【経済コラム】日は上海に昇り、香港に沈み行く-W・ペセック

香港の曽蔭権行政長官が3月5日 に北京を訪問したときのことだ。上海が少なくとも30年ぶりに経済 規模で香港を上回ったとのブルームバーグ・ニュースの記事を地元メ ディアから突き付けられた長官は、ありきたりの反論でかわした。上 海の台頭は「脅威ではない」と長官は答えたのだ。だが、わたしは「冗 談じゃない」と言いたい。

香港はこれまで長年にわたり、この都市の独自性が繁栄を安泰に したと主張してきた。法の支配や経済的自由、中国の玄関口としての 役割が長期的な問題や大気汚染などの懸念に勝ってきたし、投資家は 香港が負ける方に賭けても大金を稼げなかった。

だが、香港が昔から鼻であしらってきた状況が到来した。上海は 中国の最も重要な金融センターの座を急速に奪回しつつある。これま で疑問の余地がなかったアジアにおける香港の位置付けを信じる投 資家は考え直すべきだろう。

曽俊華財政官は先週、香港は景気回復の初期段階にあると述べた。 香港の経済成長率は約2.6%と、世界的に見れば悪くない数字だが、 問題はより長期的な展望だ。

ここで米誌フォーブスの最新長者番付を考察するのは意味があ る。アジア編の見出しは「スーパーマン」に焦点を当てたもので、こ れは香港の李嘉誠氏が当てはまるだろう。李氏の資産は過去1年間で 30%増加し210億ドルに達した。同氏は香港の栄枯盛衰を体現した人 物として取り上げられることが多く、今回のニュースは朗報だと見な された。

中国の億万長者

だが本当にニュースなのは、中国本土の長者ブームだ。今回初め て富豪の人数で中国本土が米国以外で最多となったのだ。中国の人口 が13億人に上ることから考えれば妥当といえるだろう。国内総生産 (GDP)についても同じ議論ができる。上海の人口は約1900万人 に対し、香港は700万人。2008年の統計によると、香港の1人当た りGDPは3万977ドル、上海は1万713ドルだ。

ただ、その軌道は明らかだ。中国は今後数年で成長率が鈍化した としても、香港のような中継ぎ経済を必要とすることは次第に減って いく。上海は今や中国最大の港湾と株式市場を運営している。

欧州の銀行最大手、英HSBCホールディングスは間もなく外国 企業第1号として上海市場に上場する見込みだ。上海市の当局者は中 国の成長性を売り込み、より多くの海外企業に上場を誘致している。 こうした動きは香港に引き寄せられていたかもしれない資本を吸い 上げる可能性が高い。

香港の役割

実際のところ、バンカーや投資家、企業経営者たちは中国に向か う途中に香港に立ち寄る必要性をいつまで感じるだろうか。そのうち 需要の源に直接行く方がはるかに合理的になろう。

中国でますますビルが増えていくのに伴い、香港に極めて重要な 不動産市場への支援材料は減る可能性がある。香港の経済成長は一段 と抑制され、信用格付けは容易に長期的な打撃を受ける恐れもある。

もちろん中国に賭けるリスクをヘッジする理由もある。経済の過 熱リスクはあふれており、中国政府当局者は1年4カ月ぶりの消費者 物価の大幅上昇という課題に取り組んでいる。実質金利は現在マイナ スで消費を奨励する方向に傾きかねない。家計の貯蓄が目減りすれば、 消費者は不動産や株式への投資で対応する可能性もあり、その結果、 新たなバブルが生じる恐れもある。

上海の台頭

中国の通貨はもう一つの障害だ。元が完全に交換可能になるまで は、元の国際的な使用は制限される。このため、香港は引き続きこう した取引の実験台として利用されるケースが多い。コンサルティング 会社Z/Yenグループの集計した国際金融センター指標では、昨年 9月時点で香港が3位に対し、上海は10位だった。

上海の台頭は多くの人々の予想よりも早く到来しつつある。上海 は香港貿易発展局の01年の予想よりも7年早く香港を追い越した。 上海が香港の強さを再現していけば、香港の重要性は低下の一途をた どろう。

触媒効果

希望の兆しがあるとすれば、それは触媒効果だ。上海の台頭で香 港は現在の栄光に満足し続けることが一段と難しくなりつつある。香 港は経済成長を芸術やディズニーランドなどのテーマパークに頼る だけでは不十分になりつつある。ちなみにウォルト・ディズニーは上 海にも進出する。

香港にとっては、雇用を創出するだけでなく活気を高める起業家 に自信を持たせることがより良いアイデアだろう。米ヘリテージ財団 と米紙ウォールストリート・ジャーナルが毎年発表する経済自由度指 数ランキングでは、香港は経済の自由度が世界で最も高いと評価され ており、起業家にとっては申し分のない条件だ。

事実、香港は外国資本の自由な流入や先進の法制度と税率の低さ が特色だ。ただ香港は少数の財閥が牛耳る経済でもあり、一握りの大 物実業家が君臨し、彼らの支配が革新的な空気の大半を吸い取ってし まっている。

中国がふらつかない限り、香港にとって上海はますます大きな問 題になろう。香港の将来に賭けている投資家も不安を感じているはず だ。 (ウィリアム・ペセック)

(ウィリアム・ペセック氏は、ブルームバーグ・ニュースのコラ ムニストです。このコラムの内容は同氏自身の見解です)

    最新の情報は、ブルームバーグ端末にて提供中
    LEARN MORE