イチロー上陸から10年、米シェア2割を狙うミズノ-激戦の野球用品

「ダルビッシュは来るのか」-。メ ジャーリーグベースボール(MLB)のアジア事業を統括するジム・ スモール氏は米国の知人から最近よく聞かれる。イチロー選手の渡米 から10年。「日本選手は米国選手より劣っているという先入観は覆さ れ、次は誰がMLBに来るのか期待が高まっている」と話す。

日本人選手の活躍と共に米国で売上高を伸ばしてきたのが、イチ ローや松井秀喜選手と用具使用のアドバイザリー契約を結ぶミズノだ。 米国野球事業の売上高は2008年に約7500万ドル(約64億円)と、 2000年からほぼ倍増し過去最高となった。

スモール氏は「セレブリティ・エンドースメント」(著名人のお墨 付き)の重要性を強調、「ミズノはこの手法を上手に使い米市場での認 知度を高めた」とみる。松井選手は、ブルームバーグ・ニュースの取 材に電子メールで答え、ミズノの製品は子供のころから使っていてチ ームメートからも「使ってみたい、貸してくれ」と言われるという。

ミズノが米国で無名だった1980年から野球事業に携わり、現在世 界の同事業を統括する鶴岡秀樹取締役によると、米野球用品市場での シェアは「何とか最近10%を超えるようになった」という。ここに至 るまでには、営業マンが取引先を1店舗ずつ回り、セミナーなどでコ ーチや選手に製品の良さを地道に訴えてきた積み重ねもあった。

市場成熟でマーケティング重要に

しかし野球事業の先行きは甘くない。日米とも野球事業の市場は すでに成熟。日本生産性本部の2010年版レジャー白書によれば、日本 の「キャッチボール、野球」の参加人口は09年に1120万人と01年比 で約4割減少した。米スポーツ業界団体SGMAによれば、米でも野 球人口は09年に1380万人と2000年比で約13%減少。米調査会社スポ ーツ・ワン・ソースのアナリスト、マット・パウエル氏は「米国の野 球市場は停滞してしまっている」という。

市場の成熟に加え、マーケティングに強いライバルの台頭で競争 は一段と厳しくなっている。スポーツマーケティングジャパンの日置 貴之氏は「80年代後半にナイキがあらゆるスポーツでマーケティング を重視した戦略を打ち出し成功して以来、品質の良さだけではビジネ スが難しくなった」と話す。

マーケティング重視の戦略とは、「プロ野球チームにユニフォーム などを無料で提供する代わりに、消費者向けビジネスの権利を得てT シャツなど関連事業で利益を上げる」手法だ。球団は経費削減とブラ ンド認知度向上の両方が期待できる。日置氏によると、こうしたモデ ルの普及は「ミズノのようにプロ野球チーム向けビジネスで愚直に売 り上げを計上してきた従来メーカーの戦略の壁となっている」という。

スポーツ・ワン・ソースによれば、09年の米国野球・ソフトボー ル小売市場のナイキのシェアは4位で、トップ3のイーストン、ロー リングス、ウィルソンに迫る。ミズノは6位にとどまる。

西武はナイキ、巨人はアディダス

こうしたモデルは日本のプロ野球にも浸透。01年にはナイキが西 武とオフィシャルサプライヤー契約を締結。06年にはアディダスが日 本の野球事業に本格参入からわずか2年で巨人とオフィシャルパート ナー契約を結んだ。

アディダスの大藤真一シニアマネージャーは胸にアディダスのロ ゴが付いた巨人のユニフォームを着てみせ、「用具の提供だけでなく、 いろいろなものを包括的に巻き込んだ活動をできると全面的にアピー ルした点が一番大きい」と契約に至った経緯を振り返る。消費者の認 知度は高まり、「契約以来、日本の野球事業は売上高で年率10%以上の 成長を遂げている」という。若者や女性も視野に今後も同程度の成長 を目指す構えだ。

変化対応で新たな10年を志向

約30年前にミズノと契約を結んだボビー・バレンタイン前千葉ロ ッテマリーンズ監督は、「ミズノは米国野球界で最高のブランドの一 つ」としながらも、「価格戦略やマーケティング戦略の改善」をさらな る飛躍の条件に掲げる。

ミズノも動き出している。米国野球事業の営業を統括するブラ ム・クリーガー氏は、「ローリングスやウィルソンとはミズノも同じ土 俵で戦っている気がする。しかしナイキやアンダーアーマーといった 会社までが野球に参入する状況で、戦いはマーケティング主導になり、 私たちも対応する必要が出てきている」とブルームバーグ・ニュース の取材に電子メールで答えた。

クリーガー氏によると、ブランドマーケティング担当の米国副代 表を現在人選中で、ウェブサイトやソーシャル・メディアを使い、「今 後は、消費者に直接よりアグレッシブに訴えるマーケティング戦略を 必ず展開する」という。

鶴岡氏は、今年は米国ミズノの本拠地であるアトランタでシェア を高め、次いでシンシナティなど同規模の都市で売り込みを強化、「最 後にニューヨーク、シカゴ、サンフランシスコといった大都市で勝負 する」と話す。商品面でも、日本で昨年投入した耐久性と軽さが特徴 の「グローバルエリート」シリーズのグラブやスパイクなどを10年度 中に投入する。

スポーツ・ワン・ソースによれば、米国の野球用品市場は18億ド ル。鶴岡氏は「石橋をたたきながら毎年2億円程度ずつ売り上げを伸 ばし、時期は明言できないが20%を超えるシェアが絶対欲しい。そう しないと野球の会社と言えない」と話す。高校野球の名門PL学園出 身で、米国大学野球の経験者でもある鶴岡氏。野球ビジネスは「米国 を制する者が世界を制する」と断言する。

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