東京・秋葉原の午前10時すぎ。家電 量販店ラオックス本店前に、観光バスやワンボックスカーが次々に乗り 付けた。降りてきた中国人観光客が店内へなだれ込む。店員も客も中国 人。中国語が飛び交う「アキバの朝」はチャイナタウンの様相だ。

上海から来たエンジニアの王陪さん(45)が真っ先に手にしたのは キヤノンの一眼レフカメラ「EOS50D」。続いてソニーのデジタルカ メラ「サイバーショット」の最新機種、パナソニックのステレオヘッド ホン。体温計にも手を伸ばし、締めて25万円ほどの買い物を決めた。

中国人観光客は、あらかじめ商品を狙い定めた「指名買い」や「ま とめ買い」が目立つ。炊飯器6台を抱えた夫婦もいる。ラオックスの菊 池一営業企画部長は「気に入れば、金に糸目をつけず迷わず買う中国人 の富裕層は多い」と話す。

政府が新成長戦略で「観光立国」を柱の一つに掲げたのを受け、外 務省は中国人観光客の査証(ビザ)発給審査を7月1日から緩和。要件 を「十分な経済力」から「一定の職業上の地位および経済力」に変更し た。従来家族は世帯主の同行が必要だったが、今後は家族だけの旅行も 可能になる。岡田克也外相は5月18日の会見で、緩和により「従来に 比べて約10倍、1600万世帯が対象になる」と述べた。

三菱総合研究所の幕亮二シニアエコノミストは、日本は人口が5年 ごとに約400万人減少、そのたびに約6兆円の国内消費が失われると予 測、「成長持続には観光客の取り込みが必要。人口が多く購買力上昇が 予想される中国は有望」と言う。三井住友アセットマネジメントで中国 株ファンドを運用する上原義信シニアファンドマネージャーは「人民元 切り上げの恩恵が大きい。海外旅行に行く人が増えるだろう」と語る。

目当ては「メード・イン・ジャパン」

中国人が秋葉原を訪れるのは、ラオックスのような大規模免税店の 存在が大きい。高品質な日本製品が豊富な上、中国語の話せる店員も多 い。秋葉原が観光ツアーに組み込まれている場合も多い。秋葉原観光推 進協会の石原直幸副事務局長によると、昨年は約42万人の中国人観光 客が秋葉原を訪れた。浅草や大阪、京都などの観光地を抑えてトップだ った。

秋葉原電気街は戦後のヤミ市から発展した。60年代以降の高度経済 成長期には家電が中心となり、80年代はコンピューターの普及などがけ ん引。90年代以降、アニメやゲームのブームとともに「オタク文化」の 街として知られるようになった。現在は120以上の電気店が連なる。中 国人観光客も街のまた新たな顔だ。

中国人のお目当ては日本製の日本ブランド。商品の脇の「Made in Japan」のステッカーが目立つのはそのためだ。炊飯器を買 おうと秋葉原へ来た山東省の劉滲さん(40)は「日本製、日本ブランド の信頼性は中国で高い」と話す。

落とすお金

「ソニーはもっとも有名なブランド。新型モデルは地元では見つか らない」という湖北省の会社社長、余那さん(42)はソニーのデジタル 一眼カメラ「NEX-5D」を購入。付属レンズ、SDカード、専用カ メラバッグと合わせて計9万4800円。店先のベンチに座り、同行した 社員に向けて笑顔で何度もカメラを構えていた。

街も中国人の誘致に力を入れる。中国系航空5社の全日本便で読め る機内情報誌では秋葉原特集が7月以降組まれ、電気店が合同で広告を 出す。免税ショップ3店を運営するアッキーインターナショナルの鈴木 美紀夫副部長によれば、ソニーは自らが作成した中国語地図を来店客に 配布。ソニーマーケティングの谷口浩一広報担当によると、量販店と一 緒に観光客需要開拓に取り組むチームもあるという。

日本政府観光局(JNTO)によると、昨年の訪日外国人数は19% 減と大幅に落ち込んだが、中国人は前年比0.6%増の101万人とプラス。 今年は4月で早くも48万8000人に達している。日本滞在中の1人当た り物品購入費もダントツに多い。07年のJNTO調査では、米国人2万 5304円、韓国人3万66円なのに対し、中国人は11万6568円。購入商 品の約半分はカメラや電化製品などだった。

売り上げ3倍も夢じゃない

昨年6月に中国家電量販店最大手の蘇寧電器(江蘇省南京市)が 29%を出資したラオックス。経営トップも中国人に代わった。菊池氏に よると、外国人客の7-8割が中国人で、昨年10月に本店を改装、4 月には新宿とお台場にも新店をオープン。7月以降の免税品の売上高が 前年同期に比べ「3倍になるのも夢ではない」と語る。

秋葉原本店スタッフの4割が中国語を話せるが、昨年8月からは社 員向けの中国語研修を開始。中国人観光客を取り込むため一部ホテルチ ェーンと連携し、宿泊客向けの買い得品やサービス券の提供を検討。国 内大手旅行会社とも来店を組み込んだツアーを企画中だ。

秋葉原以外のエリアでも、中国人の取り込みに熱心。ビックカメラ では中国の主要空港や駅にある発券機で割引クーポン発行を2月から 開始。現在有楽町、新宿西口の2店だけにある免税コーナーを、7月中 にも天神(福岡)、なんば(大阪)、名古屋の各店に設置する。新宿 西口店の遠藤孝規主任は、今後は「潜在顧客として外国人も意識しなく てはならない」と強調する。

家電量販店国内最大手のヤマダ電機は4月に中国人100人が入社。 20人が池袋総本店で中国人の接客に当たっている。「中国展開のための 準備でもある」と青木博幸副店長。年内に中国1号店を瀋陽に開き、3 年間で5店舗を出す計画だ。みずほ証券の川原潤アナリストは「日本で 観光客を大切にしておくことは中国進出時の宣伝効果にもなる」とみて いる。

--取材協力:中山理夫、洪健剛、野沢茂樹、油井望奈美 Editors: Kenzo Taniai, Hideki Asai

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