世界屈指の大富豪は「文通仲間」-アルワリード王子とバフェット氏

3月末のある夕べ、サウジアラビ アのアルワリード王子はリヤドの豪華別荘で、キャンプファイヤーの 前の安楽いすでくつろいでいた。満月に近いこの日、ミニスカートに ジャケット姿の5人の女性が王子や側近らにクローブとカルダモンの お茶を配る。別荘の周囲にはシマウマやキリンなどが飼育されている 動物園や人口の湖があり、別荘内は室内プールとサウナが完備されて いる。

キャンプファイヤーの後ろの大型スクリーンのテレビ映像に世界 のホテル株が上がったというニュースが流れると、王子はいすから身 を乗り出した。目減りした資産を回復させようとしている富豪投資家 の王子にとっては明るいニュース。「ホテル業界は上昇軌道にある。離 陸しようとしている」と、王子は15人ほどの側近を従えて丘を下って 晩餐(ばんさん)の席に向かおうとしながら語った。

王子(55)は世界屈指の富豪だ。投資と個人的財産の記録によれ ば、資産は2000年5月に211億ドル(約1兆9700億円)。米アップル やニューズ・コープなどの著名企業への投資で資産を増やした。しか しそれ以後、これらの銘柄の多くは王子の期待を裏切った。特にひど かったのが米銀シティグループ株とメディアのタイムワーナー株だ。 王子の投資会社キングダム・ホールディングの2010年3月31日時点 の時価総額と同年2月10日時点の個人財産を合わせた資産は、166億 ドルに目減りしていた。

王子はしばしば、自身のことを「アラビアのバフェット」と称す る。しかし、保険・投資会社バークシャー・ハサウェイを率いる「オ マハの賢人」ウォーレン・バフェット氏との比較は王子に分が悪い。 バークシャーのクラスA株は同じほぼ10年の間に2倍以上になり、バ フェット氏(79)の持ち分の価値は487億ドルに膨れ上がった。

アラビアのバフェット

アルワリード王子は今、リベンジを狙っている。王子の資産の大 半を運用するキングダム・ホールディングは米国株に背を向け、サウ ジアラビアと世界の高級ホテルや住宅および商業用の大型不動産開発 に多額の資金を投資している。王子が会長を務めるキングダムの2009 年年次報告書によると、保有資産中の不動産関連の割合は75%になっ ていた。2000年に79%以上だった公開企業への投資は約23%に減っ た。

王子はキングダムの投資戦略の変更によって、現在79歳のバフェ ット氏をいつか追い抜くことができるかもしれないと考えている。「バ フェット氏がわたしの年齢だった時は、今のわたしほど金持ちではな かった。わたしにはまだ20年の時間がある」と55歳の王子は話した。

行動の動機

王子は自分の地位や富を披歴したがる。オフィスには保有するジ ェット機やヨットのモデルが飾られ、書棚には王子が富豪番付に載っ た記事のコピーが並ぶ。キングダムのシャディ・サンバル最高財務責 任者(CFO)によれば、王子は業者を雇って宝石などの所有物の価 値を評価させ、それを富豪番付の出版社に公開しているという。番付 が発表されると、自身の順位を公表するプレスリリースを出すことも ある。「世界一の金持ちになること自体が王子の行動の動機付けになっ ている」とかつての部下のサレ・アル・ファドゥル氏は言う。

同氏によると、王子はバフェット氏以外にもマイクロソフト創業 者のビル・ゲイツ氏にも夢中だ。しかし、王子が最も気に入っている のはバフェット氏との文通だ。バフェット氏が最初に王子に手紙を書 いて以来、書簡やファクスなどでの文通は9年以上に及ぶという。バ フェット氏は1999年5月にニューヨークのプラザホテルに12日間滞 在した後、王子への書簡でプラザはニューヨークを訪れたときの自分 の家のようなものだとして、同ホテルの優れたサービスについて当時 その42%を保有していた王子に称賛の言葉を送った。

プラザホテル

アルワリード王子がブルームバーグ・ニュースに見せてくれた書 簡のなかでバフェット氏は、「あなたはプラザに昔の輝きを取り戻して くれた。実際、あなたのマネジャーたちは以前の絶頂期以上のものを 成し遂げた。あなたの力だと思う」とたたえた。

王子は1カ月後の6月の返信で、バフェット氏のような鋭い審美 眼を持つ人物からプラザの高い水準を証明する褒め言葉をいただいて 感激したと謝意を表した。その上で、「言うまでもないことですが、あ なたが良いと考える将来の投資に参加することを喜んで検討します」 とビジネスへの色気ものぞかせた。

バフェット氏からは3日後に返事が来た。王子との共同投資は大 歓迎だとし、「オマハではわたしは『米国のアルワリード』と呼ばれて いて、非常に光栄なことだと思っている」と書いた。

アルワリード王子は1999年12月の書簡でバフェット氏に、バー クシャー株下落に関する報道を「非常に不快に思っている」と伝える とともに、編集者らにバフェット氏を擁護する手紙も書いた。バフェ ット氏からは翌日に「アルワリード王子、あなたは何と素晴らしいお 方だ」との返信が届いた。

立場逆転

10年後の今、立場は逆転しアルワリード王子の投資の方が落ち込 んでいる。集計によれば、王子の資産は2000年5月から2010年3月 31日の間に21%目減りした。この間に価値の9割を失ったシティグル ープ株が最も大きな打撃を与えた。この間、ダウ工業株30種平均でさ えも配当再投資を含めたリターンが27%となり、アルワリード王子の 成績を上回った。

米調査会社ビリニー・アソシエーツの創業者、ラズロー・ビリニ ー氏は、「投資家としてのアルワリード王子は注目し続けるに値しな い」と切り捨てる。大理石のデスクの前に座ったアルワリード王子は、 自身の銘柄選択を擁護。損失の大半は米サブプライム(信用力の低い 個人向け)住宅ローンのデフォルト(債務不履行)が金融の世界を揺 さぶった2008年に発生したものだと説明した。

王子は書棚から「Warren Buffett on Business(ウォーレン・バ フェット・オン・ビジネス)」という本を取り出してページを開いて見 せた。バークシャー・ハサウェイの資産も2008年に減少し1株当たり の純資産が9.6%減少したと書いてあると指摘。「書いてあるでしょう。 2008年にはみんなちょっと風邪をひいた。バフェット氏も損をした」 と王子は言った。バフェット氏はこのマガジン記事のための取材には 応じなかった。

ツーショット

信用危機が深まる中でシティ株が77%急落した2008年、アルワ リード王子にはうれしい出来事があった。5月にビル・ゲイツ氏主催 の年次経営者会議でマイクロソフトの本社を訪れた際、文通相手のバ フェット氏との対面を果たしたのだ。大喜びのアルワリード王子はバ フェット氏にいっしょに写真に写ってくれるように頼んだ。王子は専 属カメラマンを連れている。バフェット氏は快諾し、王子に自分の黒 い財布を手渡しているポーズで写真に納まった。

この会議の後、アルワリード王子は写真をバフェット氏に送った。 バフェット氏は礼状を送り、2008年6月のこの書簡でも、いつものよ うに冗談めかして共同投資を持ち出し、「一緒に仕事ができる何かが見 つかるといいですね」と書いている。

助言も必要

確かに、アルワリード王子にはバフェット氏の助言があってもい いかもしれない。キングダムは2009年、前年の赤字から黒字に転じた ものの、08年の後遺症の未実現損失35億3000万ドルを抱えていた。

キングダムの保有資産の価値を高めるため、王子は2、3年内に ホテル事業の株式公開を計画している。王子はフェアモント・ラッフ ルズ・ホールディングス・インターナショナルやフォー・シーズンズ 株を保有している。フェアモントはプラザホテルも運営している。リ セッション(景気後退)が和らいだ今は2社の新規株式公開(IPO) の好機かもしれないと、キーフ・ブリュイエット・アンド・ウッズの ホテル業界アナリスト、スミーズ・ローズ氏はみている。

アルワリード王子は砂の中から富を生み出すことも考えている。 リヤドの北東の砂漠の中に、王子の最新プロジェクト、キングダム・ オアシスがある。乗馬クラブと宴会場、別荘風の滞在施設を含む大型 リゾートで、住宅プロジェクト、キングダム・シティー・リヤドの一 角だ。

夢は今もなお

米ゼネラル・モーターズ(GM)の大型SUV(スポーツ型多目 的者)GMCサバーバンに乗ってキングダム・シティーの開発現場を 視察しながら王子はもう一度、バフェット氏と自身の類似点を口にし た。2人とも、買いたたかれた資産を購入しているし、キングダムと バークシャーの本社は広さも従業員数もほぼ同じだと-。王子は08、 09年にシティ株を、「3ドルなら買いだ」として買い増していた。シ ティ株の今年4月23日の終値は4.86ドル。

「わたしはペプシ党だが、バフェット氏はコークだ」と、王子は 笑いながら2人の違いを付け加えた。バークシャーはコカ・コーラ株 を保有している。

しかし、2人の最大の違いは保有資産だ。バフェット氏の資産は アルワリード王子よりも321億ドル多い。それでも、王子の大きな夢 がしぼむことは全くない。王子は2012年に特別仕様のエアバスA380 型機を手に入れ、誰よりも早く、世界最大のジェット旅客機を自家用 機にする。世界一の富豪ではないが、世界一の富豪らしく行動するこ とでは誰にも引けをとらない。

    最新の情報は、ブルームバーグ端末にて提供中
    LEARN MORE