道は、過小評価されている幾つかのリスクを伴う。 外貨を積み上げること自体がバブルで、1つのリスクだ。中国が外貨 準備を減らせば市場を恐怖に陥れ大量の売りを誘い、中国に巨額の損 失が生じる恐れがある。そう、善かれあしかれ、増やし続けるほかな いのだ。

別のリスクは、中国が壁に突き当たったときに生じる。現時点で は、中国が数年後に危機を迎える可能性があると想像するのは難しい かもしれない。だがもしそうなれば、その保有する債券を現金化せざ るを得ず、この巻き戻しプロセスがアジアに強い打撃を与える公算が ある。

地政学的レバレッジ

PIMCOは世界経済が「ニューノーマル」(新たな標準)に入っ たと提唱しているが、グロース氏らが言うように米経済が超低成長の 時代に直面しているのであれば、世界経済の二番底があっても全く不 思議ではない。

中国の地政学的レバレッジも考慮に値する。米国が2000年代初頭 に実施した大規模減税は、結果として米政府が中国からの借金に頼っ た格好だ。アジアの指導者が、国債発行で中国からの支持をどの程度 得られるかに基づいて政治的判断を下す可能性を想定するのはあなが ち的外れではない。

あなたがスペインやフィリピンの国債発行担当者なら、グロース 氏のような投資家の理解を得るため気を遣うだろう。さらに、中国政 府の官僚らがあなたの国の経済をどのように見ているかにもずっと気 を配るようになるはずだ。ようこそ、債券市場のニューノーマルへ! (ウィリアム・ペセック)

(ペセック氏は、ブルームバーグ・ニュースのコラムニストです。 このコラムの内容は同氏自身の見解です)

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