【コラム】ガイトナーさん、北京に引っ越してはいかが-W・ペセック

ガイトナー米財務長官と中国の 謝旭人財政相。あなたが後釜に座るとしたら、どちらを望みますか? 最近シンガポールやシドニー、東京の投資家、エコノミスト、学者 らにこんな質問をしてみた。

ほぼ異口同音に返ってきたのは、現時点で米財務長官になるの は中国財政相よりもずっと楽しくないという答えだった。なぜなら、 中国ではパチンと指を鳴らせば物事を成し遂げられるからだ。

ガイトナー長官は反抗的な議会と不安に満ちた有権者をかわし ながら景気対策のかじ取りをしなければならない。一方、中国の謝 財政相は経済運営で指令を出すだけでいい。追加景気対策が必要に なれば、実行するのみだ。株式相場がバブルの様相を呈すれば、ね じを締めればいい。建設会社が銀行融資を求めれば、はいどうぞ、 といった具合だ。人権擁護活動家は賛成しないだろうが、経済的観 点からは今の世界では中国にいる方が良さそうだ。

腐敗と言う別の問題も検討してみたい。中国の腐敗はつとに有 名で厄介なものだ。

サブプライム(信用力の低い個人向け)住宅ローン市場の崩壊 の責任が誰にあるのかをめぐって米国民の議論は尽きないようだが、 実のところ、大金持ちのバンカーと前米連邦準備制度理事会(FR B)議長のアラン・グリーンスパン氏、さらに同氏の規制軽視、ロ ーン申請でうそをついた借り手のすべてに責任がある。もっと重要 なのは、この集団的な無謀な融資の陰に隠れたテーマだ。

捨て去られた規範

要は、捨て去られた金融システムの規範の問題だ。われわれは もはや金融システムをコントロールできていない。動物が動物園を 管理するようなもので、米国が信用危機に対して、症状だけでなく 原因にも取り組まなければ、ひどい結果になりかねない。

腐敗は2010年の市場の位置付けやガイトナー長官の任務が非 常に困難である理由を見極める上で、実に適切なプリズムだ。

「The Corruption of Capitalism (仮訳:資本主義の腐敗)」 の著者でブラックホース・アセット・マネジメントのパートナーで あるリチャード・ダンカン氏は最近シンガポールで、「米経済はもは や全く機能していない」と述べ、2、3年前までは米国のモデルと 「ワシントンのコンセンサス」が世界市場の基準を形成してきただ けにこうした状況は問題だと語った。

同氏は「金融業界は社会の脅威になった」と指摘し、「その信用 創造能力が過度の政治的影響力をもたらし、業界自身による規制の 解除と行き過ぎた行為への関与を可能にした。絶滅にひんしたこの 業界を救うには巨額の公的資金注入しかなかった。業界を細分化し、 極めて厳しい規制を導入すべきだ。信用創造はあまりに危険であり、 バンカーの裁量に任せることはできない」と強調した。

ローマ帝国没落

米国の未来を「ローマ帝国没落」になぞらえたシナリオを描く ダンカン氏の前では、「悲観論の帝王」と呼ばれるニューヨーク大学 のヌリエル・ルービニ教授でさえも楽観主義者に見えてしまう。

こんな極度の悲観論は別にしても、米国が「ゆでガエル症候群」 にかかっていると論じることはできるだろう。これは、ゆっくりと 水温を上げるとカエルはゆでられていることに気づかず、沸騰する ころには飛び出すこともできずに手遅れという状況を指す。

政府は歳出能力に限界を感じなくなり、国際貿易はもはや均衡 が必要とされなくなった。規制は過去のもので経済成長の時代遅れ の妨げとされた。こうしたなか、政策当局者やエコノミストは、資 本主義がいかに腐敗し、アダム・スミスやジョン・メイナード・ケ インズ、フリードリヒ・フォン・ハイエクといった著名学者も認識 できないほど経済のダイナミクスが大きく変化したことに気付かな いままだ。

腐敗の認識

中国の汚職問題を鼻であしらっているのではない。世界各国の 汚職度を調査している非政府組織トランスペアレンシー・インター ナショナルがまとめた最新の腐敗認識指数で、中国は西アフリカの ブルキナファソと南米のコロンビアの下にある。中国の4兆元(約 53兆円)の景気刺激策がどれだけ不正業者の手に渡ったかは知る由 もないが、一党支配体制は説明責任能力を鈍らせる。

ただ、米国の2大政党政治も最近は完全とは言えないようだ。 これは、トランスペアレンシー・インターナショナルのリストで米 国が19位だったこと以上の驚きかもしれない。その理由はトヨタ自 動車の米国での問題で説明できる。ブルームバーグ・ニュースの2 月12日の報道によると、トヨタが採用した元米政府当局者が過去 10年に起きた少なくとも4件の急加速をめぐる米政府調査を終了 させるよう働き掛けたという。企業としては、トヨタの今回の危機 対応はあきれるものだが、この米政府の行為は腐敗とは言えないだ ろうか?

ウォール街の行き過ぎ

同様に気掛かりな報道がある。米紙ニューヨーク・タイムズが 今月13日に報じたゴールドマン・サックス・グループが絡んだ話だ。 サブプライム問題と大差のないウォール街の詐欺まがいの行為が欧 州の政府債務の実態隠しに一役買い、ギリシャやユーロを打ちのめ した危機を深刻化させたことが判明した。ウォール街の行き過ぎた 行為の最悪の部分が既に暴かれつつある。

オバマ政権は米国に必要なのは追加刺激策だけだと考えている ようだが、米金融システムの大胆な再構築も必要だ。ポール・ボル カー元FRB議長が打ち出した銀行の規模とリスクテークを制限す るという控えめな提案でさえ強力な反発を受けており、改革はまだ 始まっていない。

ガイトナー長官にはこうした問題の解決に頑張ってもらいたい が、もっと簡単な仕事がお望みなら、北京に引っ越してみてはいか がだろうか。(ウィリアム・ペセック)

(ウィリアム・ペセック氏は、ブルームバーグ・ニュースのコラ ムニストです。このコラムの内容は同氏自身の見解です)

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