【コラム】さらばゴールドマン魂、古き良き時代は遺物に-M・ルイス

あなたが米ゴールドマン・サック ス・グループの債券トレーディングフロアに身を置いている社員だと しよう。あなたはきっと人生はひどく不公平だと感じているに違いな い。

債券市場の倫理常識、つまり明らかな違法行為でなければ、どん な取引ももうかりさえすればよいという考え方に沿って生きてきただ けなのに、いきなり怪物呼ばわりされるようになったからだ。世界は 180度転換してしまった。正しいとされたことが間違いとなり、良か ったことが悪いとされる。そして勝利と感じられたことが、今や負け を意味する。

この先どうなるのかと、あなたは身構えるだろう。債券取引を絶 対に理解できない怒れる一般大衆が次に説明を求めてくる内容は一体 何だろうかと。以下に幾つかの可能性を挙げる。

その1。自己勘定取引の完全な理解を求めてくるかもしれない。 特にサブプライム(信用力の低い個人向け)住宅ローンを対象にアメ リカン・インターナショナル・グループ(AIG)が積極的に手掛け た安い金融保険商品の利用に目を付け始めた2004年遅くから、サブプ ライムローン市場が崩壊した2007年の末までの期間のディーリング について聞いてくるだろう。

ゴールドマンのあなたの上司たちは提訴の原因となった債務担保 証券(CDO)「アバカス」の取引で、同社自身が約1億ドル(約93 億円)近い損失を被ったと主張している。しかし、これは控えめに言 っても不誠実な主張だろう。この取引が行われた07年3月に、自己勘 定取引部門は既にサブプライムローン市場についてショート(売り持 ち)ポジションを取っていた。値下がりが見込める同CDO取引で、 何の手立ても取らずにゴールドマンがむき出しのロング(買い持ち) にしていたということが本当にあるのだろうか。

いけにえ

残念だが、このCDO組成にかかわったとされるファブリス・ト ゥール氏をいけにえとして捧げるだけでは十分ではない。当時27歳の このフランス青年に責任があったと受け入れる人はあるまい。

訴訟で問題視されている20億ドル相当のアバカス取引にかかわ ったゴールドマンのトレーダーリストのトップにトゥール氏の名前は ない。トップはジョナサン・イーゴル氏で、同氏が取引の中心にいた 債券トレーダーのようだ。同氏は取引の1年前の06年に、サブプライ ムローン市場は崩壊すると同僚に語っていた。

そこで大衆はこう尋ねてくるだろう。ジョナサン・イーゴル氏は 誰でどんな賭けをしていたのかと。

言いなり

その2。ゴールドマンと「CDOマネジャー」との関係をもっと 理解したいという要求だ。

今回の場合、この役目はACAマネジメントが務めたが、同社同 様に言いなりとなるCDOマネジャーはほかにもいる。ゴールドマン を提訴した米証券取引委員会(SEC)は同社がACAを隠れみのに したと主張。CDOを購入した投資家はそこに組み込まれた証券を選 んだのはACAとみていた。

しかし、ACAが自らの役目を理解していなかったことは、かな りはっきりしている。ゴールドマンもそれを明確に分かっていただろ う。

それを物語るのがトゥール氏とACAがやりとりした電子メール だ。その中でACAはヘッジファンド会社運営のジョン・ポールソン 氏が当該CDOでどういう利害関係を抱えているのか正確に理解した いと訴えている。ポールソン氏はもちろん、同CDOに組み込む証券 の選定に携わっていた。SECはポールソン氏がショートポジション であったにもかかわらず、ゴールドマンがロングだと示唆してACA をだましたと主張している。

選定能力

しかし、ここで興味深いのは、ポールソン氏が選んだ証券を評価 する能力がACAになかったということだ。その能力があれば、当時 ほとんど知られていなかったポールソン氏の意図を気にする必要はな いからだ。ACAは証券の良し悪しを判断し、良いものだけを選んだ だろう。

そこで質問だ。CDOマネジャーに独自の選定能力がないのなら、 その会社の機能とは何か。なぜゴールドマンはACAと契約したのだ ろうか。

その3。自らの行動が招く結果をゴールドマンが全く気にかけな くなった理由とその時期について納得したい。

一般大衆は、正しいことと悪いことの単純な違いをゴールドマン がどのように分からなくなってしまったのかを知りたがるだろう。特 に倫理感の強い人々はこの質問をすることで一段と激しい怒りに駆ら れるだろうし、この違いが分からないかぎり、金融システムは機能し ないと感じて質問してくる人々もいるだろう。

激変

ビジネスに変化をもたらすつもりで始まったことが、最終的にゴ ールドマン魂を変えてしまうかもしれない。

SECによるゴールドマン提訴がもたらしそうな結果は多くある が、その一つは債券市場に対する世間の目が大きく変わったというこ とだろう。

実際のところ、SECの行動は、法律に限った狭い部分よりも社 会にもたらす影響の方がほぼ確実に大きいだろう。かつて飛行機の中 での喫煙や飲酒運転が罪悪感なくできた時代があったように、ウォー ル街にも債券トレーダーがショートポジションを取る相手と組んで値 下がりする証券を組成しながら格付け会社を欺いて良い格付けを得て、 それから生真面目な投資家にそれを売りさばける時代があった。しか もその行動が暴かれるなどとは心配する必要はなかった。

もはや状況は一変した。(マイケル・ルイス)

(マイケル・ルイス氏はブルームバーグ・ニュースのコラムニス トで、最新作の「The Big Short」はベストセラー。このコラムの内容 は同氏自身の見解です)

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