【コラム】「元切り上げ」よりグロスさんのクローンを北京に-ペセック

ジム・オニール氏は「2010年の 歴史的な人民元切り上げ」を予想し、目を光らせている。そう考えて いるのは同氏だけではない。

ゴールドマン・サックス・グループのチーフエコノミストのオニ ール氏はブルームバーグ・ニュースに、中国で「何かが準備されつつ ある。いつ起こってもおかしくない」と語った。

前回の人民元切り上げから5年近くになる。再び大幅な切り上げ を実施すれば、物価上昇圧力を抑えるのに役立つだろう。中国経済は 今年、11%超の高成長とも予想されている。過熱リスクはあちこちに あふれているが、与信拡大を抑える取り組みは奏功していない。

インフレとの闘いが激化する中で、中国は同国にもビル・グロス 氏がいてくれたらと思い始めている。

中国は近く、日本を抜いて世界第二の経済大国に浮上する見込み だが、規模が大きく発達した債券市場がないことが大きな弱みになる だろう。当局が与信を引き締めようとするとき、そこには政策を実体 経済へと伝えるための投資家とディーラーという要のインフラ(社会 資本)がない。

そこで、米パシフィック・インベストメント・マネジメント(P IMCO)で世界最大の投資信託を運用するグロス氏(やそのクロー ン)の出番となる。中央銀行が金利を上げても、高度に発達した流通 市場がないことが、その効果を殺いでしまう。中国人民銀行(中銀) はあれども、金融環境に影響を与えてくれる「人民」がいないという 格好だ。

「乗数効果」

バーナンキ米連邦準備制度理事会(FRB)議長がワシントンで 金利を動かしても、ニューヨークとロンドン、東京の債券ディーラー が流通市場でそれに沿って行動してくれるのでなければ、ほとんど意 味がない。これこそが金融政策を強力にする「乗数効果」というもの だ。中国にはこれがない。

確かに、中国も進歩はしている。政府は2008年4月に、期間3- 5年の社債を企業が発行できるようにした。これにより、銀行融資に 過度に依存することがなくなり、金融システムへのリスクが軽減され た。

英スタンダードチャータード銀行の張淑嫻氏(香港在勤)らスト ラテジストはこれを、「画期的な一歩」と評価。社債の発行高は以来、 着実に増えている。

政府はまた、イールドカーブ(利回り曲線)を創り出すため、時 には資金需要がなくても証券を発行するなど市場を支えている。今年 の発行高は9兆元(約120兆円)と、昨年の4兆9000億元から増える 見込みだ。

国際化

入札の手続きも国際標準に沿っている。さらに、人民銀は1月6 日に外国金融機関の中国国内市場での起債を認める方針を再確認する とともに本土企業による香港市場での人民元建て債発行を奨励した。

中国の資本市場の国際化は先月、さらに大きく前進した。当局が 株価指数先物と信用取引、空売りを承認したのだ。良い動きはたくさ んある。

しかし、人民銀は流通市場の底の浅さという足かせから逃れられ ない。危機に見舞われた時には、より流動性の高い市場が衝撃を吸収 するクッションとして必須になるだろう。中国の先行きについて投資 家にヒントを与えるためにも流通市場は必要だ。

キーボードをたたくだけで巨額の資金が世界を駆け巡る今の時代 に、きちんと機能する債券市場の重要性はかつてないほど高い。影響 力のある、世界的に名前を知られた一握りの債券投資家、政策につい て政府に警告できるような投資家の一団がいることも同様に重要だ。 彼らは債券の一斉売りや市場についての発言によって、警告を発して くれる。

情報

例えば、市場参加者たちが中国の景気刺激の取り組みが積極的過 ぎインフレが迫っていると考えれば、債券売りで利回りを押し上げる だろう。デフレに陥っていると考えれば、債券を買うだろう。どちら のケースでも、市場金利は政府当局者と投資家に極めて重要な情報を 与えてくれる。

残念ながら、中国の金融システムは今のところ、資金を経済の中 のある部分から別の部分へ動かすという機能が中心で、リスクに値段 を付ける、つまりリスクの度合いを評価するところまでは進んでいな いと、エマージング・アルファ・アセット・マネジメントのディレク ター、マーシャル・メイズ氏(香港在勤)は指摘する。

インドネシアやフィリピンなら、それでもいいかもしれない。し かし中国ほどに重要性を増した経済がそれでは困る。債券市場に関し てわれわれはもはや、「開発途上」のステータスを理由に中国を見逃 すことはできない。

ホットマネー

2010年の財務力は、2兆4000億ドルの外貨準備を持っているこ とがすべてではない。人民元建てでの借り入れができること、そして 外国企業に人民元建ての起債を許すことが財務力の源だ。これができ て初めて、中国は人民元の管理を廃し、ドルに代わる準備通貨とする 挑戦を始めることができる。

人民元の切り上げは、債券市場の役割を高める中で中国が直面す る圧力を軽減してくれるかもしれない。インフレを抑制するばかりで なく、市場での熱狂的な投機に水を差すことができる。

通貨切り上げへの期待はホットマネー(投機的な短期資金)の流 入加速という形で顕在化し、マネーサプライを混乱させている。中国 が人民元を切り上げ、同時に当分の間は次はないということを明確な 言葉で市場に伝えれば、この流れを変えることができる。

中国は景気を減速させ資産バブルをしぼませるために、多面的な 取り組みが必要だ。信用創造を減らす行政命令だけでは、長期的には 不十分だ。グロス氏によく似た有力プレーヤーたちを中核とした活気 あふれる債券市場を育てることこそが重要だ。 (ウィリアム・ペセッ ク)

(ウィリアム・ペセック氏は、ブルームバーグ・ニュースのコラム ニストです。このコラムの内容は同氏自身の見解です)

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