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ECB:重み増すウェーバー氏、独連銀の伝統背負い次期総裁に最短

5月10日、欧州中央銀行(ECB) が国債購入に踏み切った数時間後、ドイツ連邦銀行のウェーバー総裁 (53)はトリシェ総裁を含むECBの政策委員会に反旗を翻した。

ウェーバー氏は「国債購入は安定性への多大なリスクとなる。こ のため、政策委の決定のこの部分には批判的だ」と表明した。

独紙ベルゼンとのインタビューでのこの発言はその後、独連銀の ウェブサイトにも掲載された。発言前夜にウェーバー氏は、ECBの 緊急電話会議に参加していた。

各国の財務相らがブリュッセルで欧州連合(EU)主導の7500億 ユーロ(約85兆円)規模の救済基金の構想を詰める間に、トリシェ総 裁はほとんどの政策委員から国債購入についての合意を取り付けた。 ギリシャの財政悪化を発端とした債券市場の混乱を収束させるには同 措置が必要だと説得した。

しかし、次期総裁候補の最右翼であるウェーバー氏を説き伏せる ことはできなかった。トリシェ総裁の8年間の任期満了を2011年10 月に控え、ウェーバー氏の発言はますます重い。ユーロ圏経済全体の 4分の1以上を占め、財政規律と物価安定で域内で異例の実績を誇る ドイツの中央銀行総裁だからだ。

ドイツのメルケル首相がギリシャ支援に最後まで抵抗したのと同 様に、ウェーバー氏もECBが財政赤字国の救済にかかわり過ぎるこ とを嫌い、立ちふさがる。

価値観の体現者

シティグループの欧州担当チーフエコノミスト、ユルゲン・ミヒ ェルス氏(ロンドン在勤)は、「トリシェ総裁を除けば、ウェーバー氏 が最大の有力者だ」と言う。ウェーバー氏は「イデオロギーに凝り固 まっているわけではないが、ドイツの持ち味である強い通貨への信奉 の体現者ではある」とも指摘した。

ウェーバー氏の断固たる姿勢は欧州首脳らにとってジレンマだ。 欧州は今後1年の間にトリシェ総裁の後任を選ばなければならない。 ECB総裁はユーロ圏16カ国の中銀総裁を含む22人で構成する政策 委員会を率いる。

ウェーバー氏がフランクフルトの北に立つ独連銀の箱型コンクリ ートビルから、同市の中心街にそびえるガラスと鋼鉄の36階建てユー ロタワー(ECBの本部)に引っ越せば、ドイツ・マルクの価値を半 世紀にわたり守り続けた独連銀の伝統が、ユーロ圏のものになる。危 険だと考える政策に対しては遠慮なく物を言う率直な金融経済学者を 域内中央銀行の総裁に頂くことにもなる。

政治

しかし、「政治家らが強く望んでいると分かっている政策への公の 反対はウェーバー氏のECB総裁指名を若干難しくするかもしれな い」と、JPモルガン・チェースの欧州担当チーフエコノミスト、デ ービッド・マッキー氏は話す。政治家らは「本当にこの人に任せて大 丈夫だろうか」と自問するだろうという。

一方で、債券購入の危険性について警告したウェーバー氏は正し いとマッキー氏は言う。また、ニューヨーク大学のヌリエル・ルービ ニ教授は次期ECB総裁が直面する「巨大な課題」を指摘する。「通貨 統合崩壊のリスクが高まっている中で、ECBはこれを防ぐため重要 な役割を担わなければならない」と同教授は述べた。ルービニ教授も ウェーバー氏が最有力候補だと考えている。

ユーロは今年に入りドルに対して13.8%下落。10年物国債のスペ インとドイツの利回り格差はユーロ導入来の最大の216ベーシスポイ ント(bp、1bp=0.01%)に近い。トリシェ総裁の後継者は、欧 州債券市場への介入拡大も含め、引き続き非伝統的措置を導入してい かざるを得ないとみられる。

学者

ウェーバー氏は2004年、20年にわたる学者の道を捨てて独連銀 総裁となった。専門は応用金融学・国際経済学。ソシエテ・ジェネラ ルのユーロ圏共同チーフエコノミスト、ジェームズ・ニクソン氏は独 連銀総裁という立場に加え学者としての重みもウェーバー氏が次期E CB総裁として有力な理由だと指摘する。

ドイツの政界とのつながりも深い。02-04年には政府の経済顧問 である5賢人委員会に名を連ねたほか、教えた学生の中にはアスムセ ン財務次官やメルケル首相の首席経済顧問、イエンス・ワイドマン氏 などがいる。

メルケル首相はこのところ、不人気な救済策を国内外の政治家に 売り込むスポークスマンとしてウェーバー氏を重用している。同氏は 独連銀総裁として5月19日には救済策を売り込むためベルリンの連 邦議会に立ったが、それが自身の本意ではないことを明確にした。

次期ECB総裁となるには調停手腕を向上させる必要があるかも しれない。ウェーバー氏とともにECB政策委員を務め08年にオース トリア中銀総裁を退任したリープシャー氏は、ウェーバー氏は「自身 の信念について常に正直だが、必ずしも外交的ではない」と述べた。

対抗馬

次期ECB総裁の座をめぐり、ウェーバー氏の唯一の対抗馬はイ タリア中銀のドラギ総裁(62)だが、ギリシャ政府のスワップ契約を アレンジしたことが問題視されている米ゴールドマン・サックス・グ ループに02-05年にかけて在籍したことが逆風になりそうだ。

メルケル首相はウェーバー氏の指名について、フランスのサルコ ジ大統領の支持を取り付けたとも報じられている。パリドーフィーヌ 大学のフィリップ・シャルマン経済学教授は、「メルケル首相がウェー バーECB総裁を望むと言えば、サルコジ大統領がこれを阻むことは 恐らくないだろう」と話す。

ひび割れた土台

学生時代に建築関連のアルバイトをしたウェーバー氏は、政府と 一線を画す中央銀行としてECBを「建て直す」適任者なのかもしれ ない。同総裁は5月31日に独連銀の職員らに、「ひびの入った通貨統 合の土台を、補強しなければならない」と語っている。

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