NBAチーム買ったロシアの金属王、次のダンクシュートはいつ放つ

ミハイル・プロホロフ氏(44)は 自家用ジェット機のガルフストリームVから、降りしきる雪の中に降 り立った。シベリアのクラスノヤルスクの気温は氷点下だ。同氏はこ こに金鉱山を保有する。深夜に近い時刻にもかかわらず、同氏を乗せ た警察の護衛付きベンツが向かう先はホテルではなくジムだ。同氏は そこで2時間ほど汗を流す。

シベリアの奥地で、プロホロフ氏の心ははるかニューヨークのブ ルックリンに飛ぶ。最近手に入れたご自慢の資産、プロバスケットボ ールチームのニュージャージー・ネッツの新しい本拠地だ。

昨年までは、ロシアの経済誌ファイナンスの番付でロシア第2の 富豪の同氏の名前を米国で知る人は、ほとんどいなかった。同氏は昨 年、ネッツの80%とチームの新しい本拠地となるブルックリンの競技 場の45%を2億ドル(現在のレートで約185億円)で買い取った。 同チームの今シーズンの成績が、プロバスケットボール史上最悪の部 類に入る8勝63敗(3月25日時点)であることは気にしていない。

「ここからは上にしか行きようがない」と、50キロのベンチプレ スで筋トレをしながら同氏が言う。「問題があって割安になっている資 産が好きだ。自分の力を感じられるからだ」という。

身長が2メートルを超えるプロホロフ氏はロシアの富豪の中でも 目立つが、違いはそれだけではない。最近の世界的危機で、他のロシ ア富豪たちは資産を大きく減らした。その中で、金とアルミニウムに 投資するプロホロフ氏は繁栄を謳歌(おうか)し、ロシア経済が昨年 8%のマイナス成長となる中で富を増やした。

いす取りゲーム

新興市場調査会社トラスティッド・ソーシズ・UKのマネジング エディター、クリストファー・グランビーユ氏は「プロホロフ氏はい す取りゲームで、音楽が止まった時にちゃんといすに座っていた」と 論評した。

現金をたっぷり持つプロホロフ氏は、いよいよ海外に打って出た。 米国は同氏の世界戦略で重要な位置を占める。ネッツ買収もバスケッ トボールチームだけが目的ではないという。「米国での他のビジネス機 会への扉を開く鍵になる」と同氏は説明。「私が別の事業をしようとし たとき、人々は『いったい何者だ』とは言わず『あれはネッツのオー ナーだ』と言うだろう」と話す。

米プロバスケットボール協会(NBA)所属チームを、北米以外 のオーナーが保有するのはプロホロフ氏が初めて。ロシア富豪とプロ スポーツの関係と言えば、ロマン・アブラモビッチ氏がイングランド サッカー、プレミアリーグのチェルシーを買収し、注目を集めた。

ドリームチーム

ロシアの金属王は、優秀な選手を補充しネッツをよみがえらせる つもりだ。NBAで最高の選手の何人かが、今後2年の間にフリーエ ージェントになると、プロホロフ氏は指摘した。クリーブランド・キ ャバリアーズのレブロン・ジェームズ選手などが狙いらしい。

プロホロフ氏は自分の「ドリームチーム」を作り上げるのに十分 な金を持っている。ファイナンス誌が今年2月号に掲載した長者番付 によれば、同氏の資産は178億ドル。資産は以下のようにして増えて いった。

07年1月、同氏はフランスの高級スキーリゾート、クールシュベ ルを8人の若い女性を含む一団を引き連れて訪れた。現地の警察は同 氏が売春あっせん業者ではないかと疑い身柄を拘束した。4日後に無 事釈放された同氏がロシアに戻ると、ビジネスパートナーだったウラ ジーミル・ポタニン氏が待ち受けていた。

クールシュベルでの出来事を受けてポタニン氏は、ロシア最大の 鉱山会社ノリリスク・ニッケルの株式を売り渡すようにプロホロフ氏 に求めたという。プロホロフ氏は保有していたノリリスク株25%を、 ポタニン氏ではなくオレグ・デリパスカ氏に売った。08年4月のこと で、現金70億ドルとデリパスカ氏のアルミ会社UCルサールの株式 14%を受け取る約束になった。

明暗

その後の8カ月で、ノリリスク株は71%下落。世界最大のアルミ ニウムメーカーのルサールは今年1月に香港市場に上場し、プロホロ フ氏の現在の持ち分は17%。

プロホロフ氏が率いる投資会社オネクシム・グループは、08年後 半から09年にかけて、値下がりしている資産を買いまくった。ロシ ア最大の産金会社、ポリウスゴールド株も買い増した。折しも世界中 で質への逃避が起こり、金相場は08年11月-09年末までの間に1.5 倍以上になった。

プロホロフ氏は現在、ポリウス株の約40%を共同で保有し、同氏 の持ち分の価値は3月8日の価格で37億ドル相当になる。

定番

同氏は、4500万ドルのヨットからモスクワ郊外の豪邸まで、ロ シア富豪が持つぜいたく品の定番はすべて所有している。パーティー は好きだが、酔っ払ったことはなくウォッカなど味見をしたこともな いという。普段はゆったりしたTシャツにジーンズという若者のよう なラフなスタイルだ。コンピューターも携帯電話も使わない。

事業計画は控えめなものとは言い難い。ポリウスを業界トップと 肩を並べる金鉱会社にするのが望みだし、海外のライバル企業と合併 させて世界のトップにするのもいいと思っている。アルミ最大手のル サールを、ニッケル最大手のノリリスクと合併させるのも夢だ。

「ロシアにとって最良の道は、ノリリスクとルサールを合併させ てロシアのBHPビリトンを誕生させることだ」と同氏は言う。オー ストラリアのBHPは世界最大の鉱山会社。

事業での野心はグローバルだが、一部のロシアの金持ちのように 同国を離れる気はないという。ネッツのホームでの試合のうち4分の 1程度(1シーズンに約10試合)を現地で観戦するほかは、1年の 大半をロシアで暮らすつもりだ。

12月の夕方、同氏は自宅に備えてあるバスケットコートに足を運 ぶ。金融危機をやすやすと泳ぎ切った手並みと同じくらい鮮やかに、 次々とシュートを決める。まるで、ダンクシュートをもう1つ決めた ら、次の10億ドルに手が届くと言わんばかりに。 (ステファニー・ベーカー)

(ベーカー氏はブルームバーグ・マーケッツ誌のシニアライター

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