【経済コラム】日本よ、残念がっている場合ではない-W・ペセック

「残念な気持ち」を抱いているのは 菅直人副総理兼財務相だけでない。1億2600万人の日本国民全員が 同じ気持ちなのだ。

菅氏の浮かない気持ちは、アジア最大の経済大国である日本に中 国が急速に追いついてきたためだ。2年前に中国の国内総生産(GD P)が2010年中に日本を抜くと予言したら、冗談だと一笑に付され たことだろう。だが、それは現実となりつつある。

菅氏は先月の記者会見で、「一般論的にいえば、中国やアジアが成 長していくことは喜ばしい。そういうアジアの成長を日本も連動する 形でいい影響を受けるような努力が必要だ」と述べる一方、「日本が世 界第2位の経済大国の座を中国に明け渡すのは私の世代、高度成長の 中で育って今日まで来た世代にとっては何か残念な気持ちが本音」と 語った。

残念がっている場合ではない。今こそ菅氏は日本を20年間の眠 りから揺さぶり起こす現実を直視すべきだ。

2020年に中国が米国を追い抜いて世界最大の経済大国になると の米コンサルティング会社プライスウォーターハウスクーパース(P wC)の最近の予測は東京で話題となった。日本にとってアジアで中 国の後塵を拝するのはショックだろうが、中国経済が10年後に世界 最大になることを気に掛けても仕方がない。

日本の希望の光

日本にとってさらに悪いことには、世界最大の自動車メーカー、 トヨタ自動車が中国などでリコール(無料の回収・修理)の実施を発 表したほか、日本航空は会社更生法の適用を申請した。デフレや格付 け会社スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)の格下げ懸念も考 慮すれば、今年はひどいスタートを切ったと言えるようだ。

そんな日本の希望の光は中国効果だ。中国の人口は日本の約11 倍であり、経済の規模は日本を上回って当然だ。人民元が約40%過小 評価されているとしたら、既に日本を抜いていることになる。しかし 日本人の多くが指摘するように、1人当たりの国民所得で中国が日本 に匹敵するようになった時に、規模がより大きな意味を持つだろう。 現在、1人当たりの国民所得では日本は中国の13倍だ。

もちろん所得水準で中国が日本に追いつくのはかなり先になるだ ろう。その過程でも、日本は恩恵を受けるのに好都合な立場にあるよ うだ。隣国が10%成長を続ける大国であることは日本にとってマイナ スにはなり得ない。米国の消費需要が低迷する中、日本は輸出先を可 能な限り確保する必要がある。

日本の政策当局者が、必要な抜本的改革を先延ばしにしているこ とは明らかに道理に合わない。日本はこれまで、1980年代のバブル 崩壊、「失われた10年」と呼ばれた90年代の景気低迷、97年のアジ ア危機、米信用危機など、多過ぎるほどの警告を受けてきた。しかし 当局者は国債と紙幣増発に頼り、必要な改革を先送りしてきた。

先延ばしはできない

ところが、中国は日本が先延ばしできない問題だ。製造業と輸出 で中国の猛追を受けている時にごまかしは通用しない。中国はまた、 最大の米国債保有国でもあり、日本の米国への影響力は後退している。

華々しい中国とは対照的に、日本は相変わらず、国際的な競争力 を失った労働コストや、急速な高齢化、財政上の選択肢減少といった 問題に取り組んでいる。日本の当局者がもう数年間、居眠りを決め込 めばS&Pの格下げが現実となるだろう。

S&Pは先週、日本の公的債務に対応する柔軟性が減少したとし て日本の外貨建て・自国通貨建て長期ソブリン格付けの見通しを「安 定的」から「ネガティブ」に引き下げた。

ただ、中国の安定性は既定の事実ではない。景気過熱という差し 迫ったリスクがある。ヘッジファンドのマネジャーらが注目する長期 的な問題は、融資が急に焦げ付く恐れがあることだ。中国は資産バブ ルと貧富の格差縮小の問題により真剣に取り組む必要がある。

サービス業への触媒

中国がほどほどの成長にとどまったとしても、米消費者需要の後 退を穴埋めできる見込みはある。鳩山由紀夫首相は、米国に代わって 世界での影響力を拡大させている中国との関係修復に努めている。日 本は安全保障の面で依然として米国を必要としているが、経済面では アジア志向を強めている。

中国が日本に対して触媒の働きをし得る分野はサービスだ。日本 は製造業を重視するあまり、経済でより大きな割合を占めるサービス 業を軽視してきた。中国の脅威により、サービス業の規制緩和や生産 性向上などに注目が集まるだろう。

トヨタと日航は、長期的には立ち直るだろう。トヨタは、リコー ルを実施することで評判を回復した米日用品・薬品大手ジョンソン・ エンド・ジョンソン(J&J)をお手本にしたようだ。日航の運命は 稲盛和夫会長の手腕に託されたが、同氏の政界への強い影響力や型破 りなやり方が、かつてない大改革の断行を可能にするかもしれない。

中国の高成長は多くの点で日本株式会社にとって好材料だ。菅氏 をはじめ日本の当局者は警告音を耳にしたのだから、行動する必要が ある。中国が台頭するなかでの居眠りは許されない。 (ウィリアム・ペセック)

(ウィリアム・ペセック氏は、ブルームバーグ・ニュースのコラ ムニストです。このコラムの内容は同氏自身の見解です)

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