【コラム】「PIGS」救済の口紅はデフォルトより醜い-ギルバート

「ギリシャが外部支援を要請すれ ばそれは最悪のシグナルを送ることになるだろう」。ギリシャのパパ コンスタンティヌ財務相は今週、ブルームバーグテレビジョンとのイ ンタビューでこう語っていた。ギリシャの救済がどれほどの害悪をも たらすかを理解しているのは、欧州連合(EU)当局者の中で同相1 人のようだ。

救済は世界に向かって、ギリシャの財政赤字が自力で抜け出せな いほど大きいと大声で宣言することになる。米連邦準備制度理事会 (FRB)が290億ドル(約2兆6000億円)を出してJPモルガ ン・チェースにベアー・スターンズを買収させたのが信用危機下の銀 行業界の弱肉強食時代到来を宣言したのと同じだ。

ギリシャが自力で債務を返済できないなら、デフォルト(債務不 履行)させればいい。大混乱になり、空恐ろしいことになろう。多数 の銀行が、取引先の信用力の査定がいまだに十分でないことに気付く だろうし、ユーロは信頼の危機に見舞われるだろう。

しかし、先の金融危機の教訓は、自ら招いた苦境からギリシャを 救済する選択のほうが、はるかに害が大きいことを示している。

ポルトガル、アイルランド、ギリシャ、スペイン(そして恐らく イタリアも)のいわゆる「PIGS」諸国すべては、信用ブーム中の 投資銀行と同じように、分不相応な生き方をしてきたのだ。

その1国を救済すれば、ベアー・スターンズ救済と同じ結果をも たらすだろう。つまりモラルハザード(倫理の欠如)が生じ、ダーウ ィンの法則に沿った経済の自然淘汰(とうた)が進まなくなる。財政 状況が悪化している国は、歳出削減と赤字削減への動機付けを失う。

信用危機第二弾

「信用危機第二弾」の始まりだ。銀行業界のバランスシートに空 いた穴を埋めるために巨額の税金を投入することにより、各国政府は 民間部門のリスクを公的債務に変身させてしまった。「大き過ぎてつ ぶせない」のレッテルは、金融機関から政府へと張り替えられた。

もし、欧州連合(EU)あるいはその加盟国がギリシャ国債の購 入や保証、あるいは返済肩代わりまでする何らかの救済パッケージが まとまれば、ギリシャがベアー・スターンズとなり、ポルトガルがリ ーマン・ブラザーズ、スペインがアメリカン・インターナショナル・ グループ(AIG)の役を振られることになるだろう。米ニュースレ ター「ガートマン・レター」のエディターとして知られるエコノミス ト、デニス・ガートマン氏が近年繰り返し指摘しているように、ゴキ ブリが1匹見つかればそれだけということは決してない。

ジェットコースター

欧州の債券市場はギリシャがEU加盟国から金融支援を得るのか、 口先だけの約束なのかをEUの文言から推測しようとして、ジェット コースター状態に陥った。今月に入ってこれまでもギリシャ10年国 債の利回りは、救済期待が高まったり、逆にしぼんだりしたことに連 動し6.05%と6.8%の間で変動してきた。しかし、ユーロ相場はギリ シャ救済期待に舞い上がらなかった。つまり、ギリシャ救済はユーロ 圏経済にとっての万能薬ではないということだ。

ユーロの基本概念の話が出るたびに、欧州中央銀行(ECB)の トリシェ総裁は最大の成果の1つが欧州債の利回り収束であると誇る のが常だ。つまり参加国における借り入れコストが、どちらかと言え ば底辺に収束したということだ。

しかし実は、ユーロ圏全域に適用される財政政策が歳出と歳入の 決定を規定しないとしたら、ドイツと、例えばポルトガルのように経 済状況が大きく異なる国について投資家が同じ投資リターンを受け入 れる理由はない。ポルトガルは債務返済のために独自に紙幣を印刷す ることもできず、経済的繁栄に向けて自国通貨を切り下げることもで きないのだ。

機能不全の自律的規制

これらすべてについて、約10年前のユーロ導入時に認識され議 論が尽くされた。利回りの収束はユーロ参加国に対して経済的な規律 が適用されるという期待に基づいたものだ。今回の危機の結果として 考えられるのは、ユーロ参加国が財政の独立性を一段と放棄すること だ。自律的な規制は、投資銀行と同じようにユーロ圏でも機能しなか った。

一部には、欧州の当局者が単純な2つの選択肢に直面していると いう考えがある。選択肢の1つを選んでギリシャを見捨てれば、財政 難に見舞われている他のユーロ参加国の信用力がともに地に落ちるこ とになるという議論だ。ギリシャを救済するというもう一方の道を選 べば、問題の波及という脅威を排除できる。

2つの波及

しかし現実には、ギリシャが自力で問題を解決できないなら、2 種類の問題波及の間で選択を迫られることになる。もし、ギリシャの 公務員がEUからの支援によって苦難を回避できるなら、なぜアイル ランドの警察官が減俸を受け入れなければならないのか。

経済的な失策が罰せられずに終われば、行動は改まらない。信用 危機から金融界が学ぶべきだったはずのもう1つの教訓だ。口紅を付 けてお化粧させても、「PIGS」が美しくなるわけではない。(マー ク・ギルバート)

(マーク・ギルバート氏は、ブルームバーグ・ニュースのロンド ン支局長でコラムニストです。このコラムの内容は同氏自身の見解で す)

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