蘇る200年前の香り、米国建国の父ワシントンの「ライウイスキー」

米初代大統領ジョージ・ワシント ンが保有していたウイスキーの蒸留所。私は復元されたその蒸留所 で、樽いっぱいのお湯と麦を重い木杓子でかき混ぜている。樽の中 は濃いスープのようだ。ここの責任者であるスティーブ・バショア 氏によれば、これは18世紀に普及したウイスキー製法の最初の段階 だという。

今から210年をさかのぼる1799年、ポトマック川を見渡すワシ ントンのマウントバーノンの邸宅から約5キロのここで、米初代大 統領の蒸留所は1万500ガロン(4万リットル)のウイスキーを作 り出した。当時の価格で7600ドルを超える。米国で最大級のウイス キー製造所だった。

そして現在、私は凍りつくような寒さの中、石と木でできた元 蒸留所の跡を見学した。1814年に焼失したこの蒸留所は2007年に再 建され、近隣の製粉所とともに現在稼働している。この蒸留所で、 昔ながらの製法で作られたわずかばかりのウイスキーが、4月1日 にマウントバーノンのみやげ物店で売り出される。

ワシントン大統領のウイスキーはライ麦を原料とする。米建国 当時を呼び起こすライウイスキーは最近、カクテルの世界でブーム になっている。18世紀当時のライウイスキーは色のない若い酒だっ たが、今日のライウイスキーは焦がした樽で寝かし、琥珀(こはく) やマホガニーのような色に円熟させ、複雑な味と香り、滑らかさを 持たせる。

私は銅製の蒸留器にかけられた焚火で暖をとりながら、マウン トバーノン文化財保存協会の副ディレクター、デニス・ポーグ氏か ら歴史の講義を受けた。初代大統領は私が学校で教えられたよりも ずっと興味深い人物だったようだ。スイートリップス(甘い唇)と いう名前の犬を飼い、ダンスが上手で、抜け目のない事業家でもあ った。

1797年の大統領退任の直前、農園管理人として新しく雇われた スコットランド人のジェームズ・アンダーソンは、農園でできたラ イ麦ととうもろこしからウイスキーを作ればもうかると、懐疑的な ワシントンを説得した。3200ヘクタールの農園の大半は今では、バ ージニア州の町の郊外になっている。

アンダーソンは大麦を使ったシングルモルトの蒸留に慣れてい たが、アイルランドやスコットランドからの移民らは新世界ではラ イ麦の方が育てやすいと考えた。ポーグ氏によれば、当時は小規模 な蒸留所が何千とあった。「ここは酒好きの国だ」と同氏は語った。

同氏は私に、ワシントンが細かい筆跡で小まめに付けた帳簿を 見せてくれた。ウイスキーは樽単位で近隣住民や業者に売られ、価 格は2回蒸留したものがガロン当たり60セント、4回の蒸留でより 滑らかな口当たりになったウイスキーはガロン当たり1ドルだった。 ただ、多くの顧客は現金ではなくアヒルやニワトリ、場合によって は樽一杯の牡蠣で払ったという。

1799年末にワシントンが死んだ後は、孫娘が蒸留所を引き継ぎ、 数年間製造を続けていた。

復活した製法はライ麦60%、とうもろこし35%、大麦麦芽(モ ルト)5%で、当時のまま。厚手のセーターを着て指先のない手袋 をはめたバショア氏によれば、酵母を加えた後は3-5日間発酵さ せ、蒸留器に入れる。アルコールの沸点は水より低いため、回りに 冷水を張った銅管を通した後、別の樽で蒸発・凝縮させる。

2009年2月に、醸造の名手として知られるデービッド・ピッカ レル氏が率いるチームがこの製法で100ガロンのライウイスキーを 蒸留した。その半分は375ミリリットル入りハーフボトルで1本に つき80ドルで販売される。

ポーグ氏に味見をさせてもらった。ライらしくドライで複雑、 スパイシーな味わいだが、私が考えていたよりも滑らかだ。残りの 50ガロンは樽で寝かされている。来年に瓶に詰められ販売される予 定だ。値段は決まっていない。

ライウイスキーの需要は禁酒法時代に落ち込んだ後、回復せず、 甘口で舌触りが良いとうもろこしベースのバーボンが主流になった。 すっきりしたライの味を守っている蒸留所は、最近までごくわずか だった。

しかし、この10年のカクテル革命で、バーテンたちはマンハッ タンやサゼラックという古典的カクテルに欠かせないベースとして、 ライを再発見した。ニューヨークのバー、「デス&カンパニー」の 「ラ・ドルチェ・ヴィータ」など新しいライベースのカクテルも生 まれている。

年季の入ったライはそのままでいける。最近では小規模な蒸留 所から十数種の新ラベルが発売された。米国建国の父の舌に適うに ちがいない。(エリン・マッコイ)

(エリン・マッコイ氏はブルームバーグ・ニュースのコラムニス トです。このコラムの内容は同氏自身の見解です)

原題:Washington’s Whiskey Rye, the spirit of early America, is making a comeback--and so is the distillery near historic Mount Vernon (抜粋)

(原文は「ブルームバーグ・マーケッツ」誌2010年3月号に掲載)

--* 参考画面: 翻訳記事に関する翻訳者への問い合わせ先: アムステルダム 木下 晶代 Akiyo Kinoshita

+31-20-589-8544 akinoshita2@bloomberg.net Editor:Akiko Nishimae 記事に関するコラムニストへの問い合わせ先: Elin McCoy at elinmccoy@gmail.com.

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