【書評】米国人元新聞記者がえぐり出す日本の闇社会

元読売新聞記者のジェイク・アデ ルスタイン氏の近著「トーキョー・バイス」は、居直ったヤクザから 始末するぞと静かな脅しを掛かけられた著者が、たばこの煙をもくも くと上げながら取材戦略を練るシーンで始まる。

同書はアデルスタイン氏が警視庁記者クラブメンバーで唯一の米 国人記者として連続殺人事件などを追いかけた12年間の取材の追想 録で、ヤクザの中でも特に暴力的な勢力をかぎまわって窮地に陥るに 至った経緯が描かれている。

「トーキョー・バイス」に収められたのは、後藤忠正氏という病ん だヤクザのボスと手下の3人がどうやって米当局のお膳立てで米国で の肝臓移植手術にこぎつけたかを探ったアデルスタイン氏の調査報道 の記録。今回の出版は結果的に、アデルスタイン氏の知名度を高め殺 害を難しくしたため、この本は著者の救い主とも言える。

アデルスタイン氏は「ヤクザをムカつかせるようになる」前は上 智大学の学生だった。ミズーリ州生まれの同氏はテレビ局や球団など も持つ日本の大手メディアの読売新聞の入社試験を気まぐれで受けた という。

超組織的犯罪

「トーキョー・バイス」は日本の警察と犯罪組織との複雑な関係を 説明する入門書だ。ヤクザは組織犯罪の「組織性」を重視する。暴力 事件を目立たぬようにしたり、社会に隠された欲望の一部である売春 や麻薬を提供したりすることで、警察当局や大衆から黙許されている という。

アデルスタイン氏が警視庁を担当していた時期に、ヤクザは恐喝 と売春、麻薬から、不動産詐欺や株式市場操作にまで手を広げていっ た。今でも東京証券取引所はヤクザの市場への干渉を公式文書の中で 「反社会的勢力」と呼びながら遠まわしに認めている。

この本で詳述された最も有名な事件はルーシー・ブラックマン事 件。東京の歓楽街六本木でホステスとして働いていた英国人女性ルー シーさんが、後に複数の婦女暴行の罪で起訴された男の自宅近くで体 を一部切断された形で発見された事件だ。この事件の取材を通じてア デルスタイン氏は日本の風俗産業の世界に深く潜入していくことにな った。

アデルスタイン氏はその間ずっと、自身の外国人としての特異性 を強みとして利用できたという。米国人を抹殺すれば警察から一斉摘 発されかねないというヤクザの不安が自身の命を救ったと同氏は記し ている。また米中央情報局(CIA)やイスラエルの情報機関モサド のスパイではないかと疑われたことで命拾いしたという。

ほめ殺し

アデルスタイン氏はある凶悪犯から「間抜けで鈍感で、頑固で無 謀だが、それこそ良いジャーナリストを作る要素だと思う」とお世辞 を言われたと記しており、この本の大部分でこうした同氏に対する 数々のほめ殺し発言が映画タッチで再現されている。

同氏の語り口は心をつかむものだが、結末の紹介を急ぐ筆者の緊 張感ものぞかせる。この本で最も迫力のある部分である後藤氏の肝臓 移植話は、冒頭に触れられた後、再び登場するのは250ページ後だ。

後藤氏は過去と縁を切り仏門に入ったという僧侶の話をアデルス タイン氏は懐疑的に伝えているが、東京で少しでも安心して暮らすに は十分かもしれない。

(ロッキー・スウィフト氏はブルームバーグ・ニュースの記者で、 内容は同氏自身の見解です)

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