【コラム】借金ウイルスまん延中、回復はつかの間の幻影-M・リン

ユーロ圏経済はプラス成長を 取り戻した。銀行システムはストレステスト(健全性審査)を生き 延びた。ギリシャは緊縮財政への最初の幾つかの策を成功裏にやり 遂げた。

初夏の時点で声高に取りざたされていた予言-ユーロはもう 終わりだ、欧州ソブリン債危機ウイルスがスペインやポルトガルな どの各国にまん延する-は、もはや忘れ去られた。危機は終わった かのように見える。

これを信じてはいけない。ユーロに入った「ひび」は、水面下 で広がっている。ユーロ圏内の不均衡は拡大し続けているからだ。 不道徳でばかばかしい条件が明らかになるにつれて、救済への抵抗 も強まるだろう。さらに、重債務国は景気悪化の悪循環にしっかり ととらえられている。

ユーロは膨大なコストを支払って幾らかの時間を稼いだが、危 機の原因となった問題はほぼ手付かずのままだ。

確かに、ここ1カ月は状況が安定した兆候が出ていた。先週発 表されたユーロ圏の4-6月(第2四半期)成長率はプラス1%と 4年ぶりの高水準だった。

欧州の銀行の大多数は、金融市場の衝撃に耐える力を試す「ス トレステスト」に、楽々と合格した。銀行は危機から立ち直り、ま ずまず健全な状態に戻ったように見える。

回復

ユーロ相場も6月に付けた1ユーロ=1.19ドルから回復した。 ギリシャ株すら上向いている。危機さなかには1400割れしていた 指標のアテネ総合指数も持ち直した。

この調子なら、ドイツの大衆紙ビルトすら近いうちに、ギリシ ャのまじめで責任ある経済運営を賞賛する社説を載せることだろ う。

しかしよく考えてみると、懐疑的にならざるを得ない以下のよ うな理由がある。

第1に、ユーロ圏は今も昔も変わらず、危険なほど不均衡な状 態だ。成長率の数字を見てみよう。第2四半期にドイツの国内総生 産(GDP)は2.2%増だったが、他の国はそれほど堅調ではな い。ギリシャに至っては1.5%のマイナス成長だ。スペインはわ ずか0.2%のプラス。

補助金

債務危機はユーロを下落させることでドイツの輸出を後押し し、ドイツ経済を強化した。輸出にあまり依存しないギリシャなど にはほとんど何の恩恵もない。この結果、ユーロ圏の不均衡はさら に拡大した。ドイツ人はもっと金持ちになっているが、その代わり もっと貧乏になるギリシャ人に補助金を払わなければならない。こ のような状況が長続きするはずもない。

第2に、救済への反対は強まる公算が大きい。

スロバキア議会は救済基金への拠出承認を否決したが、それも 当然だ。いかなる政治制度も、公平で理にかなったものでなければ 支持は得られない。救済条件はそのいずれでもない。スロバキア人 のように、相対的に貧しいが勤勉で規則を守ってきた人たちに、ギ リシャのようなルール違反の国を助けろというのは無理だ。1回か 2回はそれでも済むかもしれない。しかし、ユーロ圏というものが 勤勉な国から無責任な国への富の移転メカニズム以外の何物でも ないなら、存続できるとは考えにくい。ある時点で、責任ある国々 は離脱を望むはずだ。

キャッチフレーズ

スロバキアの声は確実に無視されるだろう。欧州連合(EU) は小国、特に東欧諸国からの抗議にはあまり耳を貸さない。しかし、 同じくギリシャ支援を強いられるポルトガルとアイルランドも近 いうちに、抗議の輪に加わるかもしれない。そうならないにしても、 ギリシャやその他の債務国に約束された巨額の金融支援と債務保 証を、当然視することはできない。スロバキアの新政権は救済への 反対を掲げて選ばれた。「ギリシャにノーと言おう」というのは選 挙戦の素晴らしいキャッチフレーズだ。間違いなく、他の国でも活 用されるだろう。

第3に、ギリシャ経済は悲惨な状態にある。救済の条件として 求められた財政緊縮策の第一陣は実施できたかもしれないが、景気 後退は続いている。政府が歳出を抑え、観光業がストで打撃を受け ている現状では、近い将来に回復することはあり得ない。

経済が縮小すれば課税ベースも縮小し、赤字削減はさらに難し くなる。ギリシャはいつも、赤字削減措置に加えて成長戦略を必要 としていた。今までのところ、成長戦略のかけらも見られない。

欧州ソブリン債危機は長引く代物だ。嵐の中でしばしの静けさ はあっても、危機が終わったなどとんでもない。まさに今から始ま るところだ。(マシュー・リン)

(リン氏は、ブルームバーグ・ニュースのコラムニストです。 こ のコラムの内容は同氏自身の見解です)

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