日本の公的年金:ベンチマークの変更検討、積極運用には距離

122兆円を運用する世界最大の年 金基金、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)は、日本の株式 や債券のベンチマーク(運用成果の基準)の変更を検討している。指数 採用銘柄の流動性の低さに起因する投資収益率の低下リスクなどに対応 する。さらに新年度以降も現状の資産構成を維持する方針も示した。

同法人の川瀬隆弘理事長が24日、ブルームバーグ・ニュースのイ ンタビューで語った。川瀬氏は、現在日本株のベンチマークとしている TOPIXの構成銘柄の中には取引量の少ないものがあると指摘。「資 金量の大きいわれわれがそういう銘柄を動かすときには、自らのハンデ ィになる」と語り、「取引コストなども考えると、もう少し流動性の高 い大型株に集中したベンチマークの方が取引しやすい」と述べた。

川瀬氏は、企業年金連合会などがラッセル/ノムラなど流動性の高 い銘柄に絞ったもので運用していることを挙げ、「GPIFでも割安株 や成長株などの投資に絞ったスタイル別運用のベンチマークではラッセ ル/ノムラを使っている。われわれだけのベンチマークを作ってもらう のは現実的ではないので、どういうインデックスがあるのかを探してい る」と説明した。

ただ、「流動性はあるがリターンがTOPIXに負ける指数ではな かなか採用は難しい。その穴をどう埋めるかというところは残る」とも 述べ、具体的な指数名についての明言は避けた。

流動性がリターンに影響も

年金などの機関投資家は、株式運用でトラッキングエラー(ベンチ マークからのかい離率)を縮小させることを重視している。そのために 銘柄入れ替えなどを行う場合、「流動性が低い銘柄があると結果的にリ ターンを上げにくくなることがある」と大和総研の土屋貴裕ストラテジ ストは指摘。結果として運用成績にマイナスの影響を及ぼすことになれ ば、ベンチマークの採用に対する疑問が出かねないという。

TOPIXは東京証券取引所1部上場の全銘柄を対象とする時価総 額加重平均指数で、25日現在1680銘柄で構成されている。トヨタ自動 車など時価総額が大きい銘柄の売買高は多いものの、時価総額が小さく なるに伴い売買高が低下する傾向がある。「海外では運用に適したベン チマークが出来ている。日本ではベンチマークでTOPIX全盛だが、 それでいいのか考えていかなければならない」と、川瀬氏は強調する。

大和総研によると、日本ではTOPIXをベンチマークとする投資 家が圧倒的に多い。ただ、企業年金連合会などでは指数に連動した運用 を目指すパッシブ運用で、以前はTOPIXを採用していたが、現在は ラッセル/ノムラPrime指数にしている。

GPIFがベンチマークを変更した場合のインパクトについて、大 和総研の土屋氏は「GPIFを参考にアセットアロケーション(資産配 分)を作っている他の年金が追随する可能性がある」ことを指摘したう えで、それを考慮すると「ベンチマークの変更は、GPIF単独以上の 市場インパクトがある。どんな構成銘柄の指数に変わるかで違うが、運 用対象から外れる銘柄にとってはネガティブ」と予想する。

GPIFは日本債券のベンチマークについても、変更を検討してい る。現在採用しているNOMURA-BPIは「3割弱を占める事業債 など国債以外の流動性が低く、それでいいのかという問題がある」と川 瀬氏は語った。

一方、2009年度の運用成績について川瀬氏は、「第3四半期まで (09年4-12月)の実績である収益率6.54%と大きくは変わらないだ ろう」との見通しを示した。第3四半期末の運用資産の構成割合は、国 内債券69%(運用資産額84兆6946億円)、国内株式11%(13兆5329 億円)、外国債券8.3%(10兆2424億円)、外国株式10%(12兆 8468億円)、短期資産0.9%(1兆1408億円)。

資産構成は当面現状維持、積極運用意見に距離

厚生労働省は2月、GPIFの10年度から5年間の中期目標で、 運用利回りの数値目標を設けないことを決めた。13年までに年金制度 全体の抜本的な見直しを予定しているためで、数値に代わって「安全・ 効率的かつ確実」という目標を掲げている。10年度からの運用方針に ついて、川瀬氏は「利回り目標が示されていない中では、ミニマムリス クでポートフォリオを作りにいく」ことが必要で、「あと1-2年は現 在のポートフォリオを変えないだろう」と述べた。

GPIFの運用については、安全運用を重視すべきとする慎重意見 と、株式比率を高めるべきと積極運用を求める意見が政府内であるとさ れる。こうした議論に関し、川瀬氏は「国民のリスク許容水準が低い現 状では、株式比率を高めるなどしてもし大きな損失が出た場合、年金制 度自体がもたなくなる」と、積極運用意見に距離を置く見方を示した。

08年9月のリーマンショック後に海外年金の運用成績が極端に悪 化したことを考えると、「ヘッジファンドや不動産などオルタナティブ 投資に慎重で良かった」と川瀬氏は振り返った。

現在のGPIFの株式保有では、日本株51%、外国株49%で、経 済成長が相対的に低い日本株が過半数を占めている。川瀬氏は「外貨建 てで為替リスクのある外国株投資には制約がある。年金の資金はできれ ば日本の発展に寄与するべき」とし、「海外株の比率が日本株を上回る 逆転現象は難しい」という。

このほか、株式・債券で11金融機関にパッシブ運用を現在委託し ているが、川瀬氏は「委託先の縮小を考えていこうという話にはなって いる」とも述べた。

GPIFは、厚生年金と国民年金の管理・運用業務を担う機関とし て06年4月に設立された。シティグループ証券によると、GPIFは 東証の時価総額の約4%を占める世界最大の日本株投資家であるほか、 日本国債の10%強を保有している。川瀬氏は3月末でGPIFの理事 長を退任する予定。GPIFの前身だった年金資金運用基金を含め、実 質的に5年間トップを務めた。

--取材協力:平野朋美Editor:Makiko Asai, Tetsuzo Ushiroyama

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