日銀総裁が政府に異例の注文-市場安定に「中銀の尊重」を

インフレ目標を採用しているかど うかは意味のある論点ではない。むしろ財政の持続可能性に不安が高 まる中で政府は財政再建の道筋を示し、財政ファイナンスと一線を画 す日銀の姿勢を尊重すべきだ-。18日の金融政策決定会合後の会見で、 日銀の白川方明総裁が政府に対し、異例とも言える注文を付けた。

昨年10-12月の実質国内総生産(GDP)は前期比1.1%増(年 率4.6%増)と3期連続プラスだったが、総合的な物価を示すGDP デフレーターは前年同期比3.0%低下と過去最大の落ち込みとなり、 デフレが一段と深化していることを印象付けた。

菅直人副総理兼財務相は16日の衆院予算委員会で物価の安定に ついて「大体1%からもうちょっとかなと個人的には思わないではな い」とした上で、日銀との間で「その辺りで目標としての認識は一致 している」と述べた。みずほ証券の上野泰也チーフマーケットエコノ ミストは「日本が慢性的なデフレである以上、インフレ目標を含む日 銀に対する要求は今後も断続的に浮上してくるだろう」としている。

日銀は18日開いた同会合で、政策金利を0.1%前後に据え置くこ とを決定した。会合の終了時間は、白川総裁が2008年4月に就任して 以来、2日間にわたって開催された定例会合では2番目の短さだった。 しかし、その後の会見で白川総裁はいつも以上に能弁だった。

インフレ目標は意味のある論点ではない

デフレは「比喩(ひゆ)的に答えると経済の体温が低下した状態」 であり、その克服には「基調的に体温を上げていくための体質改善」 が必要だと述べた。体質改善とは「生産性の向上」であり、それには 「民間企業と政策当局双方の努力が必要だ」と強調。政府は「企業が 現在、熾(し)烈なグローバルな競争環境に置かれていることを踏ま えて、さまざまな制度や仕組みを見直すことが重要だ」と訴えた。

日銀にインフレ目標の導入を求める声に対しては「今回の金融危 機を通じて、インフレ目標という枠組みについても反省機運が生まれ てきているように思う」と指摘。低インフレ下で金融緩和が長期化し、 世界的なバブル生成と崩壊につながったとの見解を示し、「インフレ目 標を採用しているかどうかは現在、金融政策の枠組みを議論する上で、 意味のある論点ではなくなってきている」と断言した。

白川総裁が最も強調したのは「欧米先進国や日本を含め財政の持 続可能性に対する関心が世界的に高まっている」点だ。足元ではギリ シャなど南欧諸国に注目が集まっているが、日興コーディアル証券の 岩下真理チーフマーケットエコノミストは「次の標的として春以降、 日米の財政赤字が注目される可能性」に注意が必要とみる。

中央銀行の姿勢を尊重すること

白川総裁は「日本は大幅な財政赤字が続いており、債務残高の対 GDP(国内総生産)比率が国際的に見て極めて高い水準になってい るなど深刻な状況にある」と強調。「国債は円滑に消化されており、長 期国債金利も低位安定して推移している」ものの、「金融市場がグロー バル化していることを踏まえると、国際金融市場の安定を維持するた めに、私自身は2つのことが重要だと思っている」と述べた。

第1は、「財政再建の道筋を示し、市場の信認を確保すること」。 第2は、「中央銀行の金融政策運営が財政ファイナンスを目的としてい ないこと。言い換えると、物価安定の下での持続的な経済成長を目的 として政策運営が行われていること」であり、「そうした中央銀行の政 策姿勢を政府が尊重し、市場も信認していることだ」という。

白川総裁は先月29日の講演で「今後、金融市場の安定が損なわれ ることが懸念される可能性が出てきた場合、日銀は金融市場の安定を 確保するために、迅速・果断に行動する」と述べるなど、必要なら追 加緩和を辞さない姿勢を繰り返し表明している。金融市場では日銀の 次の一手として、昨年12月に導入した新型オペの拡充のほか、長期国 債の買い入れ増額を挙げる向きが少なくない。

長期国債買い入れは極力回避したい

みずほ証券の上野氏は「財政規律の緩みが問題視され、国債が増 発されている現在のような状況では、日銀がいくら金融調節運営上の 都合だと主張しても、国債買い切りオペの増額は内外から疑義を招き やすい。極力回避したいのが日銀の本音だろう」と指摘する。

BNPパリバ証券の河野龍太郎チーフエコノミストは、政府は 「人々の将来不安を取り除くための社会保障制度改革と、新たな需 要・供給創出のための規制緩和を地道に行う必要がある」と言う。「金 融政策の役割はこうした構造政策に伴う調整コストを和らげることで あって、構造政策の代替にはなり得ない」としている。

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