日銀の追加緩和に政府は歓迎、市場はそっぽ-圧力受けて一段の緩和も

日本銀行は17日、新型オペによる 資金供給量を10兆円から20兆円に引き上げる追加緩和を行った。鳩 山由紀夫首相が「政府が期待をしている方向だ」と述べるなど、政府 は歓迎一色だ。しかし、市場関係者からは、効果は限定的で、さらな る金融緩和圧力を招くだけ、という厳しい声が日銀に向けられている。

日銀は同日開いた金融政策決定会合で「企業金融支援特別オペの 残高が漸次減少していくことを踏まえ、固定金利オペを大幅に増額す ることにより、やや長めの金利の低下を促す措置を拡充する」と表明。 昨年12月1日の臨時金融政策決定会合で導入した期間3カ月、0.1% の固定金利による資金供給額を拡大することを決めた。

菅直人副総理兼財務相は同日夕、「デフレ脱却の方向に向けてさら なる一歩を踏み出す政策決定をしていただいた」と評価した。しかし、 東海東京証券の斎藤満チーフエコノミストは「政府の圧力が強い中、 効果も副作用も何もない技術的な追加措置を講じることで、国債引き 受けやインフレターゲット論から政府の目をそらせたかったのだろう が、むしろ民主党はこれからも圧力を高めてくる」と予想する。

追加緩和観測が高まる布石となったのは1日の衆院財務金融委員 会でのやり取りだ。菅直人副総理兼財務相は「消費者物価は今年いっ ぱいくらいには何とかプラスに移行してもらいたい」と述べ、日銀に は「より努力をお願いしたい」と要請。亀井静香金融・郵政担当相も 「直接国債を引き受けて財源を作ることをやったら良い」と発言した。

量的緩和ではないが、追加緩和

日銀に風圧が強まる中、5日の一部報道をきっかけに追加緩和観 測が浮上し、日経平均株価は1週間あまりで600円強も上昇。為替も 円安方向に振れ、日銀は外堀を埋められる格好となった。高まる追加 緩和観測に対し、日銀が出した答えは、白川方明総裁が「量的緩和で はないが、追加緩和」というあいまいな決定だった。

白川総裁は会見で「当座預金残高を目標に金融政策を運営してい くという方式はとっていない。そういう意味で量的緩和政策の拡充で はない」とする一方で、「やや長めの金利の低下を促す措置を拡充する という意味で追加緩和措置だ」と述べた。昨年12月1日は声明で「金 融緩和の強化」としたことに比べると、今回は「当面の金融政策運営 について」としかしておらず、かなり苦しい説明と言わざるを得ない。

3月末で終了する企業金融支援特別オペの残高は足元で5.4兆円。 みずほ証券の上野泰也チーフマーケットエコノミストは「特別オペ終 了分の補てんが半分以上という計算になる今回の10兆円上積みは、半 ば技術的な措置であり、明示的に『金融緩和の強化』だと宣言するこ とに、日銀としてもためらいがあったのかもしれない」とみる。

肝心の量は執行部が決定

そのためらいは採決方法にも表れている。新型オペの拡充には須 田美矢子委員と野田忠男委員が反対。白川総裁はその理由について「議 事要旨等で公表するのでご容赦いただきたい」と口を濁したが、むし ろ市場参加者の注意を引いたのは、採決されたのがオペの大幅な増額 だけで、具体的な資金供給額は執行部の判断に委ねられたことだ。

市場が注目した増額の規模を政策委員ではなく、執行部が決める という形式をとらざるを得なかった背景として、量的緩和政策に対す る日銀の拒否感に加え、情勢判断の裏付けが乏しかったことを挙げる 向きもある。バークレイズ・キャピタル証券の森田京平チーフエコノ ミストは「今回の決定はオペという技術的な問題への配慮が前面に出 ており、ファンダメンタルズに基づく理由付けは難しい」と指摘する。

白川総裁は「金融政策の判断に当たっては、あくまで中長期的な 経済、物価の姿を点検して政策運営していく姿勢が大事」で、「金融市 場の短期的な動きに過度に引きずられて政策運営をしていくことは中 央銀行としての仕事をしっかり果たすことにはならない」と述べた。 しかし、日銀は中長期的な見通しを変えていないばかりか、総裁自身、 足元ではむしろ「上振れ気味に推移している」と述べている。

本当の不幸は

第一生命経済研究所の熊野英生主席エコノミストは「今回の意思 決定は政府からの要請があったことが理由だ」とした上で、日銀がこ うした形で追加緩和を行うことの本当の不幸は「政府自身が今後、物 価指標を日銀が自由に動かせると信じ込んでしまうことだ」という。

その兆しは既にある。平野博文官房長官は17日の会見で、日銀の 対応を「評価し歓迎する」と述べるとともに、「政府と日銀が一体とな ってデフレを解消していかなければならない」と念を押した。東海東 京証券の斎藤氏は「このタイミングで追加手段を講じることで政府の デフレ対策に組み込まれた印象で、物価が下がり続ける中で日銀への 圧力は高まることはあっても弱まることはないだろう」とみている。

-- --取材協力:関泰彦、下土井京子、伊藤辰雄、広川高史 Editor:Hitoshi Ozawa,Norihiko Kosaka

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