【経済コラム】豊田社長、FRB議長を後部座席に追いやる-ペセック

バーナンキ米連邦準備制度理事会 (FRB)議長の議会証言がかすんでしまうことはめったにない。し かし、トヨタ自動車の社長は今週、この偉業をやってのけた。

米議会では24日、バーナンキ議長が半期に一度の米経済に関する 証言を終えた後、トヨタの豊田章男社長が3時間にわたって公聴会で 質問攻めに遭った。それにはもちろん当然の理由があった。世界最大 のこの自動車メーカーが安全性の管理で対応が鈍く遅く、それによっ て起きたリコール(無料の回収・修理)が世界的な大問題に発展した からだ。

怒れる米議員らから次々に攻撃を受ける豊田社長の様子を見てい たわたしは、ある思いを抱き続けた。トヨタ株は紛れもなく買いだと いう思いだった。株価はその時点で年初からほぼ16%下げて3270円 だった。

もちろん現在のトヨタは悲惨だ。まれにしか起きないものの甚大 な影響を及ぼすいわゆる「ブラック・スワン」と言ってもいい。ほん の1年前には、世界経済がほころぶなかでもトヨタはかなり好調だっ た。米ゼネラル・モーターズ(GM)は米政府から生命維持装置を付 けられたが、トヨタは自力で将来の構想を描いていた。

しかしトヨタが世界一に向かって走り続けるなかで思い上がりが 出てきた。同社の高い評価の根幹にあった品質と安全性への取り組み に手抜かりがあったのだ。尊大さと不透明な危機対応で、同社への信 頼はますます失われた。これを取り戻すため、トヨタは猛烈に努力す る必要がある。

もちろんトヨタはそうするだろうし、それが肝心な点だ。仮にト ヨタの幹部らが1カ月前に問題の深刻さを理解していなかったにして も、現在は十分認識しているだろう。豊田社長は今週の公聴会で「顧 客第一」を約束したが、わたしはそれを信じた。

プレッシャー

トヨタにはプレッシャーがかかっている。今回の問題は事業だけ でなく、政治にも影響が及んできているためだ。豊田社長の公聴会出 席前に鳩山由紀夫首相は官邸で記者団に対し、誠実な対応への期待感 を示した。トヨタの問題が日米間で経済摩擦を引き起こす可能性を懸 念したのだ。「日本株式会社」の看板は不安定な状態になっており、行 動を取らないという選択肢は許されない。

安全性よりも利益を優先したことで、トヨタは路頭に迷ってしま った。しかし、将来が失われたわけではない。問題はトヨタがしたこ と、あるいはできなかったことではなく、立て直しに向けて来週、来 月、そして来年に同社が何をするのかということだ。

トヨタは長期的に見守ればいい。リコールがいったん起こると、 一段のリコールが続く傾向があるが、トヨタは消費者が求める燃費が 良くて環境にやさしい「プリウス」のような製品で競合他社よりはる かに進んでいる。革新性があるのだ。5-10年後にトヨタが競争から 外れていると本気で考えることができるだろうか。

株価は割安

トヨタ株は割安だ。同社の株式時価総額はアクセルペダル問題で 約230万台のリコールを米国で実施した1月21日以降、ケニアの国内 総生産(GDP)に相当する約350億ドル(約3兆1220億円)を失っ ている。

豊田社長の公聴会での様子は日米の文化面の相違からも痛々しか った。日本の企業リーダーは衝突を嫌い、注目が当たることを避ける。 米国ではどちらも好む傾向にあるし、政治の世界でもそうだ。面目を 保ち、「和」を大切にする日本の企業幹部から米議員があれこれ詳細を 引き出そうとしたのは、異なる文化の衝突でもあった。

日本人なら、豊田社長から「大変申し訳ない」との言葉が出れば、 緊張を和らげるべきだと考える。しかし、ワシントンの議員には、バ ーナンキ議長のあいまいな表現と同じたぐいのものに聞こえてしまう。

米国対日本ではない

メディアの扱いも日米間ではっきり違う。米国はトヨタ問題をエ ンロンやアメリカン・インターナショナル・グループ(AIG)の問 題がさもなかったかのように報じている。日本では陰謀説もささやか れ、トヨタたたきイコール日本たたきと感じる人が多い。

トヨタのように国家のプライドに結び付いた企業を追及する政府 は格好いいものではない。米下院監視・政府改革委員会は同様の熱意 を持って米金融システムの問題を解決しようとしているのかと思って しまう。そもそもトヨタの問題が発生した時に監督当局は何をしてい たのか。

わたしは、ラジオ番組司会者のラッシュ・リンバー氏がラフード 米運輸長官をGMやクライスラー・グループの「ブランドマネジャー の一員」のように振る舞い、「トヨタがずたずたになるまでやっつけて いる」と批判したのを聞いたときに驚きを覚えた。わたしがリンバー 氏の言葉に同感することはめったにないからだ。

トヨタはもはや単なる日本企業ではない。米国で約20万人が同社 で働くことで生計を立てているのだ。25年前に米国人労働者は外車を バットでたたき、米国製品の購買を訴えた。しかし現在は、トヨタの 工場がある州の知事は同社に対する連邦政府の言動が「軽率で憂慮す べきだ」と非難する書簡を議員らに送っている。日本対米国という単 純な戦いではない。

バーナンキ議長を表舞台から降ろしたこと自体が、恐らく多くを 物語っている。米国の有権者が過去そして現在のバブルを懸念してい るときに、国を率いるリーダーはトヨタ批判という新たなバブルを膨 らませている。しかし、このバブルは多くの人が考えるよりも恐らく 短命に終わるだろう。 (ウィリアム・ペセック)

(ウィリアム・ペセック氏は、ブルームバーグ・ニュースのコラ ムニストです。このコラムの内容は同氏自身の見解です)

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