環境技術の導入に軸足移す中国メーカー、自動車の輸出大国を目指す

中国の自動車メーカーはここ数年、 自主開発を進めるため、定年退職した日本人のエンジニアを厚遇で迎 えて技術指導を仰いできた。その中国が求める人材に最近、変化が出 ている。欧米輸出を視野に入れている中国メーカーは、環境技術を導 入する必要があるからだ。

背景にあるのは、中国政府が掲げた自動車の輸出戦略。2011年ま で自動車・部品の輸出を前年比で毎年10%ずつ増やし、20年まで中期 的に中国からの輸出額が、世界の自動車貿易総額の10%を占めるとい う目標を掲げている。

中国の独立系メーカー、江准汽車は07年に日本に設立した設計セ ンターを通じ日本の技術者を募集、これまで数十人を中国の本社に紹 介した。センターの王文俊社長は「2-3年後に中国が大きな自動車 輸出国になっている」と述べ、エコ技術の必要性を感じているという。

王社長は「中国が必要としていたのは品質」と語り、「不良品が出 ない管理の仕方を日本人技術者は教えてくれる」という。同社は07 年からセダンタイプ車の生産を始め、プロジェクトごとに1人の日本 人を配置。その結果、日本人がかかわったプロジェクトでは、不良品 の割合が大きく減ったという。

当面の戦略は「中国市場で取りこぼしをしないこと」だが、国家 戦略である以上、輸出は既定路線。王社長はトヨタ自動車の海外展開 の歴史を例に、「先進国に出ることで、自らの技術レベルアップを図っ ていくことになる」と述べ、輸出と技術向上が同時に進むとみる。電 気自動車の技術に関心があるが、「新しい技術なだけに、どの技術の専 門家が良いのか見極める必要がある」と今はリサーチ段階だという。

開発技術から先進の環境技術へ

重慶長安汽車は昨年、横浜に開発センターを開設、2度の技術者 募集で17人の日本人を採用した。これとは別に、日本の技術者7人が 中国本土で働いている。同社は今年の中国自動車ショーに自社開発の 28車種を出展。うち4車種はハイブリッド車で、参考出展車両の中に はプラグインハイブリッド車や太陽光を利用した発電モデルも含まれ ている。

中国自動車メーカーが日本の技術者を求め始めたのは04年ごろ。 エイムス(東京都港区)の三輪正眼氏は「当初はコピー車をつくる金 型職人への要望が主だったが、07年ごろからは開発そのものに携わる 技術者を必要とするようになった」という。エイムスは中国メーカー の要請に応じ、自動車業界OBらのチームで技術提供している。

いすゞ自動車を定年退職して11年になる近藤清さん(73)は、中 国で技術指導を行ったエンジニアの1人。滞在は4つ星以上のホテル で運転手つきの送迎があり、専任の通訳が随行する好待遇だった。

中国自動車メーカーの奇端汽車から駆動系や車体強度の解析方法 などを指導してほしいという要請が07年にあり、その後、中堅の江准 汽車、大手の長安汽車とオファーが続き、08年12月まで現地と日本 を往復して技術指導した。長安汽車での報酬は1日5万円だった。

レアメタル技術者をリクルート

近藤氏は「今盛んに聞かれるのはレアメタルの技術を持った人が いないかということ」と明かす。レアメタルは自動車用廃ガス対策の 触媒に使われるなど環境技術には欠かせない。中国の関心が基本的な 開発技術から、先進の環境技術に移ってきていることがうかがえる。

京都大学大学院経済学研究科の塩地洋教授は、中国側が求める内 容が「教育や経験といった漠然としたものから、触媒をこういう形で 加工するための技術、といったピンポイントに絞られてきている」と 指摘する。日本の専門家リストを求める中国メーカーもあり、「日本の 技術者への要請レベルが、さらに一歩進んだ」とみている。

塩地教授は「過去10年で少なくとも100人、多ければ200人が中 国で技術指導をしたのでは」と推測する。2000年代初頭は技術指導の 名のもとに「金型の図面」だけを求めるケースが相次ぎ、経済産業省 が流出防止の指針(02年)を出したこともあった。このため、技術流 出を懸念する声もある。

技術でなく経験を伝える

エイムスの三輪氏は「技術流出というレベルにはなってない」と みている。「確かに、すごい勢いで先進国を追いかけている」のが中国 の現状としながらも、同時に「組織やものづくりの仕組みそのものが 違う」と述べ、文化の違いが技術習得の壁になっていると指摘する。 中国では、高い技術を習得した従業員がより好条件を求めて他企業に 移ることが多く、企業内での蓄積や伝承は少ない。

近藤氏も「技術流出」という考え方をしていない。近藤氏は31 歳のとき、米デトロイトでフォード・モーターを見学したいと願い出 たところ、「技術を盗むな」と拒絶された経験を持つ。紆余(うよ)曲 折を経て最終的に丁寧な対応を受けた40数年前の自分を、今の中国に 重ねる。

中国で指導していると、開発全体を通じて常にアドバイスを求め られ、「新入社員の目はきらきらとして」貪欲(どんよく)に学ぼうと いう姿勢も感じられる。図面を求められることもない。「私ひとりが意 固地になっても、いつかは学び追いつかれるんですよ」と笑顔で語り、 「技術を教えるのではなく、経験を伝えている」という。

中国自動車工業会の熊伝林・副事務局長は3月に来日した際、ブ ルームバーグなどに対し、中国の自動車市場は15年まで毎年、前年比 で10-15%の拡大を遂げ、中国メーカーが成長することで「日系メー カーからシェアを奪っていく形となる」という見方を示した。

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