ディズニー帝国にゾンビも登場-アイガーCEOは変革の旗手となるか

米ウォルト・ディズニーは、テー マパークのアトラクションの一つ、「ホーンテッドマンション」を題材 とするコミック(漫画)シリーズの制作を出版事業者のダン・バド氏 に依頼した。ディズニーといえば、白雪姫であり、ティンカー・ベル だ。バド氏は、自らの気味の悪いユーモアのブランドは受け入れられ ないのではないかと心配していた。

しかし、首つりロープにぶら下がったがい骨や散乱した遺体、幽 霊のようなプードルといった同氏の構想にディズニーはゴーサインを 出し、彼を驚かせた。

コミック出版社SLGパブリッシングの創業者であるバド氏は 「われわれのアイデアはすべて実に奇妙なものだった」と述べ、「興味 深いのは、ディズニーは四角四面という印象のある企業にしては、し っかりと変革を進めている点だ」と話す。

世界最大のメディア企業であるディズニーのロバート・アイガー 最高経営責任者(CEO、59)は、傘下の映画スタジオやテーマパー ク、店舗を刷新するため、多額の支出を行っている。

同社の2008年10月-09年9月(09年通期)の純利益は前年比 25%減の33億ドル(約3005億円)と、アイガーCEO就任後の5年 間で最悪となった。09年10-12月(第1四半期)の純利益は前年同 期比ほぼ横ばいだった。

世界的なリセッション(景気後退)は、同社の11カ所のテーマパ ークを直撃した。高度な訓練を受けた知的モルモットの活躍を描く09 年公開作「スパイアニマル・Gフォース」(原題:Gフォース)が失敗 に終わるなど、映画スタジオも苦戦している。

コミック買収し、クルーズ船も

アイガーCEOは、暴力シーンの多いビデオゲームなどで育った 世代の子供たち、特に男の子を引き付けようと数十億ドルを投じてい る。昨年12月には「アイアンマン」や「スパイダーマン」、「X-ME N」を手掛けたコミック出版社、米マーベル・エンターテインメント の買収を完了。買収額は43億ドルで、株価の実勢を40%上回る価格 でマーベル株を取得した。

ディズニーは現在、「アクアダック」と呼ばれるウオーターコース ターを備えた新造船など、クルーズ船2隻を建造中だ。テーマパーク には、ディズニーのキャラクターや米国の歴代大統領を模した精巧な 実物大の電子ロボットを設置する。また、同社の筆頭株主である米ア ップルのスティーブ・ジョブズCEOのアイデアを取り入れ、350の 小売店舗にハイテクを駆使した改装を施している。

米ソレイユ・セキュリティーズのアナリスト、アラン・グールド 氏の試算によれば、14年までの5年間の設備投資の総額は123億ドル 強となる見込み。これは、その前の5年間を59%上回る額だ。

評価分かれる事業戦略

アイガーCEOは、1923年にウォルト・ディズニーとロイ・ディ ズニーの兄弟が設立したアニメスタジオを母体とする「ディズニー帝 国」の刷新を試みようとしている。だが、投資家の評価は分かれてい る。

米格付け会社スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)は昨年 12月、ディズニーの債務格付け見通し(アウトルック)を「ネガティ ブ(弱含み)」のまま据え置くと発表した。同社の業績回復や支出の伸 びをめぐる懸念、資金力のある競合他社の脅威を理由に挙げた。

米ラティーフ・インベストメント・マネジメントのマネジングデ ィレクター、ジェームズ・ターケントン氏は「ディズニーは要するに 支出を倍増させようとしている」と指摘。ラティーフは昨年4月、保 有していたディズニー株14万9984株をすべて売却した。アイガーC EOにインタビューを申し込んだが、同社の広報に断られた。

アイガーCEOはアニメ作品の制作ラインの低迷を打開するため、 就任後わずか3カ月でアニメ映画制作大手の米ピクサー・アニメーシ ョン・スタジオを74億ドルで買収することで合意。ブルームバーグの データによれば、同CEOの下で買収ないし一部出資した企業は28 社に上る。

同CEOは昨年8月にマーベル買収を発表した際、同社のスーパ ーヒーローがディズニーのキャラクターに加わることで、ケーブルテ レビ(CATV)のアニメ番組に男の子をもっと引き付けることがで きると述べた。

UBSのアナリスト、マイケル・モリス氏は、ピクサーの映画「カ ーズ」と「パイレーツ・オブ・カリビアン」は少年たちの人気を集め るとみられるものの、映画やCATV番組、キャラクターの大半は低 年齢層や思春期の少女が好むものだと分析する。

ディズニーは昨年、ゾンビが登場する暴力的なゲームを制作する ワイドロード・ゲームズも買収。また、CATV向けアニメ専門チャ ンネル「トゥーン・ディズニー」についても、6-14歳の男の子をタ ーゲットとする番組編成の「ディズニーXD」に衣替えした。

上海にも進出

アイガーCEOが最も資金を投じるのはテーマパークとリゾート、 クルーズ船事業だ。09年通期の関連事業の営業利益は、米国で同時テ ロが発生した01年以降で最も急激な落ち込みを記録した。ディズニー は、米フロリダ州にあるディズニーワールドのホテル料金を最大45% 値引きし、利用者の呼び込みを図っている。

アジアにおいても事業環境は厳しい。5年前に開業した香港ディ ズニーランドは、同地の海洋公園(オーシャンパーク)との激しい競 争で赤字が続く。米コンサルティング会社、インターナショナル・テ ーマパーク・サービシズのデニス・シュピーゲル社長は「競争を過小 評価し、香港で失敗した」と批判するが、ディズニーは昨年11月には 上海にテーマパークを建設する認可を中国政府から獲得し、今度は上 海に進出する準備を進めている。

アイガー氏がCEOとしての在任期間を「おとぎ話」のような形 で締めくくれるとしたら、少なくともその一部は、筋骨隆々のスーパ ーヒーローと血に飢えたゾンビのおかげだ。地上で一番幸せな場所、 ディズニーランドで迎えてくれるウォルト・ディズニーのキャラクタ ーたちとは、ずいぶん懸け離れている。

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