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【コラム】英国に勝ったソロス氏、独批判でユーロ狙い撃ち-スレイズ

著名投資家のジョージ・ソロス氏 はドイツに対して「激しい非難」を浴びせかけている。同氏は先週、 ドイツが賃金を抑制し財政均衡を積極的に推進することで欧州連合 (EU)を危険にさらしていると指摘した。ソロス氏によれば、ドイ ツがけちけちしたせいで、ユーロは崩壊するかもしれない。

ソロス氏はまるで、ドイツのメルケル首相に親切に講義してあげ ているようだ。ソロス氏はベルリンのフンボルト大学で講演し、ドイ ツが堅実さを追求するのは理解できるとしながらも、同国は自ら歳出 を増やすとともに、欧州投資銀行(EIB)による積極的支出と欧州 中央銀行(ECB)による金融緩和を支持するべきだと付け加えた。

さらに、オバマ大統領が威勢よく支出し、バーナンキ連邦準備制 度理事会(FRB)議長が量的緩和を進める米国を、ドイツは見習う べきだとほのめかした。またしても教師の口調になったソロス氏は、 ドイツは明らかに「自分で何をやっているか分かっていない」と諭し た。

翻って、ソロス氏にこそ「激しい非難」をぶつけるべきではない か。放漫財政・金融緩和を勧めるソロス氏こそ、ユーロを危険にさら しているのではないか。そのような政策は欧州諸国の財政を悪化させ、 ユーロをソロス氏のようなトレーダーからの攻撃にさらされやすくす る。恐らく、メルケル首相と同様にソロス氏も、よく分かった上でユ ーロを危険にさらしているのだろう。

反論

ソロス氏に反論してみよう。同氏に倣って、まずユーロの誕生か ら見ていこう。欧州はユーロ創設に伴い金融政策を統合したが、政治 的統合は後回しだったため、各国政府は共通通貨を圧力にさらすよう な財政政策を独自に取ることができた。

ソロス氏はこの構造について「明らかな瑕疵(かし)」と指摘す る。しかし、全く逆の議論も可能だ。ユーロ圏市場へのアクセスとい う素晴らしい「ニンジン」は、各国に財政規律を維持させる大きな動 機付けとなる。適切な財政措置をさっさと取らない国は、債務削減の ために特別増税や歳出カットを実施するか、通貨統合からの離脱を強 いられるかの選択肢に直面する。

これは、1990年代初めに英国に起こったことだ。ソロス氏は英ポ ンドを欧州為替相場メカニズム(ERM)からたたき落とし、英国に 30億ドルの損失を負わせると同時に自身は10億ドルの利益を上げた。

メルケル首相の記憶

東ドイツ出身のメルケル首相は、良貨を持たない国では人材とい う資源が無駄になることを身に染みて知っている。首相が若かったこ ろの東ドイツ・マルクは、本物の通貨というよりは政治的ファンタジ ーだった。科学者のメルケル首相は、西側の科学者と対等に競争する ために必要な機材を買う金もなかっただろう。

ソロス氏のトレーダーたちが英国を攻撃した時のことを、ドイツ 人は米国人よりもよく覚えている。ドル以外の通貨は、たとえ地域の 中心国の通貨であっても、容赦なく売りたたかれる。

メルケル首相個人の記憶に加え、ドイツ人には1920年代のハイパ ーインフレという国民的記憶がある。戦争賠償金の支払いに苦しむワ イマール共和国はハイパーインフレに見舞われ、中産階級の貯蓄を消 し去り経済を低迷させ、ヒットラーの台頭を許すことにつながった。

ソロス氏、そしてオバマ政権からの圧力は、メルケル首相や他の 欧州首脳が自身の健全な直感に従うのを難しくする。財政規律と成長 を両立させるドイツの政策の良さを見えにくくする。

二者択一

支出か痛みかのどちらかを選ばなければならないというケインズ 主義的な二者択一議論は真実ではない。例えば、デフレは必ずしも痛 みをもたらさない。ドイツがハイパーインフレに苦しんでいた1920 年代に、米国はデフレの中で繁栄を謳歌(おうか)していた。競争力 を高める税制と組み合わせた財政引き締めは、欧州を成長軌道に乗せ、 将来的にはユーロを、世界の基軸通貨としてドルへの真の挑戦者とす るだろう。

ソロス氏を弁護する最良の議論は、同氏が勧めるドイツとユーロ 圏の景気刺激策が実際に力強い成長を生みリセッション(景気後退) を防ぐだろうという点だ。しかし、その後はどうなるのか。米国と同 様に欧州の成長率も、毎回のリセッションを財政出動で乗り切れるほ ど高くはない。2010年もしくは11年のユーロ圏の大規模歳出をドイ ツが容認すれば、欧州諸国は人の弱みに付け込む為替トレーダーの格 好の獲物になるだろう。

オバマ政権の支出奨励も不誠実だ。外交問題評議会(CFR)で のわたしの同僚、セバスチャン・マラビー氏が指摘するように、基軸 通貨としてのドルの地位は、通貨への攻撃から身を守る防弾チョッキ だ。ユーロには防弾チョッキがない。

ソロス氏はオバマ政権を援護したいのだろう。欧州も盛大に支出 すれば、米国だけが目立つことはない。欧州が放漫財政を取れば、ユ ーロによってドルの地位が脅かされにくくもなる。いずれにせよ、ソ ロス氏が「自分で何をやっているか分かっていない」とは考えにくい。 (アミティ・スレイズ)

(アミティ・スレイズ氏は、ブルームバーグ・ニュースのコラムニ ストです。このコラムの内容は同氏自身の見解です)

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