国債増発に「市場の反乱」、年末にもトリプル安へ-藤巻氏

モルガン銀行(現・JPモルガ ン・チェース銀行)で伝説のディーラーとの異名をとり、東京支店長も 務めた藤巻健史氏は、財政規律の働かない計画経済国家の日本に対し、 早ければ今年末にも「市場の反乱」が起きると予想する。長期金利は 5%前後へと上昇を始め、株安・円安を伴うトリプル安の日本売りにつ ながる恐れもあると言う。

投資助言会社フジマキ・ジャパンの代表取締役の藤巻氏(59)は 13日のインタビューで、日本の財政事情は「極限に来ているが、規律 は全く感じられない」と指摘。巨額の累積赤字に加え、30兆円台後半 の税収と90兆円超の歳出計画は「とんでもない話」と言い、数兆円程 度の見直しでは「どうにもならない」と述べた。

市場の財政赤字懸念は、過去の例を見ても「ある時期にガタッと来 る」と藤巻氏は語った。日本の国債相場は「早ければ来年度の国債増発 額が明らかになる12月」に急落(金利は急騰)しかねないと言う。ひ とまず「悪材料出尽くし」と市場が受け止めた場合でも、その後は入札 の度に消化懸念が浮上し、相場が崩れていく可能性があると話した。

財務省によると、国債と借入金、政府短期証券を合わせた「国の債 務残高」は9月末に864兆5226億円と過去最大を更新。国際通貨基金 (IMF)は3日公表した報告書で、日本政府の債務残高が対国内総生 産(GDP)比で2007年の187.7%から09年は218.6%、14年には

245.6%に膨らむと予測した。

長期金利、乱高下

鳩山由紀夫内閣が編成する10年度の一般会計予算は、概算要求の 段階で過去最大の95兆381億円。税収は09年度に続き、40兆円を下回 る公算が大きい。長期金利の指標とされる新発10年物国債利回りは10 日の相場で一時、約5カ月ぶりに1.485%まで上昇した。

藤井裕久財務相は同日、財政赤字の拡大に危機感を表明。来年度の 増発額を今年度補正予算後の約44兆円以下に抑える意向を示した。13 日には、概算要求総額から「間違いなく数兆円」削ると発言。10年債 利回りは18日に1.30%を割り込み、ひとまず約1カ月ぶりの水準まで 低下した。

長期金利の本格的な上昇が始まった場合には「5%前後まで上昇す る」と見込む藤巻氏は、1998年末から翌年2月にかけての「資金運用 部ショック」時の2.4%台では収まらないと分析する。87年には 「2.5%台から約6%へ急騰した」と指摘し、足元の1.3%台から「同 様の上昇があってもおかしくない」と言う。

「3カ月間で3%」といった金利急騰は、財政破たんを懸念した 「日本売り」だと、藤巻氏は強調する。また、株価と円相場の急落を伴 うトリプル安になると予想し、97年にアジア諸国を襲った経済危機が 日本に到来する可能性も「ゼロではない」と話す。「戦後、何十年もか けて築き上げてきた豊かさが瞬時になくなり、ゼロから再スタートを切 ることになる」「何としても避けなくてはならない」とも語った。

買い手不在

藤巻氏は世界的な金融危機が発生する前の06年6月に行ったイン タビューでも、長期金利が6%に上昇する可能性があると述べていた。 今回、日本の財政破たん懸念が強まる背景として、毎年度の国債増発を 消化する新規資金が続かなくなる点を挙げた。

債券相場を下支えする投資家の需要動向については、貸し出しが伸 びない銀行勢が買う面はあるが「20兆円程度」と分析。亀井静香金融・ 郵政担当相の下、日本郵政傘下のゆうちょ銀行などが買い増すとの思惑 は市場にあるが「すでに資産の約8割が国債投資に回っている」と述べ た。また、日本銀行による買い入れ増額にも限度があり、財政規律を重 視する外国勢は手を出さないと指摘した。

財政の抜本的な立て直しのためには「市場原理が働かない硬直的な 計画経済」という日本の政治・経済・社会構造を改める必要があると、 藤巻氏は強調する。長期金利の急騰と株価・円相場の急落という「市場 の反乱は、その悲劇的な契機になり得る」と話し、日本経済が本格的に 回復するための適正水準は1ドル=200円だとも述べた。

米国はドル防衛へ

ドル基軸通貨体制は崩壊しないと予想する藤巻氏は、基軸通貨の発 行権は「最大の国益であり、米国が放棄するはずがない」と指摘する。 相場水準は下がっても、世界最強の軍事・政治・経済力に裏付けられた ドルに代わる通貨はないと言う。

米国が抱える財政・経常収支の「双子の赤字」は「大した問題では ない」と発言。米国は税収の規模が大きく、対外投資収益率が高いため 所得収支が黒字なので、財政破たんの懸念は強まらないと話した。

インターコンチネンタル取引所(ICE)のドル指数は16日に一 時74.679と08年8月以来の安値をつけた。対円では1月に1ドル=87 円13銭と95年7月以来のドル安・円高水準を記録。10月7日にも88 円1銭をつけた。戦後のドル最安値は95年4月の79円75銭。

日銀の金融政策に関して、藤巻氏は「円安が目的」との声明を伴う 金融緩和策やマイナス金利の導入を主張した。輸出促進・輸入物価上昇 や金融機関の貸し出し増加を通じて、デフレ解消に有効だと語った。

藤巻氏は1950年生まれ。74年に一橋大学を卒業し、三井信託銀行 (現・中央三井信託銀行)に入行した。米ノースウェスタン大学大学院 で80年に経営学修士(MBA)を取得。85年にモルガン銀行に移籍し、 95年から2000年まで東京支店長。債券・為替などのトレーディングで 実績を上げ、当時の会長ダグラス・ウォーナー氏によって「伝説のディ ーラー」と渾名されたという。2000年には著名投資家ジョージ・ソロ ス氏の投資アドバイザーを務めた。

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