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【書評】ヘッジファンド会社社員は自殺願望、ソロス氏は救世主夢想

ヘッジファンド業界の大金持ち たちは、羨望(せんぼう)とやゆの対象になり、憎まれたり悪者扱 いもされる。奇矯(ききょう)な振る舞いもイメージを悪くする一 因だ。セバスチャン・マラビー氏が「モア・マネー・ザン・ゴッド (仮訳:神よりも豊か)」でユニークなヘッジファンド運用者らを描 いた。

例えば、ジョージ・ソロス氏は自身を救世主だと夢想した。ポ ール・チューダー・ジョーンズ氏は映画俳優ブルース・ウィリスの 中古スニーカーをはいて電話に向かって注文を怒鳴る。マイケル・ スタインハルト氏は部下を泣き出させる。

部下の1人が「死にたい」と言うと、スタインハルト氏は「見 学していいかな」と返す。

ケン・グリフィン氏のベルサイユ宮殿での結婚式やフェラーリ でいっぱいの車庫など、行き過ぎはあるものの、ヘッジファンドは もしかしたら、銀行に代わってその役割の一部を果たす可能性を秘 めていると著者は論じる。銀行スーパーマーケットは金融危機中に 崩壊したか救済されたと同氏は書いている。同氏は外交問題評議会 の研究員で、エコノミスト誌に勤務経験もある。

ほとんどのヘッジファンドは、シティグループとは異なり、自 らのリスク管理の結果によって生き残ったり倒れたりする。また、 つぶせないほど大きくはないとマラビー氏は指摘する。2000-09 年には約5000のファンドが閉鎖されたが、税金による救済が必要 になったファンドは皆無だ。

先取り

マラビー氏の著書は、読者をヘッジファンド時代の幕開けの 1949年まで連れて行く。これは、アルフレッド・ウィンスロー・ ジョーンズという名前のフォーチュン誌の記者が10万ドルをかき 集めて自らの投資アイデアを試し始めた年だ。ジョーンズという人 物はハーバード大学を卒業した後、欧州を転々とし、スペイン内戦 の最前線でドロシー・パーカーやアーネスト・ヘミングウェイと酒 を酌み交わしていたという経歴の持ち主。わずか48歳で、今日も 使われている「ヘッジドファンド」という投資形態を作り出した。

ジョーンズは「保守的な目的のために投機的な手段を使う」戦 略で、レバレッジ(借り入れ金)と空売り(将来の値下がりを見込 み借りた資産を売る取引)を組み合わせた。この投資手法は、ノー ベル経済学賞受賞者、ハリー・マーコウィッツ教授が論文「ポート フォリオ・セレクション」で説いた理論などを先取りしたものだっ た。68年には、ジョーンズは5000%に近い累積投資リターンを達 成していた。

クオンツ

著者は時代を下り、伝説的なヘッジファンド運用者たちにペー ジを割きながら、彼らが効率的であるはずの市場の非効率を指摘す ることで利益を上げていくさまを描く。

機関投資家による株式の大口売買を助けて巨額利益を上げたス タインハルト氏や、クオンツ投資の草分けの「コモディティーズ・ コーポレーション」が紹介される。ニュージャージー州の農場にこ もった博士号保有者たちが、数学とコンピューター、情報によって 市場を出し抜こうと模索する。彼らは黒板いっぱいに数式を書きな ぐり、「ココア」という名前の脚が3本しかないシェパードをペット として飼っていた。

このほか、ジェームズ・サイモンズ氏のルネッサンス・テクノ ロジーズに集まった暗号解読者集団やジョン・メリウェザー氏のロ ングターム・キャピタル・マネジメント(LTCM)など、クオン ツの世界の光と影が描かれる。

中でも3人の大金持ちが最も生き生きと描かれている。誤った 認識と市場が互いに影響し合うという再帰性理論を掲げ救世主夢想 について告白しているジョージ・ソロス氏、バリュー株投資家のジ ュリアン・ロバートソン氏、見習い綿花トレーダーとして出発した ポール・チューダー・ジョーンズ氏だ。

大混乱

話が90年代の東アジア通貨危機から、インターネットバブル へ、そして米サブプライム(信用力の低い個人向け)住宅ローン危 機へと進むと、これら3人の運命が交差し展開は加速する。グリフ ィン氏のシタデル・インベストメント・グループがいかに2008年 の大混乱を乗り切ったかも特に興味深い。

多くのヘッジファンドと同様に、シタデルは「地雷原をひらひ らと踊り抜けていた」が、米リーマン・ブラザーズ・ホールディン グスの破たん後にレバレッジが干上がり政府が空売りを禁止したこ とで挟み撃ちに遭ったとマラビー氏は書いている。

シタデルの2つの旗艦ファンドは08年に55%を失い同社は一 敗地にまみれるが、この一件は数十億ドル以上を運用するレバレッ ジを効かせた取引会社でも、市場が大混乱に陥ったからといって必 ずしも政府の救済を必要としないことを示したとマラビー氏は指摘。

同氏は、ヘッジファンドの歴史は当局が取るべき道を短い1文 で示していると結論付ける。すなわち、「規制するな」。一方で同氏 は、ヘッジファンドに対し、レバレッジ水準とプライベートパート ナーシップ(非公開の共同経営会社)であるかどうかに基づく3層 構造の監視体制を敷くように説く。ファンドが株式を公開したらし っかり見張ろう。(ジェームズ・プレスリー)

(プレスリー氏はブルームバーグ・ニュースの書評家です。こ の 書評の内容は同氏自身の見解です)

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