【経済コラム】ゴールドマンへの怒りはこうして鎮めよ-M・ルイス

あて先:ロイド・ブランクフェイ ン最高経営責任者(CEO)殿。用件:PR戦争を勝ち抜く方法につ いて。

6カ月前、私は貴殿から暗黙の了解を得たとの誤解に基づき普通 の米国人に向かってほぼ対等の相手として話をしようとしました。

彼らは当社をねたみ恨んでいました。私はただ、ゴールドマン・ サックスについての彼らの誤解を正して、立ち去ってもらおうと考え ただけです。そうすれば彼らも、金になる職を探すという作業をさっ さと続けることができると思ったのです。

今考えると、私は彼らが自分たち、そして当社の現実を見極める 能力を見誤っておりました。当時私は貴殿の強い忠告を受け入れ、貴 殿が「普通人」と呼ぶ平凡な人間たちとは二度と直接話をしないこと を決めました。

しかし今、私たちの苦境は突然、より深刻なものとなりました。 普通の米国人たちは、私どもの報酬ばかりか、価値観の核にまで口を 出したがっています。私どもゴールドマンはかねてから、個々の自己 勘定グループが会社の顧客と対抗して取引する権利を信奉してまいり ました。この権利を手放すとしたら、私どもは根底で、何者になって しまうのでしょうか。

ここ数日、ゴールドマンのトレーディングフロアに立つ私どもの 多くは、この問いと向き合ってきました。私どもは、価値観の核を見 直すくらいなら、一般の米国人との関係を見直した方がよいと考えま す。

貴重な意見

このメモを用意したのはそのためです。エレベーターに乗るとき に私のトレーディングデスクの後ろを通ったり、トイレで隣に立った りという貴殿の最近の行動が、言葉には出さずとも貴殿が引き続き私 の意見を貴重なものとお考えくださっていることを、私に確信させま した。

実を申しますと、私は最近、普通の米国人の文化について徹底的 に研究致しました。以下に申し上げます私のアイデアを、私が差し出 すのと同じチームスピリットを持って受け取っていただければと存じ ます。ゴールドマン・サックスに「私」はありません。「われわれ」が あるのみです。今までも、そしてこれからも。

バフェット氏

アイデア1:普通人にわずかばかり、場合によっては見せかけだ けのゴールドマン持ち分を与える。

私たちは皆、政府当局者や企業トップが、ゴールドマンの繁栄を いつの日か自分たちも謳歌(おうか)できるかもしれないと感じ取っ たときの心と頭の働きを見てきました。過去1年の間に、かのウォー レン・バフェット氏もウォール街の批判者からウォール街救済の偉大 な擁護者に変身しました。バフェット氏にはしっかりした現ナマを支 払う必要がありましたが、たいていの人間はもっと少ないもので満足 するものです。

この点が恐らく、この普通の米国人という連中の最も興味深いと ころと言えるでしょう。彼らには金を渡さなくても、金がもらえるか もしれないと思わせることが可能です。例えば米国家経済会議(NE C)委員長のラリー・サマーズ氏です。私も貴殿も、ゴールドマンが 仮にこの驚くべき優れた頭脳を持つ普通人を採用するとしても、それ は屈辱的なほど、お飾り的な役割でしかあり得ないことを承知してい ます。しかし、彼はそれを知りません。だからこそ、当社のためにた いへんよく働いてくれました。

アメリカン・アイドル

当社が普通の米国人をそう大勢雇用できないことは明らかです。 しかし、ちょっと立ち止まって普通の米国人の気持ちになって考えて みますと、大勢を雇う必要はないのです。たとえば、ゴールドマン・ サックスが毎年、アメリカン・アイドル(米国の人気オーディション 番組)のような全米規模のコンテストを行えばどうでしょう。最終選 考に残った人々は全米で放映される番組の中で、普通の人のように見 えるゴールドマンの幹部3人の審査を受けます。舞台の上で応募者た ちはさまざまなウォール街の芸を披露します。前のニューヨーク連銀 総裁で今の財務長官のティム・ガイトナー氏と交渉する、上院銀行委 員会に陳情する、後で大暴落するような証券類を設計する、ドイツ人 に債券を売りつける等々。

そして優勝者はゴールドマンに就職できます。そこからアイデア 2が生まれます。

コメディー

ビッグアイデア2:普通人に、彼らがわれわれの領域に受け入れ られ、今やわれわれが何者なのか、何をしているのかが本当に分かっ た、という幻想を与えるのです。

たとえば、全米コンテストの優勝者に、ウェブに映像を送れる撮 影装置を頭に装着させます。そうすれば、この人間は全米の普通人の 目と耳になります。こういう装置を付けてこの人間がゴールドマンの オフィスの中を歩き回り、自分の理解力を超えたものを理解しようと している姿は、普通の米国人が「コメディー」と呼ぶものになります。 普通人は笑うのが大好きです。われわれのいたって率直な発言を、ユ ーモアと解釈するほどです。

ここで一言、言わせてください。私を含めゴールドマンのトレー ダーは全員、社会を脅かさない普通の米国人のように自らを見せるた めの貴殿の涙ぐましい努力を称賛してまいりました。貴殿が自ら意図 して見せている外見や髪の少なさも皆、極めて巧みな広報活動にほか なりません。

サブリミナル

しかしながら、1人の人間にできることには限りがあります。例 えその人間が神の仕事をする存在だったとしても。ゴールドマンの従 業員たちが普通人文化と新たな接点を得れば、貴殿が送るサブリミナ ル(潜在意識)メッセージを補強できるはずです。従業員には普通に 見えるようにさせ、外界からの刺激に対する普通人のあの奇妙な感情 的対応をまねるよう訓練しておかなければなりません。

しかしながら、普通人との新たな個人的接触の主たる目的は、恐 らくはわれわれにとって最大の難題である問題に対処することです。 それは、普通の米国人が、われわれのやっていることをやっと理解で きるようになったと思い込んでいることです。つまり、われわれの仕 事が、「生産的な企業活動を容易にし、資金を配分する」などという単 純なものだという思い込みです。普通人はかつての畏怖(いふ)を忘 れました。これを取り戻さなければなりません。

異種

普通人はプロのバスケットボール選手が巨額報酬をもらったから といって文句を言いません。プロの選手が自分たちとは違い過ぎて、 異なる種の生き物と言えるほどだということが、目に見えて分かるか らです。しかしわれわれの普通人との違いは表面ではないところにあ り、簡単には普通人の目に見えません。普通人をわれわれのそばに置 いてわれわれの仕事の複雑さを見せれば、この問題が解決できます。 彼らはすぐに、われわれのしていることを理解しようとすることに疲 れ、フラストレーションをぶつける他の対象を探しに行くことでしょ う。そこでアイデア3です。

ビッグビッグアイデア3:普通人に生来の憤まんを思い出させて やるのです。

今のところ、彼らはわれわれを信用していません。嫌悪すらして いるでしょう。しかし、彼らのわれわれへの怒りはまだ生まれてから 日が浅く、根が深くありません。これに対し、普通人は自分たちの政 府を嫌うことにかけては30年の訓練を受けています。われわれと彼 らの敵は1つだ、それは政府だと、普通人に思い出させてやればよい のです。 (マイケル・ルイス)

(マイケル・ルイス氏はブルームバーグ・ニュースのコラムニス トで、「ライアーズ・ポーカー」などの著者です。新作の「The BigShort」 は3月に刊行されます。このコラムの内容は同氏自身の見解です)

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