トヨタ:スポーツタイプ拡充で顧客層拡大へ-ハチロクやプリウスも

東京在住の柿澤浩介氏(39)が最 初に買った車はトヨタ自動車の2ドアクーペ「サイノス」だった。以 来、マツダのロードスター、メルセデスベンツのコンパクトクーペと スポーツカーを乗り継ぎ、現在の愛車はアウディ「TT」。「昔は格好 いい車があったトヨタだが今は乗りたい車がない」と感じており、「ス ポーツカーといえばやはり外国ブランドを思い浮かべる」と言う。

こうした中、トヨタはあらためてスポーツタイプ車のラインアッ プを拡充し、ユーザーのすそ野を広げる取り組みを始めた。豊田章男 社長は「車は楽しむものであってほしい」というのが持論。レーシン グドライバーでもある豊田社長は名刺に、ヘルメットを小脇に抱え、 ピースサインでほほ笑むイラスト自画像を入れている。

当時は副社長だった豊田社長の「立ち位置を変えたい」という言 葉からトヨタは2007年、スポーツ車の開発プロジェクトを立ち上げ、 以来、企画・設計部署などにスポーツタイプ車の開発担当を相次いで 設置。今年1月にスポーツ車両統括部が正式に発足した。

コンセプトは5車種。09年の東京モーターショーで発表した小型 スポーツカー「FT86」(ハチロク)のほか、4ドアセダン「マーク X」、ハイブリッド車「プリウス」、ミニバン型乗用車「ノア」や「ヴ ォクシー」、それぞれにスポーツバージョンを投入する。

発売第一弾のノアとヴォクシーはファミリー向けの人気車種。ス ポーツタイプはサスペンションを3センチ下げてスポーティーさを演 出すると同時に、重心を下げて安定性を高めるなど内外装をマイナー チェンジ。また新世代エンジンで動力性を高め、操舵性も向上させた。

トヨタの山科忠専務は「普通より少しスポーティーな車を求める」 人のニーズに応えたいと意気込む。家族を持ちミニバンに乗るように なった人が、かつての独身時代のように、車に乗る楽しさを求めてい る。こんな層を引き付ける車がトヨタにはなかったという。

時代に合うスポーツカーが必要

以前のトヨタは「MR2」(84-99年、累計11万台販売)、「スー プラ」(86-02年、同12万台)、「セリカ」(70-06年、同86万台)な どのスポーツカーを揃えていた。山科専務は「残念ながら、こうした 車が残らなかった」と述べ、時代に合うスポーツカーが必要と感じて いる。それがミニバンタイプであり、ハイブリッド車プリウスのスポ ーツ版。「ハイブリッド車を引っ張ってきたメーカーとして、スポーツ 好きにも提供できれば」と取り組みの方針を語る。

独立系調査会社のティー・アイ・ダヴリュ(TIW)の高田悟氏 は「いよいよ新社長のカラーが出てきた」と評価する。トヨタが今ま でスポーツタイプや夢を追う車よりも、「売れ筋車種を、技術力と販売 網を駆使して伸ばしてきた」と指摘した上で、今回の取り組みで「市 場の縮小を抑制する社会的責任を感じているとすれば、非常に評価で きる」と語った。

日本自動車工業会(JAMA)の統計資料によると、09年の乗用 車保有率は07年比で3.4%減。ライフステージ別では、独身世代の

9.3%減に対し、小・中学生を持つ家族は1.4%減と落ち込みが小さ い。乗用車のタイプ別保有割合を見ると、スポーツカー・クーペー は97年の9.8%が09年には1.2%へ減少、逆にボンネットワゴンは97 年の13.5%から09年に22.5%へ伸びている。

自動車レース参戦も

トヨタは自動車レースを通してのマーケティングについても再検 討を始めている。山科専務は「欧州ではレース活動をうまく自動車販 売に結び付けている」と述べた上で、いったん縮小していたモーター スポーツ活動について「フォーミュラワン(F1)はやめたが、何ら かの形で欧州スポーツにかかわっていきたい」と語った。

具体的には現在、世界ラリー選手権(WRC)や世界ツーリングカ ー選手権(WTCC)などについて検討していると語った。

豊田社長は「モリゾウ」の名前で自動車レースの参戦記録をブロ グにしており、レースの苦労や感動を発信し続けている。

すそ野を広げる取り組みも

自動車ユーザーのすそ野を広げる取り組みとしては、農漁村で宿 泊体験をするGazoo Muraプロジェクトも展開している。北海道から九 州まで45の「ムラ」と提携し、車で訪問した人がムラの人々と交流を 楽しむものだ。

例えば、茨城県常陸太田市のムラは東京から車で2時間半。電車 では訪ねにくい場所だが、ムラでは豆腐づくりやそば打ち、農業の体 験ができる。ムラのイベント施設を車でまわり、車の楽しさを味わっ てもらおうというものだ。09年度のGazoo Mura訪問者は5500組に上 っている。

迅速対応が必要な分野は他にも

こうした取り組みに対し、アドバンストリサーチジャパンの遠藤 功治ディレクターは「燃費ばかり気にした車しかないのはどの会社も 同じで、取り組みは理解できる」と述べながらも、「スピード感が必要 とされる分野は他にもあるはず」と指摘した。

エンジンやトランスミッションの開発計画、ハイブリッドや電気 自動車を「いつまでに、何パーセント程度にするのかを明らかにして いない」と述べた上で、「株価がピークに比べ3分の1程度にとどまっ ていることからも市場の期待値が高まってはいない」と語った。

トヨタ株の18日の終値は、前日比0.8%高の3030円。ピークの 07年2月27日の株価は8340円だった。

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