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【コラム】中国に「ヘンリー・フォード現象」、その善悪-W・ペセッ

中国の工場でのストがこの調子で 続けば、中国の共産主義化が必要になる可能性がある。

これに対し中国がどのような方針を取るかは興味深い問題だ。賃 上げ要求を支持し、ストの拡大を容認するだろうか。あるいはこのうえ なく重要な輸出システムを守るために、あのポーランドの自主管理労組 「連帯」を想起させるかのように強まりつつある活動の取り締まりを図 るだろうか。あるいは、米グーグルを遠ざけることとなった共産主義の みならず、真の共産主義を労働者らが要求するようになるだろうか。

いまのところ、中国は第一の選択肢、すなわち共産主義よりは資 本主義に近い道を進んでいる。こうした状況を見ると、世界で最大の 人口を抱える中国で、「ヘンリー・フォード現象」ともいうべき動きが 起こるのでないかと心配になる。これは世界経済にとってプラスとマイ ナスの両面がある。

プラス面は、中国の指導者らが、米自動車会社フォード・モーター を創立した実業家、ヘンリー・フォード氏を模範にしていることだ。 フォード氏は1914年、自動車業界の労働者の平均賃金を倍増し、1 日当たり5ドルとした。この結果、これら労働者にフォードの「T型モ デル」を購入する余裕が生まれ、米中間所得層の中核部分を成す安 定的な労働力のモデルとなった。

燎原の火のごとく

現在、中国で燎原の火のごとく広がっているのは、ストライキと いうよりはむしろダイナミックな国内需要だ。解き放たれたプラスの ドミノ効果は、工場労働者が生産する製品への国内需要を後押しする だろう。こうして中国の輸出経済から消費者主導型経済へのシフトは加 速すると予想される。

最近のストのターゲットとなったトヨタ自動車やホンダ、日産自動 車は、単に安価な労働力の利用を図って中国に進出したのではない。世 界最大の自動車市場を狙っているのだ。つまり、ヘンリー・フォード氏 に倣って、自社製品を従業員に売ろうとしている。

外資系企業が中国の工場を閉鎖し、生産拠点を他の国に移すのでは ないかとの議論は、的外れだ。さまざまな問題があるとはいえ、中国 は向こう20年間、世界最大の自動車市場となると予想される。中国 で販売するために、ベトナムやインドネシアでセダンやトラックを生 産するのはナンセンスだ。外資系企業の工場の多くは中国に残るだろ う。

中国労働者は状況把握

メーカー側にとって問題なのは、従業員らが状況を良く分かって いることだ。平均的な従業員は、わざわざグーグルで検索しなくても、 国有企業の方が外国企業よりも待遇が良いことがよくあることを知っ ている。メディアで報道されるストの多くが外資系なのは恐らくこの ためだろう。国有企業でストを試みる従業員はほとんどいない。中国 で「連帯」のワレサ委員長を目指すリスクが大きいことは明白だ。

賃金をめぐり痛ましい出来事も増えている。米アップルのスマー トフォン(多機能携帯端末)「iPhone(アイフォーン)」などを 生産する台湾の鴻海精密工業の中国子会社、富士康国際(フォックス コン)では、従業員の自殺が相次いだ。しかし、同社が従業員の不満を 解消できるほど急ピッチで賃金を引き上げるのは容易ではない。

ただ世界の企業の戦略は調整を余儀なくされるだろう。中国の 予想外の賃金高騰は利益率を引き下げるほか、世界的にインフレ率に 影響を及ぼすからだ。いずれこのような時が来るだろうと誰もが予想 していたものの、その時期が大方の見立てよりも早かった。

高層ホテルから見えるもの

中国のストが世界に及ぼすマイナス面の影響は、環境だ。最近、 中国の大都市を訪れた人ならお分かりになるだろう。例えば上海だ。 世界経済の中心とされている都市の全景を部屋から見渡してやろうと わくわくしてエレベーターで高層ホテルの上階に向かうが、部屋に入 ってカーテンを開けてもスモッグが立ちはだかりまったく何も見えない ということがしばしばある。

都市の大気や河川の汚染はすでに進行しているが、可処分所得の 増大に伴い一般的な労働者の自動車や住宅などの購買意欲は今後さら に増すことから、汚染は悪化するばかりだと予想される。工業生産の伸 びは抑制されない一方で、街を走る車は増加の一途をたどり、中国の環 境問題は加速度的に増大している。中国はもちろん環境問題に取り組む 「グリーン化」を進めているが、その作業のペースは十分でない。

中国は、単位国内総生産(GDP)当たりの炭素排出量を、2020 年までに05年の水準から最大45%削減すると表明している。削減に向 けた主要政策の1つは電気自動車の販売奨励策だ。5都市で実施され た試験プログラムでは、プラグインハイブリッド車については最大5 万元(約66万円)、電気自動車は6万元の購入補助が提供されている。

電気自動車の落とし穴

しかし、この販売奨励策は環境面で効果があるというよりはむし ろ有害だ。北京を含む中国北部の昨年の供給電力の最大98%が石炭 火力発電によるものだった。つまり、電気自動車に由来する二酸化炭素 排出量の総計が、エンジン車の排出量を上回ることになる。

中国の人口は13億人に達している。問題は、5億台の車が排ガス を出した場合を想定して大気汚染対策の準備がなされているかというこ とだ。中国の指導者らが、世界的な金融危機を乗り切ったのと同じぐら いうまく、成長を持続させられることを願うのみだ。しかしそれはかな り巧みな戦略を必要とするだろう。

確かに中国の指導者らは非常に賢明な人たちだ。しかし、工業化の 途上にある国である種の危機を回避できた例はこれまでにない。中国に とっては、悪化の一途をたどる汚染が最大のリスクだろう。

ヘンリー・フォード氏が米国に示したのは、成熟した経済では消 費者が正当に報われるのは当然のことだということだった。しか し中国ではそれは簡単ではないようだ。(ウィリアム・ペセック)

(ウィリアム・ペセック氏は、ブルームバーグ・ニュースのコラ ムニストです。このコラムの内容は同氏自身の見解です)

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