金融犯罪に手を染めた元米ミス・ティーンの転落人生-ガリオン道連れ

ダニエル・キエシ被告(44) はこれまでの10年間、ホテルのダンスフロアとバーで過ごすことが 多かった。

約10億ドル(約890億円)を運用するニューヨークのヘッジフ ァンド会社、ニュー・キャッスル・ファンズのアナリストとして、同 被告はハイテク株関連会議の常連だった。会議ではハイテク企業の幹 部と一対一で、マイクロプロセッサー(MPU、超小型演算処理装 置)やソフトウエアを四半期中にどれだけ出荷するかを根掘り葉掘り 尋ねることができた。

キエシ被告を長年知る人によると、彼女はミニスカートに胸元の 開いたトップを重ねるスタイルが常だった。一緒に会議に出席した1 人によれば、彼女の手法は複数の人物とバーで飲みながら、1人をダ ンスに誘い出して話を聞くというものだった。

ブロンドで青い目、元ミス・ティーンエージャーのキエシ被告は、 女性としての魅力を武器に、男性中心のハイテク企業のなかで情報源 を開拓していったと、投資家向け広報(IR)会社、ステープルト ン・コミュニケーションズ(カリフォルニア州パロアルト)のデボ ラ・ステープルトン社長は話す。

「お金があって、成功していて、仕事熱心な大人の男性が、次々 と彼女の手練手管に引っ掛かるのには驚かされた」。キエシ被告は自 身の情報網を誇りにしていたという。「情報源について皆の前で自慢 していた。ロックスターと知り合いだと皆に触れ回りたがるティーン エージャーのようだった」と同氏は振り返る。

一線

米当局は、キエシ被告が秘密の情報を追い求めるあまり一線を越 えたと考えている。当局は同被告を含め20人を証券詐欺で摘発した。 1980年代以来で最大規模のインサイダー取引事件となっている。

当局は、キエシ被告がハイテク企業幹部から情報を得て他のヘッ ジファンド運用者に伝えたと主張している。その1人がニューヨーク のヘッジファンド、ガリオン・グループの創業者で富豪のラジ・ラジ ャラトナム被告だった。同被告は無罪を主張している。キエシ被告の 弁護人のアラン・カウフマン弁護士によると、キエシ被告も無罪を主 張する意向。

キエシ被告は2008年に70億ドルを運用していたラジャラトナ ム被告に比べれば小物だ。ただ、今回摘発された中で、キエシ被告の 情報源は社内の地位が最も高い人たちだった。捜査について知る関係 者によると、半導体メーカー、アドバンスト・マイクロ・デバイセズ (AMD)の会長兼最高経営責任者(CEO)だったヘクター・ルイ ス氏(63)とも定期的に会っていたという。

IBM

検察はキエシ被告がIBMの上級副社長だったロバート・モファ ット氏と交友があったとしている。同氏はサム・パルミサーノ最高経 営責任者(CEO)の後継候補と見なされていた。また、キエシ被告 がインターネット関連ソフトウエアのアカマイ・テクノロジーズに勤 める友人から正確な情報を入手したおかげで、ニュー・キャッスル・ ファンドは1週間内に240万ドル以上の利益を上げたと検察は主張 している。

キエシ被告の電話の盗聴記録は、クエンティン・タランティーノ の映画に出てくる会話のようだ。彼女は08年9月9日、ニュー・キ ャッスルでの上司、マーク・カーランド被告(61)との電話でAM Dについて、「ゆうべAMD幹部と電話で話してモファットを家に呼 んだんでしょう?そうでなかったら誰が買うのよ?」と口にしている。 カーランド被告も彼女とともに逮捕されている。

キエシ被告は何年間も法令違反を犯していた可能性がある。ニュ ー・キャッスルを09年1月まで保有していた米証券会社ベアー・ス ターンズの幹部は、5年の間に少なくとも1回、インサイダー取引の 疑いで同被告を調べていたと、調査について知る複数の関係者が述べ ている。ベアー・スターンズ幹部はキエシ被告が非公開の情報をAM Dの幹部から得ていると考えていたが、調査では結論は出なかったと いう。ベアー・スターンズを買収したJPモルガン・チェースの広報 担当者、メアリー・セダラット氏はコメントを控えた。

「もっと情報を探して来い」

ニュー・キャッスルのマネジング・ゼネラル・パートナーのカー ランド被告は、キエシ被告の情報源開拓を奨励していたことが、米当 局の盗聴から分かった。カーランド被告は08年8月22日の電話で の会話で「もっとやるべきだ」と勧め、「とにかく情報を得ることだ けに集中していればいい。数字のことは考えるな」と述べていた。

キエシ被告の情報源開拓は実を結んだ。当局によれば、彼女が集 めた情報を利用してニュー・キャッスルは08年7月からの半年で 380万ドルをもうけた。これは米司法省が詳細を知る取引のみの利益 だという。

ベアー・スターンズの元社員らによると、ニュー・キャッスルの ハイテク株アナリストとしてキエシ被告は米国の西海岸のハイテク企 業や情報提供者を頻繁に訪れていたという。事情に詳しい複数の関係 者によれば、訪ねる相手の1人がAMDのルイス氏だった。ルイス氏 は訴追の対象とはなっていない。同氏はスポークスマンを通じてコメ ントを拒んだ。

ヘッジファンドで働くアナリストにしては珍しく、キエシ被告は 金に困っていた。彼女が住むニューヨークのマンションの理事会が 06年に1万1301ドルの不払いを理由に立ち退きを求めたことが裁判 所の記録に残っている。また、6万3226ドルの税金の滞納で米内国 歳入庁(IRS)によって、所有マンションに抵当権を設定されてい る。

やつれた写真

今年10月16日にマンハッタンの米連邦捜査局(FBI)の前 で撮影した写真では、金髪を短く切り、ゆったりとしたセーターを着 たキエシ被告はやつれて見える。検察は保釈の条件として薬物検査と 治療を受けることを命じるよう裁判所に求めた。弁護士のカウフマン 氏は、それは事件と関係ない事柄だと述べた。

キエシ被告の母親のグロリアさんは娘の無実を信じている。「世 界で一番正直な子」で「内面も外見も美しい子だ」と娘を称賛。「で もあの子はひどく困った状況にある。この世の地獄だ」と付け加えた。

当局がインサイダー取引捜査の輪を広げれば、もっと多くの人が 地獄を体験することになるだろう。そうなっても、キエシ被告ほどの 熱意を持って仕事をした人間は見つからないかもしれない。そして、 シリコンチップとソフトウエアを売る男たちは、自身も捜査の渦中に 飲み込まれない限り、業界会議のたびにダンスフロアの花として輝い た金髪の美女にお目にかかれないことを、寂しく思い続けることだろ う。

(英語原文は「ブルームバーグ・マーケッツ」誌1月号に掲載)

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