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債券の王者、株式の世界に乗り出す-「ニューノーマル」への船出

世界最大の債券ファンドを運用 する米パシフィック・インベストメント・マネジメント(PIMCO) のビル・グロース氏(66)は、海が見渡せる本社ビル会議室のいすに 座ると、これまで明らかにしていなかった事実を語り出した。それは、 1980年代半ばにPICOが実験的に取り組んだ株取引での失敗談だっ た。

当時のPIMCOの戦略会議では、グロース氏の部下の債券トレ ーダーらが少数の株式トレーダーを圧倒しており、株式トレーダーら が株取引の拡大を提案しても債券トレーダーらの反対で却下されるの が常だった。自分の投資アイデアを追求することもままならないこと から、株式トレーダーらは2年ほどで退社していったという。

グロース氏は「こうした会議は『いいか、この会社は債券を売る 会社だ。それがわれわれのやることだ。それが社の方針だ』という調 子だった」と語り、「もしもわたしに問題があったとしたら、これか ら株式投資の拡大を大いに奨励して、この問題を解決できるだろう」 と強調した。

この約40年間、債券の代名詞的存在だったPIMCOは現在、 再び株式取引に挑戦している。しかし現在は、株式投資に深く踏み込 むのに適している時期とは言えないようだ。米株の不安定さの指標で あるシカゴ・オプション取引所(CBOE)のボラティリティ指数 (VIX)は、ソブリン債危機が欧州を席巻した5月下旬に1年2カ 月ぶりの高水準に達した。

様相が異なる時代

PIMCOの株式投資を主導しているのは、モハメド・エラリア ン最高経営責任者(CEO)だ。同氏は世界経済がこれまでとは様相 が全く異なる時代に入りつつあると分析し、この新しい局面を「ニュ ーノーマル(新たな標準)」と呼んでいる。

それによると、財政赤字の拡大と金融規制の強化が向こう3-5 年間、米国とユーロ圏の経済成長を抑制。一方、ブラジルや中国など 新興市場国は、安定的な公的債務と中間層の拡大に支えられ、好景気 が続くと予想されている。

エラリアン氏はこうした想定に基づき、ニューノーマルの下では 投資家のリターンは妙味がなくなることから新たな投資先を求めるだ ろうと主張する。同氏は幾つかの新たな資産クラスを採用しており、 この1年間にヘッジファンドや不動産ファンド、買収ファンドに投資 する子会社や株式投信の設立を指揮した。PIMCOはこのほかにも、 上場投資信託(ETF)10本を立ち上げた。

グロース氏とともにPIMCOの最高投資責任者(CIO)を務 めるエラリアン氏(51)は、「われわれは、並外れた変革の時代を生 きている」とした上で、「われわれが顧客のために変化の水先案内を 確実にできるようにしたい」と語った。

的外れとの指摘も

しかし、こうした分析に異論を唱える者もいる。一部の政府当局 者や証券アナリストは、エラリアン氏の「ニューノーマル」は的外れ だと指摘する。

ブルームバーグのデータによると、2000人余りの株価予想に基づ けば、好調な企業業績を背景にS&P500種株価指数は来年5月まで の1年間で26%上昇することになる。

投資家の中には、PIMCOは専門分野に徹した方が良いとの見 方もある。債券と先物、クレジット・デフォルト・スワップ(CDS) を組み合わせた運用を行うPIMCOの旗艦ファンド、トータル・リ ターン・ファンドのこの10年間の成績は、ライバルの債券ファンド を97%上回っている。

カリフォルニア州に拠点を置くMWインベストメント・ストラテ ジー・グループでPIMCOを主な投資先として3000万ドル(約27 億円)相当の資産運用に携わるマーティン・ワイル氏は「ファンド運 用会社が新たな事業に進出すると、わたしは非常に不安になる」と述 べ、「わたしはPIMCOに対して強い尊敬の念を抱いている。PI MCOの株式投資に乗るかと聞かれれば、そのつもりはない。様子見 するだろう」と語った。

最良の日々は過ぎた

グロース氏が有名になったのは債券のおかげだが、PIMCOの 予想によれば、この30年間続いてきた債券の値上がりはやがて終わ りを迎える見込みだ。同氏は、各国が財政赤字の削減を図り過去最大 規模の国債発行を実施し、それがインフレ再来や金利上昇を招くこと から債券価格の上昇は終わるとみている。

グロース氏は「債券にとって最良の日々は過ぎた」と述べる。同 氏は「ニューノーマル」におけるリターンは4-5%になると予想す る。

「債券の王者」のPIMCOが現在、より良い長期投資として盛 んに株式を推奨している。グロース氏は、米国債のリターン低下とと もに、投資家は高利回り債や株式、そして最終的には不動産というよ うにリスクを取らざるを得なくなるだろうと指摘。「10年、15年、 20年先を考えた場合、これらの資産は比較的高い伸びを示すとみられ ている。投資を開始した時点の価格が適正であれば、長期的なリター ンは株式が債券を上回るだろう」と説明した。

しかし、グロース氏の債券に関する予想は当面裏切られそうだ。 同氏は5月に、ギリシャなどの欧州諸国は経済成長に頼るだけでは急 速に膨らむ財政赤字を補てんできそうもなく、デフォルト(債務不履 行)に陥る公算が大きいと警鐘を鳴らしたが、それ以降、世界中の投 資家が資産を米国債に注ぎ込んできた。

PIMCOは米政府債務の対国内総生産(GDP)比率が90%ま で拡大する可能性があると予想しているものの、米国は依然として投 資家の安全な避難場所となっている。こうした動きを受け、グロース 氏も5月、トータル・リターン・ファンドの政府関連債の配分を拡大 し、昨年11月以降で最も高い水準に引き上げた。

債券の強み

PIMCOの株式への参入の皮切りとなったのは、4月に立ち上 げたグローバル投資信託「ピムコ・EqS・パスファインダー」だっ た。同投信は主として欧州の割安な証券を購入する。持ち高の上位10 位中、米国を拠点にしているのは、金連動型ETFのSPDRゴール ド・トラストのみだ。英ブリティッシュ・アメリカン・タバコ(BA T)や仏食品メーカーのダノンなどパスファインダーの主要投資先は、 少なくとも利益の一部を新興市場から得ている。ブルームバーグのデ ータによると、5億ドル超の資金を呼び込んだバスファインダーの6 月7日までの1カ月間の運用成績はマイナス1.7%にとどまり、同種 ファンドの上位4%に入った。

また一部のアナリストは、PIMCOの傑出した債券運用能力が あらゆる種類の投資でも強みになると指摘する。コネティカット州に 拠点を置くロジャーズケーシーの主任調査ストラテジスト、シンシ ア・スティア氏は、昨年の欧州債スプレッド(利回りの上乗せ幅)の 拡大が、迫りつつあった債務危機の前触れだったと指摘する。債務危 機の広がりに伴い、欧州株は5月25日に8カ月ぶりの安値に下落し た。

機関投資家の資産2650億ドル相当の運用に携わるスティア氏は、 「債券の観点から株式を分析するのは必要なことだ」と述べ、「PI MCOのソブリン債調査は群を抜いて優れている」と評価する。

運用額1兆1000億ドルのPIMCOの株式への進出は、個人投 資家の呼び込みを図る努力の一環でもある。米投資信託協会(ICI) のデータによると、昨年末時点で全投信資産のうち、個人投資家の資 産が占める割合は84%だった。また個人投資家の支払う運用手数料が 機関投資家よりも高いという利点もある。

PIMCOの利益は、親会社の独保険会社アリアンツの資産運用 部門の好決算に寄与した。同部門の2010年1-3月(第1四半期) 営業利益は前年同期比121%増の4億6600万ユーロ(約517億円) だった。こうした実績を評価して、アリアンツはPIMCOに干渉し ない方針を採っている。グロース氏は「アリアンツは本当にわれわれ を放っておいてくれる」と語った。

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