運用成績30%のヘッジファンドの魔術師が顧客をゴルフ接待した理由

今年1月、資産家スティーブ ン・コーエン氏はフロリダ州ウェストパームビーチのゴルフ場ベア ー・レイクス・カントリー・クラブに20数人を招待した。

招待客の大部分はコーエン氏(53)が率いるヘッジファンド運 用会社SACキャピタル・アドバイザーズの顧客で、見込み客も数 人含まれていた。

ハンディ10の腕前のコーエン氏が顧客をゴルフに招待するの は異例のこと。2年前はゴルフ接待などまるで必要なかった。1日 の大半をコネティカット州スタンフォードにある180人を擁するト レーディングフロアに陣取って株式売買するのが日常。同氏と100 人のポートフォリオマネジャーが売買する株式は一日1億株に上り、 米国の全取引所の出来高の約1%を占める。18年間にわたって年 平均リターン30%という驚異の運用成績を誇り、それさえ示せば よかったからだ。

招待客の1人で、2001年からSACに投資しているインフィ ニティ・キャピタル・パートナーズのディレクター、ジェフリー・ ベール氏は「コーエン氏は表舞台には現れない影の魔術師と見られ ていた」と話す。

ヘッジファンド業界が縮小する今日の状況を成長の好機と見て、 コーエン氏はより社交的になっていると、投資家らは指摘する。S ACの現在の運用額は120億ドル(約1兆700億円)と、08年半 ばのピーク時の160億ドルから減少した。旗艦ファンドの「SAC キャピタル・インターナショナル」は08年の運用成績がマイナス 19%と、設定後初の損失となった。

ガリオンめぐる疑い

ゴルフ招待のようにSACを開かれたものにしようとする姿勢 は、既存の投資家に安心感をもたらす公算が大きい。1兆6000億 ドル規模のヘッジファンド業界を激震させた米ヘッジファンド大手 ガリオン・グループの共同創業者によるインサイダー取引疑惑に、 SACの元従業員2人が関係していた可能性が指摘されたからだ。 ただ2人とも、SACで働いている当時にインサイダー取引に関与 したとはみられていない。

コーエン氏はスタンフォードのオフィスにブルームバーグ・ニ ュース記者が訪問するのも認めた。薄くなりかけた頭髪と青い目の ずんぐりしたこの投資マネジャーは、ほとんど毎日のようにフロア の中心にどっかり座り、自分が最も得意とするトレーディングにい そしんでいる。コーエン氏の上げた利益は全体の約10%と、10年 前の50%超から低下した。

コーエン氏は騒音が苦手なため、フロアの電話は着信を音では なく光で知らせるようにしてある。服装はスーツよりもジーンズと セーターを好むが、120億ドルのヘッジファンドを率いるトレーデ ィングの巨匠というよりは、カジュアルフライデーの税理士のよう に見える。

コーエン氏は、トレーディングフロアの気温を21度と低めに 設定しているが、これは居眠りを防ぐためだ。現・元従業員による と、ポートフォリオマネジャーやアナリストが株式に関する質問に 答えられないと、同氏は汚い言葉を使ってどなりつける傾向がある。

コーエン氏は普通、それほど多くの株式を保有しない。昨年初 めの見込み顧客向けに配られた資料によれば、6カ月以上保持する 場合もあるが、通常はポジションを2-30日で解消する。

投資資金流入続く

昨年7-12月(下期)、SACには新たに13億ドルの資金が 流入した。ガリオン問題でSACの名前が浮上したにもかかわらず、 新たな投資資金の流入は相次いでいる。

ガリオンの調査は、司法省がインサイダー取引の捜査手法とし て初めて盗聴を用いた07年から少なくとも始まっている。この通 話記録により、07年10月、ガリオン創設者のラジ・ラジャラトナ ム被告ら6人が逮捕された。その後、現在までに15人が起訴され、 9人が有罪を認めている。

事情聴取を受けた1人が明らかにしたところによれば、少なく とも米連邦捜査局(FBI)の1人、B・J・カン捜査官が、SA Cのトレーディングを数年間にわたり調査している。SACの従業 員で不正に関与したとされた者はいない。また、SACはこれまで のところ召喚状も受け取っていない。カン捜査官に電話取材を試み たが、返答は得られなかった。FBIのジェームズ・マーゴリン報 道官はコメントを控えた。

前妻の訴訟

コーエン氏を最も厳しく追及しているのは、前妻のパトリシア さんかもしれない。パトリシアさんは昨年12月、ニューヨークの 連邦地裁にコーエン氏を訴えた。1986年当時、投資会社グランタ ルのトレーダーだったコーエン氏から、米複合大手ゼネラル・エレ クトリック(GE)によるRCA買収が近く発表されるとの内部情 報を入手したと聞いたと、パトリシアさんは主張していた。また、 コーエン氏は米証券取引委員会(SEC)から聴取を受け、黙秘権 を行使したこともあったとしている。訴追には至らなかった。

SACの広報担当、ジョナサン・ガスサルター氏は2月25日 付のブルームバーグ・ニュースあての電子メールでこの訴訟につい て、「前妻によるばかげた申し立てであり、事実無根だ」と説明し た。

今年1月中旬、パトリシアさんは訴訟を取り下げ、弁護士を 替えた上で、新たな訴訟を計画していると述べた。しかし2月25 日時点で、まだ訴訟は提起されていない。

少数の幹部が投資判断を下す多くのヘッジファンドとは異なり、 SACは約100の小規模なファンドを運営している。投資マネジャ ーの契約には、運用の委任を解除する条件を規定する条項が盛り込 まれている。資産がピーク時から5%下回ると、SACは残る運用 資産の半分を取り上げることができる。ピーク時を10%下回った 場合は、マネジャーを解雇できる。ポートフォリオマネジャーは通 常、約4年間で交代を余儀なくされる。

コーエン氏の株式投資と企業経営は絶えず変わり続けている。 05年に同氏は、株式から債券、為替、プライベートエクイティ (PE、未公開株)の分野にも手を広げた。しかし08年末までに 同氏は、すべての資産クラスのトレーディングで成功することはで きないとの教訓を相場崩壊から学んだとして、株式以外のトレーダ ーをほぼ全員解雇した。

コーエン氏が年間30%のリターンを上げ続けさえすれば、コ ーエン氏が気まぐれであっても一向に気にしない。インフィニティ のベール氏は「変化する環境への適応能力が彼の最大の強みだ」と 指摘。「最も恐れているのは彼が引退することだ」と語った。

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