日銀総裁発言要旨:中央銀行として貢献できることがあるか常に考える

【記者:日高正裕】

11月20日(ブルームバーグ):日本銀行の白川方明総裁は20日午 後の定例会見で、経済・物価情勢について次のように述べた。

――本日の決定の背景について。

「わが国の景気は、国内民間需要の自律的回復力はなお弱いもの の、内外における各種対策の効果などから持ち直していると判断した。 持ち直しているとの認識ではあるが、このような動きは現在の各種対 策の効果に支えられている面が大きく、設備投資や個人消費の自律的 回復力はなお弱いとの慎重な判断をしている」

「公共投資が振れを伴いつつも増加を続けている。輸出や生産は 内外の在庫調整の進ちょくや海外経済の改善、とりわけ新興国の回復 などを背景に増加を続けている。設備投資は厳しい収益状況などを背 景に減少してきたが、最近では下げ止まりつつある。個人消費も各種 対策の効果などから耐久消費財を中心に持ち直している。ただし、個 人消費を支える雇用・所得環境は引き続き厳しい状況が続いている」

「この間、金融環境をみると、厳しさは残しつつも、春以降、改 善の動きが続いている。すなわち、極めて低い金利水準が続いている ほか、企業金融面でもコマーシャルペーパー(CP)、社債市場では低 格付け社債を除き良好な発行環境が続いている」

「先月末にCP、社債の買い入れを12月末をもって完了すること を決定したが、その後もCPや社債のスプレッドは落ち着いている。 「また、企業の資金繰りも中小企業中心に厳しいとする先が多いもの の、改善の動きが続いている」

「物価面では、消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、経済全 体の需給が緩和した状態が続く中、前年における石油製品価格高騰の 反動などから下落している」

「先行きの見通しは前回の経済・物価情勢の展望(展望リポート) で説明した通りだ。2010 年度半ばごろまでは、米欧におけるバランス シート調整や国内での雇用、賃金面での調整圧力の残存などから、わ が国経済の持ち直しのペースは緩やかなものにとどまる可能性が高い。 その後は輸出を起点とする企業部門の好転が家計部門に波及してくる とみられるため、成長率は徐々に高まってくると予想される」

「物価面では、中長期的な予想物価上昇率が安定的に推移すると の想定の下、石油製品価格などの影響が薄れていくため、消費者物価 (除く生鮮食品)の前年比下落幅は縮小していくと考えられる」

「リスク要因についても、展望リポートで指摘した点と変わって いない。景気については、新興国・資源国の経済情勢など上振れ要因 がある一方で、米欧のバランスシート調整の帰すうや企業の中長期的 な成長期待の動向など、ひところに比べれば低下したとはいえ、依然 として下振れリスクがある」

「物価面では、新興国・資源国の高成長を背景とした資源価格の 上昇によって、わが国の物価が上振れる可能性がある一方、中長期的 な予想物価上昇率の低下などにより、物価上昇率が下振れるリスクも ある。以上のような情勢判断を踏まえ、日銀としては極めて緩和的な 金融環境を維持し、わが国経済が物価安定の下での持続的成長経路に 復帰していくことを粘り強く支援していく考えだ」

――今回の公表文では「当面、当面、現在の低金利水準を維持する」と の文言がないが、その理由は何か。政策運営のスタンスに変わりはな いのか。

「結論から言うと、政策面でのスタンスに変化は全くない。少し 技術的にお答えすると、前回の声明文では、CP、社債の買い入れな ど各種時限措置の取り扱いの見直しを決定した」

「その際、時限措置の見直しが直ちにマクロの金融緩和措置の変 更につながるものではないということを明確にする趣旨から、当面、 現在の低金利水準を維持するとともに、金融市場における需要を十分 満たす潤沢な資金供給を通じて、極めて緩和的な金融環境を維持して いくという方針を示した。こうした考え方については今も全く変わり はない」

「これまでも、毎回の公表文では、経済、物価情勢の評価を2つ の柱に基づいて整理するとともに、先行きの金融政策運営の考え方を 示している」

「今回は時限措置の取り扱いうんぬんという案件がない中で、本 日の公表文では従来同様の発表方式を踏襲し、先行きの金融政策運営 方針として、極めて緩和的な金融環境を維持していくとともに、わが 国経済が物価安定の下での持続的成長経路に復帰していくことを粘り 強く支援していくことを示した。こうした考えも、展望リポート公表 時から変わっていない」

――政府は先ほど「物価の動向を総合してみると、緩やかなデフレ状況 にある」として、いわゆるデフレ宣言を行った。政府の見解をどのよ うに受け止めているか。また、現在はデフレと言える状況にあるのか。 さらに、追加的な金融緩和を検討する必要はないのか。

「わが国の物価動向をみると、出発点となる今年度前半までの需 要の落ち込みが極めて大きかっただけに、物価下落圧力がかなり長い 期間残存する可能性が大きいと判断している。こうした物価の状況を どのような言葉で表現するかどうか、デフレにはさまざまな定義があ るので、論者によって異なる性格のものだと思う」

「ただ、いずれにせよ、緩やかなデフレ状況にあるとの今回の政 府の見解は、持続的な物価下落という定義に基づいたものであり、そ うした物価動向の評価という点では、以前から日銀が展望リポートで 示している考え方と異なっていないと考えている」

「物価の変動をどう考えるという点だが、物価は短期的にはさま ざまな要因で変動するが、持続的に物価が下落するということは、マ クロ的な需給バランスが緩和していること、言い換えると、需要の弱 さの結果として生じる現象だと思う」

「従って、そうした状況を改善するためには、根本的な結果では なくて、根本的な原因に働き掛ける、つまり設備投資や個人消費とい った最終需要が自律的に拡大する環境を整えることが不可欠であって、 家計の将来の安心感や、企業の成長期待を確保することが最も大事な 課題だと認識している」

「こうしたことを意識しながら、政府、中央銀行といった政策当 局と民間経済主体がともに努力をしていくことが必要であると考えて いる。この点、日銀としては、企業や家計の経済活動を金融面から支 えるために、極めて緩和的な環境を維持し、わが国経済が物価安定の 下での持続的成長経路に復帰していくことを今後とも粘り強く支援し ていくという方針だ」

――デフレ的な状況から脱却するために、追加緩和の選択肢についてど う考えるか。

「この文脈でよく行われている議論は、中央銀行が流動性をもっ と供給すれば、あるいは中央銀行がもっとバランスシートを拡大すれ ば、デフレは収まるのではないか、という議論が出発点としてある」

「日銀は金融機関に対して潤沢な流動性を供給しているし、そう いう姿勢で臨んでいる。そうした日銀の量を潤沢に供給する姿勢の効 果、あるいは成果は、直接的には金融市場の安定度で測られると思う。 この点、この1年間、各国の中央銀行はバランスシートを拡大したが、 欧米と日本を比較すると、日本の金融市場は確かに不安定化したが、 欧米に比べるとはるかに安定していた」

「日銀が金融機関に潤沢な流動性を供給することは、その面では 相応の効果が出ていると判断している。この点は現に行っていること だ。それから多分、流動性、あるいはマネーという点では、金融機関 が持っている流動性だけでなく、最終的に個人、あるいは企業がどの 程度流動性を持っているか、あるいはどの程度借り入れができるかが 重要だ」

「まず、後者の貸し出し、企業や個人からみると借り入れについ て数字を見ると、欧米ではリーマン破たん以降、特に銀行による企業 向け貸し出しの伸び率が急激に低下し、足元ではマイナスになってい る。この1年間の伸び率の低下は急激なものがある。それと比べて、 日本の銀行貸し出し、あるいは銀行における企業貸し出しをみると、 昨年のリーマン破たん以降、伸び率はむしろ高まっている」

「貸し出しは今年年初をピークに伸び率は徐々に下がっており、 この後も伸び率は下がると思うが、この1年くらいの変化をみると、 最終的な流動性という点から見て、欧米に比べ日本の方がはるかに状 況はよかった。これも日銀による流動性の供給だけではないが、出発 点である流動性の不安を断ち切ったことがやはり1つの要因だった」

「それから、より直接的に、企業なり個人が保有する預金、つま りマネーサプライが名目GDP(国内総生産)との比率でどの程度あ るかという比率をみると、もともと日本はこの比率が欧米対比高いが、 この1年間の変化をみても欧米に比べて決して低くなく、むしろ若干 高い。その意味で、日銀自身もこれで完全だというつもりはないが、 量、流動性を潤沢に供給するという姿勢を示して現実に供給している」

「そのことが経済が落ち込むことを防いでいる。経済全体が大き な流動性制約に直面しているときに流動性を供給することは、物価の 下落を防ぐ上で大きな効果がある。ただ、いったん経済がそうした大 きな流動性制約が原因となって投資が行われない状況でないとき、つ まり需要自体が不足しているときには、流動性を供給するだけでは物 価が上がってこない。この点は今回の米国の経験を見ても分かる」

「現在、中央銀行が供給している超過準備の対GDP比率を見る と、日本の量的緩和の時が5.8%、米連邦準備制度理事会(FRB) は現在6%台だと思うが、要するに、日本の量的緩和時代、それから 現在のFRBも超過準備、流動性をたくさん供給しているが、そのこ と自体によって物価を押し上げていく効果は乏しい。流動性制約が経 済活動を縛る状況でない局面では、物価を上げる力はない」

「これは、流動性供給が物価に対して影響がないということでは なくて、流動性制約がネックになっている時は、物価が下がることを 防ぐ上で効果があるということであって、そうでない時に流動性の効 果は限られているということを示している。いずれにせよ、日銀は現 在の低い金利水準を維持していくことを既に発表しているし、これを 通じて経済活動を支援していくという姿勢には変わりはない」

――政府との認識に差異があるとは認識してないか。

「どういう言葉で表現するかは別にして、経済、物価情勢の認識 について差異があるとは全く感じていない」

――追加緩和は必要ないのか。

「金融政策の効果は1年半から2年、あるいはもっと長いかもし れないが、効果が波及するには時間がかかる。加えて、現在は世界的 に加わったショックが大きいので、さらに時間がかかるかもしれない。 重要なことは、今の経済の経路が、最終的に物価安定の下での持続的 な経済成長を展望できる軌道にあるのかどうか、ということだ」

「これについてはさまざまな不確実性があるので私どもとして注 意深くみていくが、この前の展望リポートでお示しした姿というのは、 そういう展望が開けていく。足元については厳しい状況であることは 十分認識しているが、開けていくという判断だ。ただ、いずれにして も、中央銀行としてその時々の環境の中で、中央銀行として貢献でき ることがあるかどうかは常に考えていく。中央銀行はそういう組織だ」

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