【書評】ゴールドマンのバンカー、モットーは「超我の奉仕」

ゴールドマン・サックス・グルー プのバンカーは、米陸軍士官学校(ウェストポイント)の学生と共通 点があると言われたら驚くかもしれない。

しかし、所属機関と一体感を持ち、機関の理想を自らのものとし、 その結果として成功を享受してきた点が共通だと、ジョージ・A・ア カロフ、レーチェル・E・クラントン両氏の共著「Identity Economics (仮訳:アイデンティティーの経済学)」は説く。社会的な配慮が経済 的な結果をもたらすことを分かりやすく説明する一冊だ。

需要と供給、銀行、ボーナス。これらとアイデンティティーに何 の関係があるのだろう。著者らはいろいろな関係があると言う。学校 や住む場所、就職先など、人生を形作るさまざまな選択はしばしば、 金銭的な損得の判断だけではなく、それぞれの個人が社会の中での自 分の位置をどうみているかによって決定付けられる。

士官学校生は国家と民主主義を守るという理想のために、危険が 大きく規律の厳しい道を選ぶ。ゴールドマンのバンカーも顧客の利益 を第一に考える点がこれに似ているという。著者らは「ゴールドマン の金銭的な成功の根源には、サービス・ビフォー・セルフ(超我の奉 仕)という軍のモットーと驚くほどよく似た理想がある」と書いてい る。

この観点からすると、ゴールドマンの未来は有名な「ビジネス・ プリンシプルズ(事業の原則)」を守り続けられるかどうかにかかって いることになる。これはゴールドマンの憲法とも言うべきもので、 チ ャールズ・D・エリス氏の著書「ザ・パートナーシップ」に詳しい。 アカロフ、クラントン両氏もこの本から引用している。

行動様式

両氏の著書で、「アイデンティティー」という単語は人々が自身を 社会的にグループ分けする作業の代名詞として使われている。人は「ス ポーツばか」や「燃え尽き症候群」などのグループに自分を分類し、 そのグループの行動様式に沿って振る舞う。

著者らはこれを、メリーゴーラウンドに乗る子供を例に説明する。 この場合、子供の年齢が行動を決める。「よちよち歩きの子供は親の膝 に座る。4、5歳になれば1人で乗る。もっと大きくなると、興奮し ているのを隠そうとする。カエルやトラなどおもしろい動物を選んだ り、回っていると間に立ち上がって見せたりする」という。

社会的な動機付けは経済的な行動に対しても強く働く。多くのア フリカ系米国民は公民権を得て久しいにもかかわらず今も、経済的に 苦しい。伝統的な経済学でこれを説明するのは難しいが、人種差別の 歴史を考慮し、一部の黒人が自尊心のために「白人のために働く(白 人と協力する)」ことを自ら避けていると考えれば説明がつくと著者ら は解説している。

一体感

アカロフ氏はノーベル経済学賞受賞者でカリフォルニア大学バー クリー校教授。クラントン氏はデューク大学で教壇に立つ。

エコノミストらはかねてから、労働意欲を高める手段(インセン ティブ)としての賃金と賞与の重要性を強調してきた。しかし、米国 の住宅バブルとその破裂はこのような金銭的なインセンティブが害を もたらし得ることを示した。

アカロフ、クラントン両氏は「従業員が賃金と賞与のことしか考 えていない」場合、「彼らは賞与を得るためなら何でもするが、顧客や 会社にとって良い行動を取るとは限らない」と指摘。金銭的なインセ ンティブのみでは従業員に適正な行動を促すのに不十分ならばどうす ればよいのか。従業員が雇用主と一体感を持ち目標を共有することだ と著者らは論じる。ゴールドマンと米軍はそのような慣行を持つ集団 の例だという。

「働き手が所属組織と一体感を持つことが、組織の成功と失敗を 決定付ける主要な要因となる。恐らく支配的な要因だろう」と著者ら は論じている。(ジェームズ・プレスリー)

(プレスリー氏はブルームバーグ・ニュースの書評家です。この 書評の内容は同氏自身の見解です)

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