封印解かれた消費税論議、ギリシャ危機で火がつく-税調本格審議

菅直人副総理兼財務相が将来の消 費税増税も見据えて、消費税議論の封印を解いた。鳩山政権は任期の 4年間に消費税増税はしない方針。複数の政府関係者は、財務相を動 かしたのはギリシャの財政危機を受けた日本の赤字財政への懸念だと 指摘する。政府税制調査会は財務相の指示の下、専門家委員会の初会 合を先週開き、消費税を含む税制全体の見直しに着手した。

「当然、消費税についても議論していただく」。菅財務相は2月 24日の初会合後の会見で「基本的には税全般の議論をしていただきた い」と述べ、まず所得税を優先して検討する方針を示した上で、そう 付け加えた。「皆さん、消費税に集中的に関心をお持ちになっている」 とことさら言及したが、議論の先に消費税があると一部専門家はみる。

石弘光元政府税調会長(放送大学学長)はブルームバーグ・ニュ ースに対し、消費税議論の開始は「背に腹は替えられないということ だ」とした上で、「子ども手当などを実施するとなると恒久財源が絶対 に必要となる。議論だけで終わるかどうかだ」と指摘する。

来年度予算の審議中に政府税調の本格審議を開始したのには理由 がある。日本の債務残高は昨年末で871兆円に上り、今年度末には900 兆円に達する。国際金融市場では、昨秋のドバイ危機に続き、ギリシ ャなどの財政危機が波乱要因になっており、日本としても「対岸の火 事」とばかりに見ていられないとの危機感がある。

峰崎直樹財務副大臣は「菅財務相はイカルウィットで財政問題は 相当大変だという認識を持ったのではないか。税も悠長なことを言っ ておられないという雰囲気を感じた」と述べ、先のカナダでの7カ国 財務相・中央銀行総裁会議(G7)が契機となったと解説した。

農林中金総合研究所の南武志主任研究員は「数字だけ見れば、ギ リシャよりもひどい状況。金利が上昇した場合の景気失速のリスクを 財務相として頭に入れて置かなければならない。G7で各国財務相と 話し、財政再建が大きな問題と気付いたのではないか」とみる。

消費税議論開始の意味

菅財務相は元々、消費税の議論には消極的だった。1月7日の就 任会見以降「徹底的に財政の無駄を省き、逆立ちしても出ない段階で 消費税の議論を煮詰める」と繰り返し、向こう1年間は財政の無駄削 減や組み替えを優先する考えを強調していた。

11年度予算で必要とされるマニフェスト(政権公約)関連予算は

12.6兆円。事業仕分けなど財政の無駄の見直しだけで財源確保するの は困難だ。石氏は所得税増税で確保できる財源は「微々たるもの」と し、「11年度からの導入は無理としても、4年を待たずに消費税率引 き上げをやらざるを得なくなるのではないか」とみる。

政府税調専門家委の井出英策委員(慶応大学准教授)は、「消費税 増税はいつかは上げなければいけない」としながらも、「社会的な公正 さという観点から段取りが重要だ」と言明。所得税の累進性や法人税 の負担などを整理した上で、「最終的に不足する財源を何に求めるかと いうときに消費税が出てくると」と説明する。

日本だけでない消費税議論

消費税増税をめぐる議論は日本だけではない。リーマン・ショッ ク後の景気後退に対応して積極的な財政出動を行った各国では、大幅 に悪化した財政の立て直しや財政赤字に関心が移っている。

米国では連邦レベルでの消費税導入案が一時浮上したが、中間選 挙を控えたオバマ政権は検討を拒んでいる。ニュージーランドでは、 ジョン・ キー首相が2月9日に財・サービスに対する税率(現行

12.5%)を最高15%へ引き上げることを検討していると発言。インド では、ムカジー財務相が同26日に大半の物品税の税率を従来の8%か ら10%に引き上げる方針を示したばかりだ。

格付けと影響試算

複数の政府関係者は、米格付け会社スタンダード・アンド・プア ーズ(S&P)の日本国債の格付け見通し変更と、財務省の「後年度 歳出・歳入への影響試算」も消費税論議に火をつけたと明かす。

今月2日に衆院を通過した10年度予算案では、新規国債発行額は 過去最大の44.3兆円に上った。一方で、税収は前年度当初比18.9% 減の約37兆円にとどまり、1985年以来25年ぶりに40兆円を下回っ た。税収が新規国債発行額を下回るという異例の事態だ。

S&Pは1月26日に日本国債の格付け見通しの「安定的」から「 弱含み」に引き下げた。S&Pは民主党政権下の政策では財政再建が 予想より遅れると指摘、中長期的な成長戦略が取られなければ「格付 けを1段階引き下げる」可能性があると警告している。

一方で、同じく米格付け会社のムーディーズ・インベスターズ・ サービスのソブリンリスク担当マネジングディレクター、ピエール・ カイユトー氏は2月25日のインタビューで、「日本の赤字を考慮すれ ば、ある程度の税制改革が必要」との認識を示している。

財務省が2月4日に公表した「影響試算」は10年度予算案を基に 13年度までの財政見通しを示している。これによると、11年度以降、 歳出と税収・税外収入の歳入の格差を新規国債発行で埋めた場合、そ の額は50兆円を超える。これを抑制するには、増税による歳入増に踏 み出さざるを得ないという現実を突きつけた。

参院選への懸念

7月の参院選前に実質的に消費税の議論をスタートさせることに、 政府・与党に懸念の声がないわけでもない。しかし、6月に策定予定 の「中期財政フレーム」をにらみながら、中期的な財政健全化に向け た政府のコミットメントを示す狙いもありそうだ。

みずほ証券の上野泰也チーフマーケットエコノミストは「社会保 障財源の確保のための消費税率引き上げには相応の支持がある」とし ながらも、「足元の経済状況の厳しさから増税論議の開始に抵抗を示す 人々も多い」とも指摘、世論の反応は見通し難いとする。

前出の石氏は「7月の参院選であれ、次の衆院選であれ、すでに 将来の消費税増税は織り込まれている。政府は、消費税は一方的にマ イナスばかりではないと国民に理解を求めるべきだ。消費税を上げた 分を介護や医療に充てればよい」との見方を示している。

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