日銀は経済、物価見通しを上方修正へ-なおくすぶる追加緩和観測

【記者:日高正裕】

4月23日(ブルームバーグ):日本銀行が30日開く金融政策決定 会合は、ブルームバーグの調査で有力日銀ウオッチャー16人の大勢が 現状維持を予想した。日銀が同日公表する2011年度の消費者物価の前 年比はゼロ近傍に上方修正される見通しだが、デフレ脱却にはほど遠 いことから、追加緩和観測がなおくすぶり続けている。

BNPパリバ証券の河野龍太郎チーフエコノミストは展望リポー トについて、①10年度前半の成長率は想定ほど減速せず、輸出主導で 潜在成長率を上回る成長が基調として続き、民間需要の自律回復の基 盤が徐々に整えられていく②その後、設備投資の回復や家計部門への 波及を伴った自律的な景気回復が明確化し③11年度も潜在成長率を 大きく上回るペースで回復する-との見方が示されると予想する。

実質国内総生産(GDP)成長率については、1月の中間評価で 前年度比1.3%増(政策委員の中央値、以下同じ)としていた10年度 の見通しが大きく上方修正される見通しだ。シティグループ証券の村 嶋帰一チーフエコノミストは、見通し作成のベースとなる今年1-3 月の成長率について「現時点で前期比年率4.7%」と試算する。

モルガン・スタンレー証券の佐藤健裕チーフエコノミストは「日 銀審議委員が中間評価時点で1-3月成長率をどの程度で見ていたか は定かでないが、足元保守的にみても1%ポイント前後のげたが見込 まれる」と指摘する。げたとは、10年度の各四半期が前期比ベースで ゼロ成長でも達成できる成長率で、前年度後半の成長率の上振れから 得られる、いわばボーナスのようなものだ。

10年度の物価には高校授業料の影響

佐藤氏は「日銀は10年度の見通しを1.9%程度に上方修正する」 と予想。11年度については「前回見通しを大きく動かす理由には乏し いことから、ほぼ前回並みの2.0%」を見込む。HSBC証券の白石 誠司チーフエコノミストも「日銀は10年度を上方修正する一方で、11 年度については中間評価の2.1%を維持するのではないか」とみる。

成長見通しの上方修正に伴い、消費者物価指数(除く生鮮食品、 コアCPI)前年比も上方修正される見通しだが、西村清彦副総裁は 21日の講演で10年度のコアCPIについて「高校授業料の実質無償 化が消費者物価の変動率を0.5%前後押し下げるとみられる」と指摘。 「基調となる動きとは切り離して考えるべき」と述べた。

日銀が中間評価で示した10年度の見通しは前年度比0.5%低下。 JPモルガン証券の菅野雅明調査部長は「実質的に0.2%ポイントの 上方修正ながら、表面的には0.3%ポイントの下方修正となるだろう」 という。注目は中間評価で同0.2%低下だった11年度の見通し。これ については、ゼロ近傍に上方修正されるとの報道が相次いでいる。

ゼロ%でも政策的意味は大きくない

佐藤氏は「10年度の成長率を上方修正するのに伴い、需給ギャッ プの縮小ペースが変わってくること、それによる物価への影響は3、 4四半期程度と見込まれることから、10年度より11年度の物価見通 しに影響が出やすい」と指摘。「日銀は潜在成長率を0.5%程度とみ ていることから、10年度の経済見通しが2%近くに上振れれば、それ だけ需給ギャップの縮小影響が物価に出やすくなる」と指摘する。

シティグループ証券の村嶋氏は「インフレの需給ギャップに対す る感応度は大きく低下したとみられ、インフレ予想をめぐる不確実性 は極めて大きい」と指摘。「日銀自身、この点は十二分に意識してい るはずであり、11年度のコアCPI見通しが前年比ゼロまで引き上げ られたとしても、それが即座に強い政策的インプリケーション(意味) を持つと考えるのは早計だ」と語る。

経済、物価見通しともに上方修正される可能性が高いことから、 30日の追加緩和観測はやや沈静化している。日興コーディアル証券の 岩下真理チーフマーケットエコノミストは「足元の景気動向は意外な 健闘を見せ、二番底懸念は和らいだ」と指摘。「国内経済は過度に悲 観的になる状況ではなく、昨年12月時点と比べても円安・株高と金融 市場も落ち着いており、追加緩和を実施する緊急性はない」という。

短期金融市場に弊害も

日銀は3月17日の決定会合で、昨年12月の臨時会合で導入した 期間3カ月、0.1%の固定金利による資金供給オペを10兆円から20 兆円に拡充。市場はこれを好感して株高、円安に反応したが、短期金 融市場に与える悪影響を指摘する声も出ている。

岩下氏は「新型オペの効果はやや長めの金利の低下につながり、 金融市場の安定に貢献していると思われるが、一方で短期オペの減少 によるレポ金利の上昇等の副作用も生じている」と語る。3月会合で は景気が上振れ気味に推移する中で追加緩和に踏み切っただけに、市 場とのコミュニケーションがぎくしゃくしている面も否めない。

HSBC証券の白石誠司チーフエコノミストは「景気・物価判断 を上方修正しながら、ほとんどマクロ効果の期待できない追加対応を、 その効果を誇張して市場・物価動向次第で決定するというスタイルは、 中央銀行の対応としてやや常軌を逸しており、市場との対話能力の低 下、ひいては信認の低下に直結しかねない」と指摘。「こちらの方が 市場機能の低下よりもよほど深刻なリスクといえる」と語る。

馬を水辺に連れて行く

ただ、追加緩和観測は根強く残っている。西村副総裁は21日の講 演で「馬を水辺に連れて行くことはできても、無理やり水を飲ませる ことはできない」が、消耗していた馬が少し元気になったタイミング で水辺に連れて行けば「喜んで水を飲み、また元気に走り出すように なる可能性が高まる」と言明。その後の会見でも追加緩和について「ど ういう時期が一番よいのかを考えていく」と述べ、含みを残した。

バークレイズ・キャピタル証券森田長太郎チーフストラテジスト は「3月の追加緩和を『景気改善基調の中でも緩和の効果あり』と総 括している状況からすると、先々、円高、株安のような動きが生じて きた時には緩和を検討することになるだろう」とみている。 ============================================================ ◎見通しは次の通り(対前年度比、%。は見通しの中央値)

                  【エコノミストの大勢見通し】
                   実質GDP           コアCPI
【2010年度】     +1.4~+2.4          -1.3~-0.3
                                  
1月時点の見通し  +1.2~+1.4           -0.6~-0.5
                                   
【2011年度】     +1.1~+2.1           -0.4~0.0
                                  
1月時点の見通し  +1.7~+2.4           -0.3~-0.1
                                   
                 【エコノミストの全員の見通し】
                   実質GDP           コアCPI
【2010年度】     +1.2~+2.5          -1.5~-0.3
1月時点の見通し  +1.0~+1.5           -0.7~-0.4
【2011年度】     +1.0~+2.4          -0.5~+0.1
1月時点の見通し  +1.6~+2.5           -0.3~ 0.0

(注1)見通しはエコノミスト自身の予想、1月時点の見通しは日銀 (注2)「大勢見通し」は見通しから上下1個ずつ除いたもの ============================================================= 利下げ予想時期は次の通り(敬称略)

【2010年4-6月】モルガン・スタンレー証券の佐藤健裕チーフエコ ノミスト ============================================================= 利上げ予想時期は次の通り(敬称略)

【2011年1-3月】信州大学真壁昭夫教授

【2011年4-6月】三菱UFJ証券景気循環研究所の嶋中雄二所長

【2011年10-12月】日興コーディアル証券の岩下真理チーフマーケ ットエコノミスト、みずほ証券の上野泰也チーフマーケットエコノミ スト、JPモルガン証券の菅野雅明調査部長、第一生命経済研究所の 熊野英生主席エコノミスト、BNPパリバ証券の河野龍太郎チーフエ コノミスト、大和総研の田谷禎三顧問、シティグループ証券の村嶋帰 一チーフエコノミスト

【2012年1-3月】モルガン・スタンレー証券の佐藤健裕チーフエコ ノミスト、野村証券の松沢中チーフストラテジスト

【2012年4-6月以降】三菱UFJ証券の石井純チーフ債券ストラテ ジスト、東短リサーチの加藤出チーフエコノミスト、HSBC証券の 白石誠司チーフエコノミスト、クレディスイス証券の白川浩道チーフ エコノミスト、バークレイズ・キャピタル証券の森田長太郎チーフス トラテジスト ============================================================= 無担保コール翌日物金利の予想は以下の通り(敬称略50音順)

                     10   10   10   11   11   11   11   12
                    6末 9末 12末 3末 6末 9末 12末 3末
-------------------------------------------------------------
調査機関             16   16   16   16   16   16   16   16
 中央値             0.10 0.10 0.10 0.10 0.10 0.10 0.25 0.25
 最高               0.10 0.10 0.10 0.30 0.35 0.50 0.50 0.50
 最低               0.05 0.05 0.05 0.05 0.05 0.05 0.05 0.10
-------------------------------------------------------------
三菱UFJ 石井     0.10 0.10 0.10 0.10 0.10 0.10 0.10 0.10
日興コーディアル岩下     0.10 0.10 0.10 0.10 0.10 0.10 0.30 0.30
みずほ証 上野       0.10 0.10 0.10 0.10 0.10 0.10 0.50 0.50
東短リサーチ 加藤   0.10 0.10 0.10 0.10 0.10 0.10 0.10 0.10
JPモルガン証 菅野      0.10 0.10 0.10 0.10 0.10 0.10 0.25 0.25
第一生命経研 熊野   0.10 0.10 0.10 0.10 0.10 0.10 0.25 0.25
BNPパリバ証 河野  0.10 0.10 0.10 0.10 0.10 0.10 0.25 0.50
モルガンS証 佐藤      0.05 0.05 0.05 0.05 0.05 0.05 0.05 0.25
三菱UFJ景気研 嶋中  0.10 0.10 0.10 0.10 0.35 0.35 0.35 0.35
HSBC証 白石     0.10 0.10 0.10 0.10 0.10 0.10 0.10 0.10
クレディS証 白川   0.10 0.10 0.10 0.10 0.10 0.10 0.10 0.10
大和総研 田谷       0.10 0.10 0.10 0.10 0.10 0.10 0.25 0.25
信州大 真壁         0.10 0.10 0.10 0.30 0.30 0.50 0.50 0.50
野村証 松沢         0.10 0.10 0.10 0.10 0.10 0.10 0.10 0.25
シティG証 村嶋     0.10 0.10 0.10 0.10 0.10 0.10 0.30 0.30
バークレイズC証 森田   0.10 0.10 0.10 0.10 0.10 0.10 0.10 0.10

アンケート回答期限は22日午前8時。「日銀サーベイ」金利予想、 経済・物価情勢、金融政策の展望コメントを23日朝に送信しています。

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