【コラム】無実のゴールドマンは金融業界の避雷針-M・ギルバート

今回に限っては、罪をなすりつけ られている金融業界は無実だ。

欧州通貨統合後に財政赤字のつけを先送りするため、ギリシャに スワップ取引の利用を促す巧妙な操作が行われたとされ、ゴールドマ ン・サックス・グループの役割を欧州連合(EU)が調査している。 スワップ取引をめぐって「不適切なことは一切ない」というのがゴー ルドマン側の主張だ。

犯罪を構成する要件はそろっている。まず、被害が存在する。通 貨統合の信認が損なわれている。凶器もある。ギリシャの債務を帳簿 上で大きく減らすことのできるデリバティブ(金融派生商品)だ。そ して、自国通貨ドラクマを捨て、ユーロ導入資格を得るには、財政状 況が悪過ぎることを承知していたギリシャ政府こそが犯人だ。

共犯者らしきゴールドマンも登場する。ギリシャの財政赤字が詰 まった容器の栓を抜き、単一通貨の導入資格を確実なものとするため、 十分な債務を将来に先送りできる金融工学の技術を備えた容疑者だ。

欠けているものがあるとすれば、法令の違反だ。通貨統合の立案 者らは設計図をつくるに当たって、故意にそして計画的に「追加措置」 という言葉を注釈に書き加え、イタリアのユーロ導入を可能にした。

ギリシャが、ゴールドマンの助けを借りて、規定の範囲内で利用 できたのも同じ抜け穴だ。ドイツのメルケル首相は今月、「われわれを 奈落の底に落としかけた銀行が、ギリシャの統計偽装を手助けていた ことが判明すれば、不祥事だ」と述べたが、人差し指を立てて責めた てる相手を間違えている。

クリエーティブ会計

投資銀行家はその遺伝子の働きによって、ゆがみのある規定や柔 軟に解釈できる条項を見つけ、法律の意図しない結果を最大限に利用 する行動に駆り立てられている。ゴールドマンが顧客のためにその手 腕をふるうのを非難するのは、子猫がウールの毛玉にじゃれているの をひっぱたくようなものだ。

クリエーティブ会計は、国家財政において目新しいものではない。 イタリアは円建てスワップを利用してお化粧し、ユーロ導入資格を満 たせない不名誉を免れた。英国では、いわゆる官民パートナーシップ (PPP)と民間資金活用事業(PFI)を通じて、政府は経費のか かるインフラ整備の負担を民間企業のバランスシートに移すことが可 能となった。

「うそには3つある。うそ、真っ赤なうそ、それに統計だ」とい う言い古されたジョークが、ギリシャにはぴったりだ。2004年9月、 ギリシャは2000年と01年、02年の財政赤字が当初発表よりも大きか ったとして修正を迫られた。財政赤字の国内総生産(GDP)比率は 2000年が倍以上の4.1%、01年と02年はほぼ3倍の3.7%に大幅に引 き上げられた。

単刀直入に言えば、ギリシャは財政赤字をGDP比3%までに抑 えるというEUの財政基準をユーロ導入後、毎年破り続けていたのだ。 パパコンスタンティヌ財務相が、09年の赤字にちょっとしたごまかし があったと告白しても誰も驚かないはずだ。

国の信認低下で儲ける

ギリシャの問題は、デリバティブ市場の監督強化につながる公算 大だ。各国政府は、クレジット・デフォルト・スワップ(CDS)で 一国の信認低下を見越した投資ができることに明らかに不安を感じて いる。余計で不必要な規制の介入に拍車を掛ける恐れがある。

ギリシャとの一連のスワップ取引でゴールドマンが使った手法は 実勢レートではなくヒストリカル為替レートを利用するもので、無責 任な裏技だが、違法ではない。スワップは成人同士の同意に基づく取 引所の外での契約だ。その価値がどんなに現実と懸け離れていても、 何の問題もないはずだ。

ゴールドマンは、世界的に行われた金融業界の公的救済への市民 の怒りを引き受ける避雷針となった。いら立ちはもっともだ。業界に は謙虚さが足りず、おごりが目立つ。どの金融機関も金融システムを 存続させる税金という大海がなければ、生き延びることができなかっ たという認識に乏しい。

だが、ギリシャの問題でゴールドマンは何の悪事も行ってはいな い。EUの特別捜査チームは、原因究明でもっと足元を見つめるべき だ。(マーク・ギルバート)

(マーク・ギルバート氏は、ブルームバーグ・ニュースのロンド ン支局長でコラムニストです。このコラムの内容は同氏自身の見解で す)

    最新の情報は、ブルームバーグ端末にて提供中
    LEARN MORE