有利な気配値を選べ、日本株のPTS取引拡大-10月売買代金は最高

証券会社が設立した電子私設取引 システム(PTS)で、株式の取引量が増えている。投資家は証券取 引所と複数のPTSの気配値を比べ、より有利な条件で発注できれば 執行コストを引き下げられるため、海外勢を中心にPTSの利用が拡 大。10月の売買代金は過去最高を記録し、ジャスダック市場を大きく 上回った。

東京・六本木のクレディ・スイス証券内にある「統合板」には、 取引所と複数のPTSから提示される同一銘柄の気配値が並び、最良 の気配値、ベストビッド(買い提示)、ベストオファー(売り提示)を 出す市場を見つけては、コンピューターが瞬時に注文を飛ばしている。

「外国人投資家に持っていくと、翌日からやってくれと大人気だ」 ――。クレディS証株式本部の濱田智彦プログラムトレーディング部長 は、同証が提供するSOR(スマートオーダールーティング)サービ スについてこう話す。

PTSは、証券会社が市場開設者となり、顧客の売買注文を取引 所に取り次がず、電子システムの私設市場内で売買を成立させる仕組 み。ITの活用で迅速、低コストでの取引が可能で、欧米を中心に発 達してきた。米国では、ナスダック銘柄の約4割がPTS経由だ。

10月売買代金は過去最高

国内上場の普通株式、投資信託ほぼすべてが扱われ、取引所とP TSでは同一銘柄でも気配値が違う。日本のPTSは個人向け夜間市 場のイメージが強かったが、カブドットコム証券やSBIジャパンネ クスト 証券などが昼間の市場を昨年開設、クレディSやUBSなど主 に外資系証券がこれに参加した。先駆けのインスティネット証券を含 め、昼間に取引可能なPTSは4社体制となり、投資家はリアルタイ ムで複数の気配値を比べ、取引所よりも高く売却、安く購入可能な銘 柄を探せるようになった。

日本証券業協会の運営するPTSインフォメーションネットワー クが24日発表した統計によると、10月のPTSの売買代金は3566億 円と前年同月比72%増え過去最高を記録、同月のジャスダック市場の 3057億円を大きく上回った。株式市場全体の売買代金に占めるPTS の割合は1%と初めて1%台に乗せ、昨年(0.1-0.2%台)との比較 で着実にシェアは高まっている。

カブコム証の石川陽一執行役・PTS推進室長は、「PTSの利点 は『呼び値』の刻みが東京証券取引所より細かいこと」と説明する。 株価の変動幅を示す「呼び値」の刻みは、東証では「3000円超3万円 以下」なら10円、「3万円超5万円以下」なら50円で、3万円のある 企業の株価に売り注文が集まれば、2万9990円、2万9980円と下が る。これに対し、「3万円以下」で1円、「3万円超30万円以下」で 10円のカブコム証では、2万9999円、2万9998円と低下する。

課される義務、アローヘッド

取引所では多くの会員証券会社を抱え、システム的に刻みをPT Sほど小さく出来ない。PTSは、流動性の少なさから大量の注文は 一気にさばけない状況にあるが、投資家からすれば、東証と複数のP TSへの分散化することで執行コストを低下させることは可能だ。

PTS拡大の背景には、海外投資家の執行コストの削減意識の高 まりがある。2007年に米国は「レギュレーションNMS(全米市場シ ステム規制」、欧州は「MiFID(投資サービス指令)」を施行、最 良執行義務が厳格に課せられた。顧客から預かる保有資産のぶれを最 小限に抑えようと、希望に近い価格で取引可能な市場を求める流れが 強まっている。

こうした中、東証が来年1月に開始する次世代売買システム 「arrowhead(アローヘッド)」をきっかけに、PTSは飛躍的に拡大 するとの見方が出てきた。クレディSの濱田氏は、「東証の売買処理速 度は世界的に見て恥ずかしくないレベルになる」と指摘。インフラが 整い、コンピューターシステムが自動的に株式の売買注文のタイミン グ、数量を決め注文を繰り返すアルゴリズム取引が機関投資家の間で 増え、東証の代替市場としての存在価値が増すという。システムが高 速化すれば、有利な市場を瞬時に選ぶことが一層可能になるわけだ。

決済リスク、集中義務撤廃から10年超

昨年の金融危機で高まった決済リスクへの対応も進む。取引所の 取引では、日本証券クリアリング機構が清算業務に当たり、決済履行 を保証している。現時点でPTSは清算対象になっていないが、同機 構は「清算対象取引に追加するための制度改正等の所要の対応に着手 することを決定した」と10月に発表。細村武弘・リスク管理グループ 統括課長によると、「来年7月までに当局対応やシステム整備を終える 予定」という。

SBIジャパン証の福士光徳代表取締役は、「東証のシェアを奪お うということではない。競争原理が働き、市場はより魅力的になる」 と話している。利便性が高まれば新規資金を呼び込み、全体のボリュ ームアップにつながるとの考えだ。東証の深山浩永常務も、「お互いに 競争し合った方が良い。われわれはメインでいる努力をする」と、P TSとの市場間競争を受け入れ、存在感の維持に意欲を見せた。

国内で「取引所集中義務」が撤廃されたのは1998年、その後も取 引所での価格を正当とする風潮が強かった。PTSが全体市場に占め る割合はまだ1%に満たないが、投資家の利便性向上につながる競争 原理が、国内市場間でようやく浸透し始めたと言える。株式を売買で きるのは取引所だけ、そんなかつての常識は静かに崩れ始めた。

    最新の情報は、ブルームバーグ端末にて提供中
    LEARN MORE