【コラム】ゴールドマン、CEOの最優先の仕事は「名誉挽回」-ワイル

「ゴールドマンたたき」はこのほど、 単なる国民的娯楽から、はるかに深刻な問題へと格上げされた。これ は今や、ゴールドマン・サックス・グループの業務を妨げる正真正銘 の脅威だ。私が言っているのではない。ほかでもない、ウォール街の 最高権威であるゴールドマン自身が言っているのだ。

ゴールドマンの最新の年次報告書の中には新たに、219語から成 るリスク要素についての開示が盛り込まれた。同社はここで、やむこ とのない批判のパンチが、効き始めていることを明らかにした。ゴー ルドマンは、自らの事業モデルに何らかの不適切があると認めている わけではない。そんなことは全くゴールドマンらしからぬ行為だ。

ゴールドマンが問題にしているのは、同社の存在に対する周りの 反応なのだ。同社への批判は、あまりにも頻繁にメディアをにぎわす。 これに対応し、政府はあまりにも数多くの調査を開始する。そして、 ゴールドマンの経営陣の時間はあまりにも貴重で、これらすべてへの 対処に割く余裕などない。

ゴールドマンが1日に提出した年次報告は、「金融危機、そして金 融機関に関する現在の政治的ムードと国民感情は、相当な量の否定的 な報道と、規制当局や議員による否定的な発言や問責につながってい る」と分析。

「当社に何らかの不正があると主張する報道やその他の公の発言 は、その主張に事実の裏付けがあるかどうかにかかわらず、規制当局 や議会、司法当局による何らかの調査または訴訟に発展する場合が多 い」と指摘した。

最大限の賛辞

それらへの対応は「時間と費用がかかり、当社の上級経営陣の時 間およびエネルギーを当社事業以外に使わせることにもなり得る」と 続け、「否定的な報道、政府の厳密な監視、法律・規制上の措置は、当 社の評判に悪影響を与えるとともに、従業員の士気と業務成績を低下 させ、これが事業および業績に負の影響を与える恐れがある」と結論 付けた。

この情報開示によって、ゴールドマン経営陣は意図してかどうか は知らないが、メディアに対して最大限の賛辞を送った。同時に、自 社の大きな失敗を認めたことにもなる。メディアの方は「ゴールドマ ンがわれわれのことを気にしているなんて、われわれも偉くなったも のだ」と思うだろう。ゴールドマンのロイド・ブランクフェイン最高 経営責任者(CEO)の側から言えば、「わたしの指揮の下で、わたし の会社が、その高い名声を傷付けられるような目に遭った」というこ とになる。

ゴールドマンの広報担当者、エド・キャナデー氏はコメントを控 えた。

ギリシャ

優れた経営判断と株価押し上げも、もちろん求められるが、今や ゴールドマン経営陣にとって最重要の仕事は、同社の評判を守ること だ。社会の信頼を失ったら、ゴールドマンは存在できない。カウンタ ーパーティー(相手方)は同社と取引しなくなり、政府や企業も同社 に業務を委託しなくなる。優秀な人材は同社で働こうとしないだろう。

ゴールドマンは昨年、134億ドル(約1兆2000億円)の利益を 上 げ162億ドルを報酬として支払った。同社は今まで、疑惑のある行為 についても、「疑わしきは罰せず」という世間の姿勢に守られてきた。 しかしこのごろは、灰色の部分が最も強い怒りを呼ぶケースが多いよ うだ。

ゴールドマンはギリシャが債務を少なく見せていたことに責任が あるのだろうか。ギリシャ政府と同じだけの責任があるはずはないが、 やはりゴールドマンがギリシャ政府のためにした仕事も、かなり怪し く見える。ゴールドマンは米政府にアメリカン・インターナショナル・ グループ(AIG)救済を強制したのだろうか。そんなことはないが、 AIGがゴールドマンを相手方とした取引で、税金を使って額面通り の支払いをしたことによってゴールドマンが利益を得たのは事実だ。

大き過ぎてつぶせない

前CEOのハンク・ポールソン氏が財務長官だった時代の財務省 はゴールドマンが操っていたのだろうか。公式にはノーだが、そのよ うに見受けられる時も確かにあった。ゴールドマンは市場を操作した り、顧客の注文を執行する前に自社の売買をしたりしているのだろう か。それを裏付ける証拠などはないが、ゴールドマンが望めばそうい う行為も可能であることは確かだ。

結局のところ、一般市民が最も憤慨しているのは、米政府が金融 システム救済に数兆ドルを注ぎ込んでからさして時間もたたないうち に、ゴールドマンとその従業員が巨額の金を稼いだことなのだ。ゴー ルドマンだって、救われた金融システムの一部だ。なのに、同社の経 営陣はいまだに傲慢(ごうまん)にも、「大き過ぎてつぶせない」とい う暗黙の保証を政府から得てはいないなどとうそぶいている。

ゴールドマンが行ったようなリスク要素開示には、前例がある。 すぐに頭に浮かぶのは油田サービス会社のハリバートンだ。同社は以 前にCEOだったディック・チェイニー氏が米副大統領になった後、 批判の嵐にさらされるようになった。同社はチェイニー氏との関係を リスク要素に挙げていた。

劇的な行動

同社もゴールドマンと同様に、自社の行動で動かすことのできな い要因によって標的になったと論じた。同社は結局、イラクでの国防 省との契約が司法省の捜査の対象となったケロッグ・ブラウン・アン ド・ルート部門をスピンオフした。その後、米国民はハリバートンと ケロッグへの興味を失った。

ゴールドマンを分割するのはこのようにすっきりとはいかないだ ろうが、評判に付いた染みをぬぐう方法がどうしても見つからない場 合、同社もある時点で、同じくらい劇的な行動に出ざるを得なくなる かもしれない。ゴールドマンの名誉を挽回することこそが、ブランク フェインCEOの最優先課題だろう。しかしながら、どうすればそれ を達成できるのかが、同CEOに分かっているようにはとても見えな い。実を言えば、それはもはや不可能なのかもしれない。(ジョナサン・ ワイル)

(ジョナサン・ワイル氏は、ブルームバーグ・ニュースのコラム ニストです。このコラムの内容は同氏自身の見解です)

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