若き日に見た悪夢が原動力-クリスティーズのアジア責任者クリエル氏

英クリスティーズ・インターナシ ョナルが1977年5月、米ニューヨークで初の宝飾品オークションを開 催する前夜、若き競売人だったフランソワ・クリエル氏は、誰もいない 部屋でオークションを行うという悪夢を見たことを思い出していた。

フランスのパリ生まれのクリエル氏(61)は、「緊張していた」と 振り返る。同氏はその後30年間に、クリスティーズの宝飾品部門責任 者や欧州部門責任者を歴任。現在はアジア部門の新社長に就任してい る。「心配性で自分自身を疑うのはわたしの性分だ」と語る。

ニューヨークにあるデルモニコ・ホテルのボールルームで開かれた オークションには多くのバイヤーが訪れ、宝飾品は売れた。だが、クリ エル氏は悪夢を再び見るのではないかと恐れ、その気持ちが、米サザビ ーズとの競争が激しく繰り広げられる美術品オークションの世界に自身 を駆り立てると言う。

ピカソ作の絵画や高級別荘、宝飾品などの資産が毎年競売にかけら れるオークション市場で、クリスティーズとサザビーズの両社は合わせ て約70%のシェアを占める。競売価格の約20%に相当する仲介料を得 るため、資産のオーナーを説得する。年間500億ドル(約4兆5000億 円)規模に上る世界の美術品取引で公開オークションはごく一部を占め るにすぎないが、落札額は個人取引の参考として利用される。

クリエル氏は、いつも感じるあの「できるかどうか分からない」不 安を抱えながら、アジア部門の責任者を務めるつもりだと言う。アジア の文化について学んでいるところだ。ニューヨークや欧州での輝かしい 地位はアジアでの成功の保証にはならないと考えている。

クリエル氏は「欧州や米国の人々なら、何が彼らの関心を引き、何 を言うべきではないかすぐに判断できる。ここでは分からない」と話 す。

離婚、死、そして借金

クリエル氏によると、文化の違いにかかわらず、人々が先祖伝来の 美術品を売る理由はどこでも同じだ。離婚、死、借金、そして思慮分別 だという。

クリエル氏にはサザビーズを打ち負かした実績がある。同氏のリー ダーシップの下、クリスティーズの宝飾品部門は過去10年間、両社の 宝飾品の販売総額のうち毎年平均60%のシェアを勝ち取っている。

クリスティーズの欧州・フランス部門責任者を務めていたころのク リエル氏の実績の目玉は、フランス人デザイナー、故イブ・サンローラ ン氏の所蔵品の競売権獲得を手掛けたことだ。昨年2月、パリの展示会 場グラン・パレで開かれたオークションの売り上げは3億7440万ユー ロ(約450億円)と、欧州本土のオークションとしては最高額を記録し た。

美術品市場の回復をけん引

クリスティーズとサザビーズにとって、香港はアジアの美術品オー クションの拠点であり、ニューヨークとロンドンに次ぐ世界3位の市場 だ。アジアの売上高は両社全体の約10%にとどまるものの、昨年は信 用危機で欧州や北米での美術品購入が落ち込むなか、世界の美術品市場 の回復をけん引した。

ワインオークションでは昨年、香港がロンドンを抜き世界2位とな り、売上高は6400万ドルに上った。クリエル氏によると、中国マネー の勢いが増すなか、香港はニューヨークを抜きクリスティーズにとって 2年連続で最大の宝飾品市場となった。同社の香港での売上高は総額 27億香港ドル(約310億円)、サザビーズは20億香港ドルだった。

ただ、米美術投資ファンド、シリン・グループの美術品ディーラー 兼アドバイザー、ジョン・バーワルド氏によると、サザビーズは過去1 年間、中国製の古美術品の競売で「極めて優れた」実績を挙げており、 業界の関心を集めている。最高水準の中国製古美術品の委託販売ではサ ザビーズの活躍が目立っているという。

アジアは昨年、クリスティーズの世界の売上高の14%を占め、こ の割合は2008年の12%から拡大した。クリエル氏は、自身の主な任務 の1つはさらに売り上げを伸ばすことだと語った。

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