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ホンダは「パワーオブドリーム」取り戻せるか-低燃費路線は競争過酷

「パワーオブドリーム」(夢を与 える)の理念を掲げるホンダは新規性に富んだ数々の車を投入してき た。しかし、最近は市場環境が激変、主力の北米市場では激しい追い 上げを受けている。1年前の就任以来、環境対応車の開発が最優先課 題とする伊東孝紳社長は、ホンダの理念を追い続けることができるの か、難しいかじ取りを迫られている。

「今思えばリーマンショックはありがたかった」-伊東社長は5 月20日、都内で記者団に就任1年を振り返った。社長就任はリーマン ショックの影響が深刻さを増す2009年6月。当時は「今のままではい けない」と感じながら、「あぐらをかいていた」と言う。リーマンショ ックは、車づくりの方向性を変える社内説得の材料になった。

伊東社長は1978年にホンダに入社。97年にホンダの技術開発を 担う本田技術研究所の取締役に就任して以来、開発のかじ取りに携わ ってきた。自動車業界全体が大型化・高付加価値路線を進んでいた。

本田技研社長の川鍋智彦氏は、伊東社長が就任したときに「価値 観を燃費にもっていくという哲学を共有した」と言う。それ以来、「環 境寄りへのシフト」と「新興国市場向けの安い車づくり」の2点を強 力に推し進めた。

大型エンジンプロジェクトを見直し、時代に合わないものは凍結 した。開発中の新型シビックも見直した。川鍋氏によると、「時代に即 したものに」という伊東社長の指令で、燃費やサイズを再検討し、「よ り環境志向と妥当価格」を目指しているという。乗用車「シビック」 は09年に世界で68万台を販売したホンダのトップモデル。

北米市場の競争激化

ホンダが注力する「低燃費で小型」というカテゴリーは、特に北 米市場で競争が激化している。ホンダの北條陽一取締役は5月、ブル ームバーグのインタビューで「今までホンダが得意としていた燃費の 良い小型セグメントに、米国や韓国のメーカーが次々に参入して競争 が厳しくなっている」という見解を示した。

格付け会社ムーディーズ・ジャパンの臼井規シニアアナリストは、 その背景として韓国の現代自動車(ヒュンダイ)の品質が非常に良く なってきていることや、米フォード・モーターが、燃費の良い車を出 してきていることなどを指摘する。

フォードが米国で6月発売の新型「フィエスタ」は、米国基準の 燃費が一般道路で1ガロン当たり30マイル、高速道路で同40マイル。 ホンダのコンパクトカー「フィット」の同27マイルと同33マイルを上 回る。また、ヒュンダイの新型セダン「ソナタ」はホンダの乗用車「ア コード」と、ヒュンダイの5代目セダン「エラントラ」はホンダのシ ビックと、それぞれ競合していくとみられている。

経営資源の効率的再配分

本田技研社長の川鍋氏は、次世代自動車の開発方針で「経営と技 術的な方向性を一致させる」必要性を強調する。例えば電気自動車に ついては現在、価格、利便性とも現実的ではなく、バッテリー技術が 進化するのを待つという。

電気自動車は国内外の自動車メーカーが参入を急いでいる分野で、 日産自動車は6月7日に「リーフ」の国内予約が6000台を達成したと 発表。カルロス・ゴーン最高経営責任者(CEO)は、12年までに全 世界で年間50万台を生産する計画を表明している。また、トヨタ自動 車は5月、米電気自動車ベンチャーのテスラ・モーターズに約45億円 出資して電気自動車を共同開発することを明らかにした。

調査会社IHSグローバルインサイトの安宅広史氏は、ホンダの 燃費向上戦略がハイブリッド車のラインアップ拡充中心となっている と指摘した上で、軽自動車にアイドリングストップ機能搭載やターボ チャージャーを研究しているとみている。また、電気自動車について は研究を続けているので、いざとなれば切り替える体制はできている はずだと指摘する。

金融危機に端を発した世界不況を受け、ホンダは08年、経営資源 の効率的な再配分のため、自動車レースのフォーミュラーワン(F1) から撤退を発表したほか、90年から量産して05年末に生産を中止し た高級スポーツカー「NSX」の後継車の開発も中止した。

パワー・オブ・ドリーム

ホンダは01年から「The Power of Dreams」というキャッチコピ ーを使ってきた。当時の発表では「人々と共に夢を求め、夢を実現し ていく」意思表明としている。ところが金融危機を経て、安宅氏は、 ホンダが保守的になってきているとみている。「オデッセイミニバンみ たいに新しくジャンルを切り開いたものがない」と述べ、「元気がなく なってきた印象がある」と指摘する。

自動車価格情報を提供しているケリー・ブルー・ブックのアナリ スト、ジェイムズ・ベル氏は、ホンダがデザイン性を重視しなくてな ったという印象を持っている。ホンダ車について「BMWに憧れる人 たちが安くてもスタイリッシュさを求めて買う車だった」と振り返っ た上で、「今は際立ったデザイン性がみられなくなっている」という。

伊東社長は初代NSXのボディ設計担当エンジニアだった。ホン ダの「小説NSX」によると、伊東社長は、成形性に優れたアルミを 使ったボディを採用しようと新幹線の設計者と相談、材料メーカーを 説得し、当時不可能と言われた「オールアルミボディ」を実現させた。

いったん中断したNSX開発を再開する可能性について、伊東社 長は4月の北京モーターショーで「もちろん可能性はある。スポーツ カーは大好き」と述べた上で、「でも財布と経済状況と相談しなければ いけない」と答えた。

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