スター運用者から酪農家へ-元ブラックロックのバーチ氏、人生の決断

グラハム・バーチ氏は、約10年 間にわたって英国で最高水準の成績を誇る天然資源関連株の運用者だっ た。現在保有しているのは主に四本足でしっぽのある家畜だ。

納屋に干し草を積み上げるためトラクターに乗り込むバーチ氏の長 靴には泥が厚くこびり付いている。運営する2つの農場の面積は3658 エーカーと、約25年間勤務したシティー(ロンドンの金融街)の5倍 以上。スポーツカーの「アストンマーチン・バンテージ」に乗ってイン グランド南西部ドーセットの農場にバーチ氏が初めて姿を見せた時、地 元の住民らは苦笑した。このスポーツカーは今は自宅に置いてある。

バーチ氏は49歳の時、資産運用最大手、米ブラックロックでの生 活を捨てた。同社では360億ドル(約3兆2000億円)相当の運用を統 括。自身も5本の商品関連ファンドを運用していた。他人の年金の心配 をすることに疲れ果てたと語る。

ブラックロックの天然資源チームの責任者を11年間にわたって務 めたバーチ氏は「時間そのものではなく責任の問題だ。ピーク時には 400億ドルの貯蓄を運用していた。それは、常にのしかかってくる重荷 のようだった。ずっと続けることはできなかった」と振り返る。

調査会社モーニングスター(シカゴ)によると、バーチ氏が1999 年から2009年まで運用した「ブラックロック・ゴールド・アンド・ゼ ネラル・ファンド」の運用成績は過去10年間、英国を拠点とする投資 信託858本のうちトップ。リターン(投資収益率)は年率約23%だっ た。世界金融危機で商品相場が少なくとも1956年以降で最大の落ち込 みを示した08年はマイナス17%だったが、他のファンドの平均である マイナス20%を上回った。

未知の世界

過去10年の商品ブームの間、バーチ氏の見方は広く引用され、金 やアルミニウム、ロシアの鉱業株などさまざまな分野について意見を述 べた。

バーチ氏は豊富な経験を積み、富を築いた日々を捨てた。ダークス ーツに身を包み航空機に乗って出張、鉱業関連会議で講演し見通しを語 る日々だ。そして、未知の世界に飛び込んだ。「トラクターを運転した ことなどなかった」と言う。そして、それはきっかけにすぎなかった。 「徹底的な変化が必要だった」。

バーチ氏は大半の時間を、ロンドンの南西118マイル(約190キ ロメートル)に位置するドーセット州ブランドフォード・フォーラムの 近くで2つの農場を運営して過ごしている。乳牛560頭と妊娠中の羊 1000頭、肥料400万リットルが貯蔵されたタンクもある。年間300 万リットルの牛乳を生産している。これは五輪競技用の水泳プールの水 量に相当する。

懐かしさはない

バーチ氏は「以前の仕事に懐かしさを感じると思っていたが、あま り感じないことが分かった」と言う。同氏はインペリアル・カレッジ・ ロンドンの鉱山地質学の博士号を持っている。

バーチ氏は「15年間1つのことに従事すれば十分だ」と語る。 「リオ・ティントの決算プレゼンテーションには約25年間、毎回出席 した。何も新しいことを学んでいないと思い始めた。新たなことを学ぶ のをやめれば、人生はとてつもなく退屈になる」。

バーチ氏の妻マーガレット・スクリビンズさん(50)は、この変化 は子供5人を含む家族全員にとって良いことだったと話す。家族はドー セットから126マイル離れたセントアルバンズに住み、一番下の13歳 の双子が学校を終えるまでそこにとどまる計画だ。14ポンド(約6キ ログラム)やせた夫について「農場にいると5歳は若く見える」と言う。

業界の流れは注視

バーチ氏は過去の生活を完全に捨てたわけではない。種子メーカー 最大手の米モンサントなど農業関連株を保有。農場にある質素な事務所 のパソコンで鉱業関連ニュースを追っている。今月には産金会社の英ペ トロハブロフスクの非常勤役員に就任した。資産運用に戻るなら、ブラ ックロックとは違い、「個人として変化をもたらすことができる」よう なずっと小規模な企業である必要があると語る。ただ、その計画はない。

バーチ氏はブラックロックで「非常に高水準の報酬」を得ていたが、 現在では農場に資金を注ぎ込んでいる。穀物倉庫の建設に40万ポンド (約5500万円)、新しい収穫機の購入に15万ポンド、納屋の新築に 5万ポンドだ。今年は利益が出始めると期待している。農場経営の報酬 は得ていない。

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