米鉄鋼業界労働者が肌で感じる景気回復-個人消費につながるかが鍵

鉄鋼会社で働くジェームズ・ボ ーガンさんは、米国の景気回復をけん引しているものが何かを肌で 理解している。彼の勤務先、ペンシルベニア州ブラッケンリッジに ある変圧器用特殊鋼工場は今、信用危機の影響を受ける前である、 少なくとも2008年夏以来の忙しさだという

「受注が増えればより多くの人手が必要となるため仲間も増え た」。組合員のボーガンさん(56)が働く工場は米特殊金属メーカー、 アレゲニー・テクノロジーズが所有する。今回の米リセッション(景 気回復)からの脱却では製造業がけん引役であり、ボーガンさんと その同僚もそれに貢献している。

製造業受注の増加、月次ベースで3年ぶりの高い伸びとなった 雇用者数、株高に企業収益の改善。これらはすべて、予想とは異な っている。特に、債券ファンド運用最大手、米パシフィック・イン ベストメント・マネジメント(PIMCO)のモハメド・エラリア ン最高経営責任者(CEO)は、今年の経済成長は鈍いとの見通し を示していた。

製造業活動の急拡大は、米国内総生産(GDP)が09年10-12 月(第4四半期)に過去6年間で最大の伸び率を記録するのに寄与 した。バークレイズ・キャピタルの米国担当チーフエコノミスト、 ディーン・マキ氏(ニューヨーク在勤)は、「回復に持続力のあるこ とがより明確になりつつある段階にある」と話す。ブルームバーグ・ ニュースがまとめたランキングによれば、同氏の09年GDP予想は 市場関係者の中で最も正確だった。3月の米非農業部門雇用者数は 前月比16万2000人増と、3年ぶりの大幅な伸びを記録した。

次は消費者の出番

マキ氏は、「月次の雇用者数の増加は、今年いっぱい続くだろう」 と予想。次の段階として米GDPの約7割を占める個人消費の回復 が必要だと指摘する。しかし同氏はここにも明るい兆候を見ている。 「消費者は追加的な収入を消費に回している。これは、今回の景気 回復が自律的なものとなる鍵だ」と話す。

最近の雇用関連指標は、景気に対する強気な見方を裏付けてい る。政府だけでなく企業も雇用を増やしている。民間部門の雇用者 数は10年1-3月(第1四半期)に増加。製造業の雇用者数は06 年以降で最長の連続増加を見せている。第1四半期の失業率は9.7% と、昨年10月の10.1%から低下した。

ドイチェ・バンク・セキュリティーズのエコノミスト、ジョセ フ・ラボーニャ氏ら一部のエコノミストが景気の先行指標とみる企 業収益は、09年第4四半期に前年同期比の増加率としては四半世紀 ぶりの高い伸びを示した。利益が増えれば企業の採用意欲は高まる。

ホームセンター米最大手、ホーム・デポは、売り上げ回復期待 を背景に、4年ぶりに店舗の従業員数を増やしている。同社は2月、 今年の売上高は2.5%増加し、06年以来の増収となると予想した。

「十分ではない」

それでもエコノミストの大半は、製造業の立ち直りだけでは、 景気回復の持続には不十分と考えている。製造業活動が米GDPに 占める比率は12%程度だ。

IHSグローバル・インサイトの米国担当チーフエコノミスト、 ナイジェル・ゴールト氏は、「問題は、製造業が経済規模に比べて十 分でないことにある。また、製造業による生産性向上は、サービス 業と比べるとかなり容易なため、多くの雇用を創出する公算は小さ い」と指摘した。

同氏は、米消費者が支出拡大に動きつつある兆候をつかみたい と話すが、一部にはそれが見られる。個人消費支出は2月まで5カ 月連続で増加した。ただ、2月の伸び率は前月比0.3%と、昨年10 月の0.6%から鈍化した。2月の消費者信用残高は減少し、米国民が 過去10年間にわたって行ってきたような借金による消費には慎重で あるか、それが不可能になっている可能性を示唆している。

エラリアンCEOの予測

実際、PIMCOのエラリアンCEOは、数年かけて積み上が った過剰債務の影響で、経済成長は抑制されるとの見通しを示して いる。同CEOは09年5月に、長期的な成長率の「ニューノーマル (新たな標準)」は2%未満となる公算だと予測した。

エラリアンCEOは今月20日に電子メールで、政府の景気刺激 策と緩和的な金融政策により、10年1-6月(上期)の米成長率は 3-4%を維持するとの見通しを示した。ただ、米消費者は上期に 支出を増やして貯蓄を減らした後、下期にはその反対の行動を取る 可能性があるため、7-12月(下期)に成長率は2%に減速すると 予想する。

消費支出は、賃金の傾向や雇用の変化、消費者信頼感の水準や 保有資産価値などに影響される。

しかしボーガンさんは、米国の経済成長について楽観的だ。彼 の工場には注文が殺到しているし、彼自身も口だけでなく行動でそ れを証明している。景気が縮小している間は出費を抑えてきた彼だ が、米ゼネラル・モーターズ(GM)のスポーツ型多目的車(SU V)、09年型「GMCエンボイ」を購入した。

「当時は多くの人が冬眠していた。今は一息つく余裕ができた よ」。

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