【コラム】がんばれユーロ、「PIGS危機」を無駄にするな-Mリン

オバマ米大統領の首席補佐官、ラー ム・エマニュエル氏は2008年の信用危機のさなかに、「深刻な危機が 無駄になることを誰も望まない」として、危機は「それまでできなか ったことをする機会だ」と語っていた。

誰かホワイトハウスに電話をかけて、エマニュエル氏に2、3週 間フランクフルトに出張するよう頼んでもらえないだろうか。

ユーロ圏と欧州中央銀行(ECB)は今、市場が「PIGS危機」 と呼ぶものに直面している。PIGSはポルトガル、アイルランド、 ギリシャ、スペインの略だ。イタリアをこれに加える向きもあるが、 同国の財政状態は若干ましのようだ。

債券市場はギリシャに照準を合わせ、対国内総生産(GDP)比

12.7%に上る財政赤字を責め立ててきた。標的は今、ユーロ圏の他の 重債務国へと広がった。中銀当局者らが恒久的な解決を模索する間、 株式市場と外為市場は神経質な状態が続いている。

もちろん危機だが、ECBはこれを好機ととらえるべきだろう。

10年前の統一通貨ユーロの誕生以来、財政に関する責任の所在に ついて混乱があった。混乱を正し、明確化する良い機会だ。この危機 をうまく乗り切れば、ユーロは有力な世界通貨になれるかもしれない。 逆に、対応を誤れば2030年にはユーロ紙幣が手に入るのはeベイの競 売サイトだけということにもなりかねない。

選択肢

PIGS危機の核心はいたって単純だ。各国は何年にもわたり、 かつての自国通貨よりもはるかに強い通貨建てで、従って低コストで 資金を借り入れることができた。現在はそのツケが回り、自らに厳し い財政規律を課して経済をひどいリセッション(景気後退)に陥れる か、ユーロから離脱して新たな通貨を導入するかの選択を迫られてい る。どちらにしても将来は厳しい。

しかしながら、危機にうまく対応し長期的にユーロを強くする3 段階の手順がある。ECBはユーロ圏各国政府の協力の下で、これら のステップを実行すべきだ。

ステップ1:断固として救済を拒否する。

債券市場はPIGS向け貸し出しを米国か日本への貸し出しと同 じだと考えていた。最終的には中銀が紙幣を印刷し、返済を助ける。 しかしこれは大きな間違いだ。ユーロ圏がそのような仕組みになって いるとは誰も言っていない。

社債に近い

ギリシャやポルトガルに金を貸すときは、これらの経済をじっく りと研究し、貸した金が返済されるかどうかを判断しなければならな い。ドイツの自動車メーカー、フォルクスワーゲンや英石油会社のB Pに貸すときと同じだ。企業が中銀に救済されることはあまりない。 勝手に通貨を切り下げることもできない。ユーロ圏の国債は社債に近 いと考え、それぞれの借り手の財務力を査定する必要がある。

ステップ2:秩序あるデフォルト(債務不履行)を準備する。

PIGS諸国が約束通りに債務を返済することは不可能だろう。 とにかく債務負担が大き過ぎる。欧州連合(EU)の上限の3%をは るかに超え、ポルトガルの2009年財政赤字はGDPの9.3%、アイル ランドは11.7%、 スペインは11.4%だ。

政府が歳出を抑え過ぎれば、景気はあまりにも深く、あまりにも 急激に落ち込むだろう。税収が急減し、債務返済はさらに難しくなる。 悪循環に取り込まれることだろう。

痛みは大きい。債券保有者がその痛みの一部を負担しなくてよい という理由はない。企業はしょっちゅう、デフォルトする。国も同じ だ。PIGS諸国はECBの指導の下で、債務再編を宣言すればいい。 利払いの一時停止を宣言し額面の50%での償還を債券保有者に提案す る。企業が債務返済に行き詰まったときはこの通りに行動するだろう。 ユーロ参加国の政府が同じことをして悪いということはない。コント ロールしながら行えば、手に負えない事態にはならないはずだ。

ミニIMF

ステップ3:ミニIMFを設立する。

世界の大半の地域では、国家が財政危機に陥れば国際通貨基金(I MF)に声が掛かる。IMFは救済策を取りまとめ、救済計画が実行 される間、対象国の経済政策を事実上運営する。同様の役割をECB が果たす必要がある。ギリシャやポルトガルはデフォルトすれば借り 入れは難しくなる。

そうした状況ではECBが、各国が危機を乗り切る間のつなぎ融 資を提供しなければならない。その代わり緊急の経済改革を迫る。歳 出削減と減税、規制緩和など成長を回復させる政策が必要だ。IMF が示してきたように、厳しい改革は選挙で選ばれた政治家よりも外部 の組織が強制した方が容易な場合が多い。

各国は財政破たんからゆっくりと回復することができる。アイル ランドは公的部門の支出を劇的に減らす一方で法人税は低く維持し、 良いスタートを切った。長期的な利益のために短期の痛みを選んだ。 これは常に、その逆よりも正しい選択だ。

苦い良薬

1999年のユーロ導入時、参加国が相互を救済するかどうか、中央 組織が経済政策を強制するかどうかは明確にされなかった。これらの 問いに今、はっきりと答えなければならない。

ある国が巨額負債を積み上げた揚げ句、他国がこれを救済するこ とになれば、ユーロは崩壊する。そして、必要なときには経済の苦い 良薬をECBが各国に飲ませることもしなければならない。PIGS 危機はこの2点を明確にするチャンスなのだ。そうすれば、危機をく ぐり抜けたユーロは、より強い統一通貨になっているだろう。 (マシュー・リン)

(リン氏は、ブルームバーグ・ニュースのコラムニストです。こ のコラムの内容は同氏自身の見解です)

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