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行天元財務官:ユーロ崩壊「ない」、人民元改革は「年内」あり得る

国際通貨研究所の行天豊雄理事長 (元財務官)は17日、欧州債務危機下でもユーロは崩壊しないとの見 解を示した。米国の過剰消費に依存した世界経済の構造が金融危機後 も変わらなければ、不均衡の再拡大で将来ドル不安が生じる恐れがあ ると指摘。中国が人民元改革を年内に始める可能性は「まだかなりあ る」と予想した。20カ国・地域(G20)首脳会議では政策目標の確認 や意思のすり合わせが重要だと語った。

行天氏(79)は17日のインタビューで、欧州は「7500億ユーロ で時間を買うことができた」と分析。緊縮財政は景気下押し懸念を伴 う「諸刃の剣」だが、手を緩めるのは「非常に危険で、問題の先送り に過ぎない」と話した。市場に「期待と安心感」「不安と失望」のどち らをもたらすかは「政治的な指導力の質と能力にかかっている」と強 調。財政規律の強化で市場の信認が「劇的に改善すれば、必ずプラス に働く」と述べ、1980年代の英サッチャー、米レーガン両政権の成功 例を挙げた。

域内16カ国の共通通貨ユーロは「発足後最大の危機に瀕している」 が「欧州の歴史的統合に対する欧州人の思い入れは、域外の者が想像 する以上に強い」と指摘。「どんな困難に見舞われても、欧州は最終的 に切り抜けるだろう」と話し、ユーロ崩壊は「ない」と言明した。

ユーロ圏16カ国政府は5月9日、欧州連合(EU)緊急財務相理 事会で、国際通貨基金(IMF)からの2500億ユーロを含め、最大 7500億ユーロを圏内諸国に融資する枠組みで合意。欧州中央銀行(E CB)も公社債の購入による市場安定化策を打ち出した。著名投資家 ジム・ロジャーズ氏は今月16日、ユーロは財政赤字国の救済により 10-15年後に姿を消すと予想した。

ユーロ、来年に一段安も

行天氏は、米国経済の緩やかな回復もあり「中期的にはユーロ安・ ドル高は変わらない」と分析。来年以降、ギリシャ支援策の成果が上 がらない場合には、ユーロが「さらに下押しされる可能性は十分ある」 と語った。ただ、史上最安値までは下落しないとも予想した。

ギリシャの財政懸念が域内の重債務国にも広がる中、ユーロ相場 は7日に対ドルで一時1.1877ドルと06年3月以来、円に対しても1 ユーロ=108円8銭と01年11月以来の安値をつけた。99年1月の導 入後の最安値は2000年10月につけた0.8230ドルと88円96銭、最高 値は08年7月の1.6038ドルと169円96銭。

行天氏は、円相場も「当面はドル高・円安」基調と予測した。日 本経済は徐々に改善しているが、財政に「かなり大きな不安感」があ り「これからが正念場だ」と強調。菅直人内閣の「プランと実際の行 動」が市場に「希望と期待」をもたらせば、円の信認も向上すると指 摘した。日本銀行は当面「出口政策とは全く関係ないだろう」と予想。 財政再建下で景気を支えるため、金融緩和を続けざるを得ないと分析 した。

不均衡の再燃、ドル不安も

世界経済の不均衡が「金融危機前と同じ形になる可能性は非常に ある」と、行天氏は懸念。米国の過剰消費で米経常赤字や対外純債務 が増大する構図が再現すると、「来年以降、ドル不安が当然出てくる」 と予想。米貯蓄率の上昇が続くかは不透明で、中国や日本は対米輸出 を再び増やしていると指摘した。

行天氏は欧州債務危機の発生前は、中国が人民元の変動幅拡大を 「年末までに始める」と予想していた。中国当局の基本方針は現在も 変わっておらず、「年内に動き始める可能性は、まだかなりある」と述 べた。中国は05年7月に人民元相場のペッグ(連動)制を廃止し、緩 やかな元高を容認していたが、08年7月以降は6.8元台に抑制。一日 の変動許容幅は人民銀行が決める中心値から上下0.5%以下としてい る。

人民元、上昇容認が合理的

人民元相場の切り上げは中国に輸出産業への打撃、失業の増加、 社会不安を連想させる面もあるが、国内景気の過熱やインフレへの懸 念が強まれば、人民元高が望ましくなると、行天氏は分析した。利上 げのみ実施すると、投資資金の流入加速で通貨高圧力が増すため、元 売り介入をさらに増やす必要が生じると指摘。金融引き締めと同時に 人民元高を容認する組み合わせは「常識的にはあり得る」と語った。

行天氏は、中国による人民元高の抑制で、米国には「得られるべ きドル安のメリット、米国の中長期的な成長モデルとする輸出の増強 が実現できないという苛立ちが非常にある」と分析した。

ガイトナー米財務長官は11日、中国の為替政策が「世界の不均衡 是正にとって障害だ」と発言。中国外務省の秦剛報道官は14日、人民 元相場の上昇は米中間の貿易不均衡を解消しないとの見解を表明。国 家統計局の馬建堂局長は17日、人民元相場が対ユーロでは7日までに 年初来20.5%上昇したと強調した。

行天氏は、今後の展開は米中次第だが、中国が人民元高抑制を長 期間続けるなら「だんだんと不自然になってくる」うえ、他のアジア 諸国にとっては「近隣窮乏化政策だということにもなる」と語った。

G20は26、27日にトロントで首脳会議を開く。行天氏は、G20 には「具体的な事を決める権限はない」と指摘。20カ国・地域の首脳 が「整合性のある国内政策や為替政策で完全に一致するのは無理だろ う」が、少なくとも「世界的な協調を目指した意思の統一、目標につ いての確認は非常に大事だし可能だ」と強調した。

行天氏は1955年に東京大学を卒業し、大蔵省(現・財務省)に入 省。国際通貨基金(IMF)出向などを経て、85年9月の「プラザ合 意」時には国際金融局長、翌年から財務官を務めた。89年に退官。ハ ーバード大学やプリンストン大で教鞭を取り、92年から東京銀行 (現・三菱東京UFJ銀行)会長。95年12月から国際通貨研究所の 初代理事長。98年には小渕恵三内閣の特別顧問、09年9月発足した鳩 山由紀夫内閣では藤井裕久財務相の特別顧問に就任した。

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