【経済コラム】あの人の新たな異名は「ベイジン・ベン」-Wペセック

「ヘリコプター・ベン」と いう異名は耳にしたことがあるだろう。しかしこれからは「ベイ ジン(北京)・ベン」だ。

前者の呼び名は、バーナンキ米連邦準備制度理事会(FR B)議長が2002年の講演(当時はFRB理事)で、異例の政策 を「ヘリコプターからのマネーの投下」に例えたミルトン・フリ ードマン教授を引用したことから付けられた。後者は、バーナン キ議長のアジアにおける役割の高まりを表したものだ。

北京からハノイに至るまで、アジア各国の当局者は、低水準 の米政策金利がバブルをあおっているのではないかと懸念してい る。アジア株の2けた上昇に慣れてしまっている投資家は、来年 は環境がずっと厳しくなると覚悟する必要がある。バブル抑制に 向けて、より積極的な政策が採られるだろう。しかし、世界で最 もダイナミックな経済圏であるアジアから逃避すべきではない。 かといって、楽に利益が得られると考えるのも間違いだ。

FRBは既に米国内で批判を浴びている。どうやって世界に 影響を及ぼすようになったのだろうか。それは、中国と同程度な いしそれ以上に巧妙な為替操作国になることで可能になったのだ。

これは大きな功績であり、またこのおかげでFRBとアジア は来年の困難な状況への準備を整えた。香港やソウル、シンガポ ールの当局者は、銀行に危険な融資の縮小を求めた。中銀は行動 する用意があると示唆している。FRBのおかげで、ペースを加 速する必要がある。これは簡単なことではない。こうした措置は 政治家や一般市民と衝突する可能性があるからだ。

不公正慣行

中国や日本が米国の保護主義を批判するのはやや愚かなこと だ。確かに失業率が10%に達した米国は自分本位にならざるを 得ず、政策も修正している。ただ、不公正な貿易慣行という点で は、日中両国も米国を一方的に批判できる立場でないことも確か だ。

ドルに関する懸念は妥当であり、これによりバーナンキ議長 など米当局者に関心が集まっている。1年前、最大の懸念は外貨 準備だった。アジアの中銀は巨額の米国債を抱えており、その価 値は低下している。

FRBの国際化は、20年前からエコノミストの夢だった。 1997年のアジア危機や90年代後半のロシア危機にもFRBは支 援を要請された。投資家が、各国中銀の対応よりも米当局の反応 に注目することもしばしばだ。

2008年10月にはFRBはブラジル、韓国、メキシコ、シン ガポールの各国中銀にそれぞれ300億ドルを提供した。問題は、 最近の米国の政策に責任感が欠如していることだ。

グリーンスパン・プット

バーナンキ氏は06年に、相場下落時には必ず助けてくれる というFRB議長の弱点をやゆした「グリーンスパン・プット」 という表現を残したグリーンスパン氏から、難しい状況のなか、 FRB議長の座を引き継いだ。

その1年半後、信用危機が深刻化し、バーナンキ議長はゼロ 金利に向け利下げを進め、日本式の量的緩和策に着手した。日本 と同様に、この問題の根は、マネーサプライよりもむしろ金融シ ステムの機能不良と信頼の欠如にあった。

米国の融資が押し上げられるのではなく、流動性の行き先は アジアに変わった。上海総合指数は今年81%上昇。アジアの主 要株価指数の上昇率はジャカルタ総合指数118%、ボンベイ証券 取引所のセンセックス指数88%、台湾の加権指数72%、フィリ ピン総合指数66%、シンガポールST指数64%、タイSET指 数59%、韓国総合株価指数57%、香港ハンセン指数57%、ベ トナムン株価(VN)指数56%となっている。

過熱への警鐘

中国銀行業監督管理委員会(銀監会)の劉明康主席は「裁定 取引を通じたドルでの巨額投機」に警鐘を鳴らしている。香港の 曽蔭権行政長官はFRBが次の世界的危機を引き起こす可能性が あると指摘。日本銀行の白川方明総裁は、新興国経済が「過熱し、 金融不安」を招く恐れがあるとの認識を示した。

強い警告の言葉が飛び交っているが、これらは「ベイジン・ ベン」のマネーが市場を圧倒しており、今後インフレを増幅させ るのではないかとのアジア各国の懸念を象徴している。

モルガン・スタンレーの元アジア担当チーフエコノミスト、 謝国忠氏は「非常に多くのホットマネーが流入している。これは FRBの金融政策が引き起こしている」と説明した。

アジアにも批判されるべき点がある。大型の債券市場を創設 できなかったために、アジアの株式市場はバブルが生じやすくな っている。しかし、謝氏は、中国人民元をめぐる大騒ぎは、世界 最大の為替操作国である米国から目を逸らさせる働きをしている と指摘する。アジアの株や債券、不動産市場への極めて投機的な 投資を後押ししているのは、いわゆるドル・キャリートレードで あり、同氏は米政策金利が4-5%に上昇するまでこれが沈静化 することはないと予測する。

現在の事実上のゼロ金利からこの水準まではずいぶん長い道 のりだ。またFRBは、金融政策の決定において海外情勢を考慮 しないもようだ。米セントルイス連銀のブラード総裁は先週、高 騰するアジア市場を考慮するよう米国の政策を調整するのは「現 実的ではない」と発言している。

「ベイジン・ベン」がもたらした過剰流動性に対処する責任 はアジアにある。それには、かつてない大規模な措置が必要とな るだろう。 (ウィリアム・ペセック)

(ウィリアム・ペセック氏は、ブルームバーグ・ニュースの コラ ムニストです。このコラムの内容は同氏自身の見解です)

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